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スカイアドベンチャーの楽しい学園生活  作者: 紅藤
スカイアドベンチャーとスキル ~三年生~
93/116

斧戦士と奮起2

 

「……」


 攻撃してこないトキワに、リガットは何度も攻撃を仕掛ける。

 SPの無駄が気になるとはいえ、これは鬱陶しい。


 苛立ったトキワが右手を背中側に回す。

 背中にしまった斧で、攻撃を跳ね返そうとしたのだ。

 そのときだ。


「……当たった!?」

「避けきれなかったか」


 リガットの攻撃が当たり、トキワのHPバーが黄色になったのは。


 満タン時、緑色のHPバーは、体力が減るにつれて、色が変わる。

 1/5を切ったリガットのHPバーは、とっくの昔に赤色。

 どっかのゲームだったら、BGMが変わっているところだ。


 大剣にぶん殴られた傷を見ながら、トキワはチェリルの姿を探す。

 客観的に見れば、かなりまずい状態。

 トキワの攻撃は効かず、リガットの攻撃は当たる。

 ほとんどの観客が、いまやリガットの勝利を疑わないなか、トキワ最愛の人は何をしていたかというと、目に涙を浮かべながら小さな声で応援していた。


「……がんばれ!」

「おまえ、そんな声じゃ聞こえないと思うぜ」

「いや、大丈夫でしょ。斧戦士は地獄耳だから」

「うーん、周りが全部リガット派だからなあ。ちょっと声、出しづらいよな」


 泣いてる。


 ほかの三人の会話は全スルーして、トキワは考えた。

 魔法使いさんを悲しませちゃ、駄目だ。

 原因は、負けそうなおれと、調子に乗っているリガットにある。


 勝たなきゃ。

 勝って、魔法使いさんを笑顔にしてあげなくちゃ。


「ちょっと本気出すか」

「教師相手に手加減する生徒って、マジどういう構図なんだろうな」

「普通は逆だもんな」

「分かっててやってるとか、もうね、リガットさん怒りますよ」

「怒ってみればいいんじゃね」


 トキワの適当な返事に、痺れを切らしたリガット。

 学生時代、自ら作り出した奥義、岩砕波を放ってトキワに大ダメージを与える。


 衝撃でえぐられたスタジアムの土が、砂ぼこりとなって視界を遮った。

 トキワは盲目の状態異常耐性Maxなので、なにも困らなかったが、リガットは奇襲を恐れて後ずさった。

 トキワは距離をとったリガットを静かに見つめている。


「なんで何も仕掛けてこないんだよ?」

「フィニッシュはちゃんと観客に見せたいだろ?」

「はあ? おまえ、まさか……」

「彼女に見てもらえれば十分だが、まあ、他のやつにも見せてやろう」

「アタックキャップを破ろうってのか」

「当然だ。リガット、もう一度血だらけになるときは近いぞ!」

「勘弁しろよ!」


 視界が開けた。

 剣を防御姿勢で構えるリガット。

 最悪、剣は折れたって構わない。


 なんとしても、また、生徒の前で血だらけになるのは避けたかった。

 問題児てんさいとしての矜持が許さなかったし、生徒をトラウマに落としたくなかったからだ。


 一方、トキワは斧を短く持って、なにを思ったか自分自身を攻撃した。

 リガットによって削られていた体力が、ガクンと減る。


 HPバーが赤く染まった。

 トキワの最大HPは2703。

 赤くなるのは、最大HPの二割を切ったとき。

 すなわち1/5。


「HPが同じぐらいになったな」

「まったく、学園様さまだぜ」

「なに?」

「アビリティ『奮起』の効果で、おれは攻撃力を上げる!」


 アビリティ、それはステータスを底上げしたり、特殊能力を付与したりするものだ。

 装備と同じ感覚で、アビリティ枠に最大6個までセットできる。

 学園では、常時効果が発揮されるパッシブ能力を装備したほうがいい、と教えている。

 しかし、特定のタイミングで効果を出す、スキル系能力も使い道がない訳ではない。


「奮起だと!?」

「そうさ。これは、学園で一番に教えてもらったアビリティだからな。思い入れもあるというもの」

「上昇率は20%、766*1.2は……」

「だいたい920ぐらいだな」

「やっばいじゃん!」


 リガットは、悪友たちが作ってくれたスキルの効果を思い出して、悲鳴を上げた。

 無効化できるステータスの上限は799まで。

 補助スキルを使わないという宣言のもと、無敵だったそのスキルは、今なんの盾にもならない状態だ。


 リガットの残りHPは500を切っている。

 どう考えたって、次の攻撃が当たればリガットの勝利はな――遠のく。

 幸い、相手はすぐに攻撃してこない様子だったので、リガットは長考に入った。


「えーと、やっぱりベルセルクアタックで決めたほうがいいかな?」


 勝利を目前にしたトキワは、余裕の表情で攻撃スキルを選んでいる。

 こっちのHPも500を切っているはずだが、冒険者ならそんなことは日常茶飯事。

 どうってことはないらしい。


 やがて、スキル選択を終わらせたトキワが正面を向くと、やけになった大人の姿が見えた。

 高いところから振り下ろせば威力大。

 戦士課では常識のそれを、リガットはジャンプすることで成し遂げようとした。

 トキワは左にずれる。攻撃は外れた。


「せっかくだから、斧の奥義で葬ってやろう」

「あんだと?」

「バトルグレイブ!」


 ちょうどいいチャンスがあったので。

 そう言わんばかりに、トキワは斧を構えた。


 繰り出したのは、さっきリガットの体力調整に使った、斧弱攻撃。


 実は、ベルセルクアタックは斧だけでなく、遠距離物理攻撃ができる銃とか弓とかを除いた、すべての武器で放つことができる。

 ただし、攻撃対象を選べないというデメリットがあるので、あまり使われないようだ。

 敵が一人の場合であれば別だが。


「勝ったよー、魔法使いさん」


 かつてガンナーをマスターしたトキワは、命中率を上げるアビリティを装備している。

 そのため、攻撃が外れやすいとされる斧を扱っていても、この命中力。


 吸い込むように入ったバトルグレイブは、リガットのHPを刈り取った。

 血だらけになって倒れるリガットには見向きもせず、トキワは観客席にアピールした。


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