きみのかおり。
初めて。みまんと申します。初めての作品で至らない点もたくさんありますでしょうが、お楽しみいただけたらなぁ…、なんて願っています。それでは。
「ぅはぁ………」
僕は大きく息をついた。
「ちょっとぉ。勝手に人のベッドにあがんないでよぉ!」
「だってぇ……」
「だってじゃないのー」
彼女の寝床は2段ベッドの上。
僕は彼女の家にあがる度にこの場所にきてしまうのだ。
だって、
「…いい匂い…………」
この狭い空間には、大好きな彼女の匂いが溢れている。
僕は枕に顔をうずめた。
「…前から気になってんだけどさぁ」
「んー?」
「…どんな匂いがしてるんですかねぇ?」
「………ぃ、いい匂い…」
「答えになってないよ」
くすくす、と彼女は笑う。
僕は、だって…、といって口を閉じた。
「ほら、降りて?もう時間だから」
彼女は僕が下に置いてきてしまったケータイをいじりながら言う。
彼女の家にいてもいいと言われたのはたしか18時までだったな、と思い出した。
今は、17時45分。
彼女は僕のケータイのロックを解除しようと頑張っている。
近くにあった抱き枕をぎゅっと抱き締めた。
ふんわりと彼女の匂いがして幸せな気分になる。
「ほら、降りなさい」
さっきより強い口調で彼女が言う。
「………」
抱き枕を離して仰向けになり、瞳を閉じた。
狸寝入りである。
「あ」
彼女はそれに感付いたように声をあげ、立ち上がったようだ。
みしみしと2段ベッドの梯子の軋む音がして、僕の足元のほうのマットが少し沈む。
「寝ちゃったんですかぁー?」
わざとらしく彼女が聞く。
僕は何も言わないが。
「おーい、起きろぉー」
彼女は人差し指で、僕のふくらはぎを足首のほうからつつつ、と優しくなぞる。
くすぐったい。
「…ぁっ……」
声が漏れてしまった。
僕はただでさえくすぐりに強いほうではないのだが、彼女の指はそういう魔法でもかかっているかのように僕をくすぐったく、気持ち良くさせる。
「んー?どぉしたのかなぁ?」
なんだこいつは。
彼女は天性のサディストなのだろうか。
つつつ、とのぼってきた指は、いつの間にか僕の脇腹をなぞっていて。
「…ふあっ………」
僕は声を堪えられなくて。
「ほら、寝てないのはわかってんだから。起きて?」
彼女は僕の首をなぞりながら言う。
僕は瞳を固く閉じてからぶんぶんと首をふった。
「……もう……………」
彼女は困ったように笑っている。
まんざらでもないようだ。
「…でもほらぁ、お家の人とか心配しちゃうよ?」
僕はまた首をふる。
「…そっかぁ………」
そう言うと彼女は黙り込んでしまった。
……どうしたのだろう。
そう思っていたら彼女は僕の足元から頭のほうへ移動を始めた。
薄く目を開けてみた。
彼女はにやにやしながらこちらへ右手をのばしてきていた。
また瞳を閉じると、少ししてから僕の左の脇あたりのマットがぐっと沈んだ。
彼女の右手はいまここにあるのだろう。
「起きて、お寝坊さん」
こころなしか彼女の声は楽しそうだ。
すると急に左脇のマットがさらに沈みはじめた。
つまり彼女が僕のほうにかがみこんでいるのだ。
「んむっ!?」
突然、僕の口は何かによってふさがれてしまった。
柔らかくて、あたたかくて。
なんだろう。
最初は彼女の指だと思った。
空いている、左手。
でも違った。
だって左手は僕の胸の上にあったから。
…もしかして、僕は恐ろしく鈍感なことをしてないだろうか。
一つの可能性にたどり着く。
心臓はばくばくと音をたてている。
顔は……。
わからないけど、きっと真っ赤なのだろう。
恐る恐る目を開けてみる。
クリーム色の天井。
まるい肩。
もさもさとした黒い髪。
思わず触りたくなるような耳。
すべすべで、きっとぷにぷにであろうほっぺた。
目の前に、それらはあった。
うん、間違いない。
僕は彼女にキスされていた。
初めての経験である。
どうしてよいかわからなくなった僕は、とりあえずもう一度、瞳を閉じてしまうことにした。
そのあと、どれぐらい時間は過ぎたのだろうか。
僕の口は、あのあつい、柔らかいものから解放された。
僕は薄く目を開けた。
彼女はまぶしいばかりの笑みを浮かべていた。
「ほら起きて」
彼女が優しく言ったから、僕は片目を開けてしまった。
たぶん、かなり鬱陶しそうな顔してるな、僕。
「顔、真っ赤だよ」
彼女がにやにやしていったので、僕は恥ずかしくなってしまった。
…わかってますとも、そんなこと……。
「……み、…見ないでくれ………」
僕は両手で顔を隠す。
あぁ、なんと弱々しい声……。
すると両手首をがっと掴まれ、ひろげられてしまった。
…なんという力だ……。
「……ぜんぶ、…ぜんぶ見せてっ?」
少し恥じらったように、でも無邪気に、彼女は笑った。
反則だよ、その笑顔は……。
「…ん………」
でも、やっぱり恥ずかしくて彼女の目は見られなくて、僕は斜め下をむいた。
「……かわいい…」
ぼそり、と彼女がつぶやく。
「…はぁ!?」
そんなことを言われたのは初めてで、また僕の顔はさらに赤みを増していくのだろう。
「…好きだよ」
…そんなストレートに言わないでほしい……。
僕には僕の心の準備というやつがあるのに。
少し間を置いてから、僕は口を開いた。
「…僕も……」
心の準備、完了である。
よいしょ、と重い体を持ち上げて、彼女の両手首を持って、なるべく真剣に、かつ優しく、僕は言った。
「お前のことが、好きだ」
彼女はむふふふふ、と笑った。
めったに顔が赤くなったりするたちじゃないのだ、彼女は。
まったく、ズルいヤツめ。
と、僕はつぶやいた。
彼女は可愛らしく、にこにこと笑っている。
本当は押し倒してしまいたかったけど、ぐっと堪えて彼女を抱き締めた。
「ん……?」
彼女は不思議そうな声をあげる。
僕は彼女の首筋に顔をうずめた。
なんとも言い難い、あの独特の匂い。
甘いようでそうではなく、
香水のようでもあるけど、それにしてはすごく人のにおいがする。
麻薬ってこんなかんじなのかなぁ、と僕は思った。
彼女の匂いは、酷い中毒性を持っていた。
「んよいしょ」
「あっ」
彼女が僕をひっぺがす。
せっかく人がリラックスしてたのに…。
「さぁ、もう帰んないと。うちも弟、帰って来ちゃうし。ね?」
うん、と仕方なく僕は頷く。
彼女は一足先にベッドから降りたようだ。
僕ものそのそと、そのあとに続く。
「心配しなくても、大好きだから」
梯子を降りた僕の耳元に背伸びをした彼女が囁いた。
「ん」
ぶっきらぼうに返事をして、彼女の頭をなでなでしてやる。
猫みたいに甘える彼女は、まぁそりゃもうめちゃくちゃかわいくて。
「それじゃぁ…ね?」
サンダルを引っ掛けて僕は彼女を振り返る。
切ない。
「うんっ。じゃぁねぃ」
僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は無邪気に笑う。
まぁ、知らないんだろうけどさ。
ふう、と息をついてドアを開けた。
「またねっ」
最後に彼女が可愛らしく言ったので、全部許してしまおう。
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