十一話:獣人族の族長たち
「しかし随分と話が逸れたな。まぁ、お互い変人揃いではあるから仕方ない気もするがな……」
「変人はシンだけにゃ」
「いや、俺が変人ならキラ先生もだろ!」
「具体的にどこら辺が変なんだい?」
「…………ごめん、一番まともかもしれない」
「…………ほらの?」
「あはは……ですが、それでまとまりが取れているのなら羨ましいですよ……。私たちでは、意見がまとまることなんて珍しいことですから……」
疲れた表情のラムさん。
意外だ。確かに個性的ではあるけど、全員族長らしく切れ者のような雰囲気を感じていたから、意見がまとまらないとは思えなかった。
「族長の仕事は、案外ほとんどないのよ。貿易も盛んじゃないし、医療場とかはやりたい人が勝手に作ってくれるから私たちが介入する余地もない。族長はあくまで、いざという時の司令塔だから」
「はい……だから、私のような者でも成れたのです……」
「獣人族の族長に政治能力は必要ないの。何もしなくても、みんな勝手に生きるから。……実力主義っていうのはそういうことよ。政治能力よりも、非常時のための戦闘能力が重視されるの」
「帝国も似たようなものだな。もっとも、こちらの場合政治的な能力がなければ権力闘争で敗退することとなるが」
「代々の帝国皇帝に名君が多い所以じゃな。実力主義思想が濃いせいであまり知られてはおらんが」
帝国ほどの大国となれば、実力だけではなく頭脳も必要ってことか。
その点アニルレイ、というか獣人族の住む地域は狭い。アニルレイという都市はあっても、ここはあくまで、別々の種族が同じ場所に住んでいるだけの場所だ。
「連邦国家のようなものかな? 種族間のルールに従って、沢山の種族が規範を待って行動するってこと?」
「はい、その認識で合っています。同じ起源、同じ土地、同じ歴史……自然と、種族ごとの決まりも似て来ますし」
「法の統治じゃなくて、一人一人の道徳性に任せてるのか。…………理想の国家ですね」
「国家ではないですが、そう言われると嬉しいですね」
そう言ってラムさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「…………」
「……シーンー?」
「いでっ!」
エミリアに頬をギュッと抓られて、その痛みで俺は我に帰った。
周りを見ると、ラムさんは少し困った顔ではにかみながら、照れて赤くなった頬を掻いていた。
「やっぱりシン、猫耳好きだよねぇ……」
「うぐっ……」
ジト目を向けてくるエミリア。
そんなこと言われてもなぁ……。
と、俺がなんで言おうか困っていると、
「はいっ! 話を戻しますよ! 今大森林で起きている事件についてです!」
ラムさんがパンッと手を叩いて、グダグタになって来た空気を変えた。
「……うがっ?」
「…………おまっ! 魔眼は…………ってあれ?」
ラムさんから出ている真剣な空気を感じたのか、熊系獣人族長のベアさんが目を覚まてキョロキョロと辺りを見渡す。
石化してこの部屋の調度品の一つになっていたライマさんは、石化が解けた途端に変なことを喋り出して、今は一人気まずそうにしている。
「……すまん。寝ていた」
「謝れるじゃと……!?」
「謝れる、だと……!?」
「……どうしました?」
カイヤとは違う……! ベアさんは真面目だ! すぐ眠るだけのまともな人だ!
「? ……まぁ、良いです。さて、まずはお互いの立場を明らかにしましょう。寝ていたり、人の背中に隠れていた人がいたので、最初は軽く自己紹介なんてどうですか?」
「……すまない」
「ご、ごめんなさい……だって、翼とか尻尾のない人が怖くて怖くてぇ……」
胡座をかいた状態で軽く頭を下げるベアさんと、その場で土下座するガブリエルちゃん。
ガブリエルちゃんに至っては、床に白い翼で器用に『ごめんなさい』と書いている。
「いや、こちらもシンが話を大きく逸らした。これまでのことは、お互い水に流そう」
「ありがとうございます。アーサー……殿?」
「呼び捨てでも構わない」
「それでしたら、アーサーさんと呼ばせていただきます」
軽く一例したラムさんは、コホンと咳払いをした。
「私は、猫系獣人族長のラム。占術を少々嗜みますが、それほど強くはありません」
「……ラムは、魔力を元にした生物への知識が豊富なのにゃ」
グラムが、補足説明を入れる。
魔力を元にした生物と言えば、有名なのは精霊やアンデットだ。
精霊への知識はスーピルに負けるとしても、アンデットに関して気になることがあれば、彼女に相談するのも良いかも知れない。
そんなことを考えていると、ベアさんとライマさんの視線が俺に向けられていることに気が付いた。
「魔術師レイ・ゼロの弟子、シン・ゼロワンです。魔術師ですが、最近では剣や格闘の修練も行っています」
「なるほど……それで魔術師の割にヒョロっちくないんだな」
最近、学院の先生とか顔見知りの冒険者によく言われるんだが……やだな。俺、筋肉ダルマにはなりたくないんだけど。
「ねぇエミリア。俺ってそんなに体格変わった?」
「ううん。私は昔と変わらないように見えるけど……」
「……身体の外ではなく、身体の中の筋肉に関しての話だ」
なるほど…………分からん。
「戦闘のために無駄な筋肉が削ぎ落とされて、必要な筋肉が必要な量だけある身体ってことだ。アーサーも同じだが、人間としては理想の身体だな。教える奴が良いんだろうよ」
「あ、ありがとうございます……」
「そうだったのか……」
教えてくれる人と言えばレイ先輩だが、先輩、凄すぎだろ……。魔術師とは思えないんだが?
「ところでシンさんは、シン殿の方と呼んだ方が良いですかね?」
「眼帯をつけた忍び姿の少女が浮かぶので、それはちょっとやめて欲しいですね……」
「なるほど、分かりました」
ござる。
「魔法士のエミリアです。今は、強くなるためにシンに稽古を付けてもらってます」
俺が終わると、続いてエミリアが自己紹介を始めた。
その後も、順番はバラバラに、言葉を思い付いた者から勝手に自己紹介をしていく。
その度に、グラムの捕捉説明が入る。
正直に言えば、自己紹介に知らない情報はほとんど出てこなかった。
大剣を振り回す戦士のライマさん、防衛戦が得意な重戦士のベアさん、機動力が高いヒーラのガブリエルちゃん、どんな戦い方をするのか教えてくれないリムさん。
獣人族らしく、魔術師や魔法士はいない。やっぱり珍しいんだな。
「……ではまず、賢狼が現れた時の話を教えてくださいますか?」
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