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スカイアドベンチャーの楽しい学園生活  作者: 紅藤
スカイアドベンチャーの受難 ~一年生~
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アサシンの受難1

 

 無手課に短剣を持った子が入ってきたと聞いてわたしは驚いた。

 なにかの間違いだと思ったのだ。無手課は名の通り、武器なしでも戦えるようにする学課である。ほとんどの生徒が無手……すなわち素手で勝負する者である。

 かくいうわたしもそうで……。

 なのに。その生徒は、入学時の簡易対戦で担当教諭を打ち破ったという。

 なんとしてでも確かめなくてはならなかった。

 その女子生徒がどれくらいの覚悟でこの学課に入ったのかを。


 一年生の授業に忍び込んだわたしは、当然の如く驚かれた。

 それなりに変装はしたつもりだったのだが、一発で見抜いた先生方はすごいと思う。

 さすがアサシンを養育する学課の教師だ。

 事情を説明する。すると、彼はわたしの作戦に賛同してくれた。嬉しい。

 同じことを思う人はいるのだ。


「オレも気になってたんだよなーあの子」

「先生も? 何故?」

「グレイスが負けたって言うから。しかもグレイスのやつ結構落ち込んでてさ」

「気の毒に……」

「ん?」

「なんでもありません」

「はあ、腕前拝見ってとこ? オレと彼女が対戦することはないと思うし」

「わたしとなら、あり得ますわ」

「手加減してやれよ、先輩」


 先生はそういうけれど、わたしは手加減する気なんて一切なかった。

 彼女の本気を見極めなくて行けないのだ。まず、自分が本気を出さずしてどうする?

 わたしは広い訓練場を見渡した。

 目的の女子生徒は、真ん中のあたりで屈伸運動をしていた。

 積極的に動く彼女の周りには人はいない。入学して間もないのだ。友達と呼べる人物もいないのだろう。

 これならいける。わたしは小さくガッツポーズした。


「まずは……」


 端の方で固まっている他の女子生徒を見る。

 こういうとき、とりあえず固まろうとする女子特有の現象はいまいち理解できない。

 あのなかには、わたしや彼女と同じようにアサシンになろうとしている生徒がいるのだろうか。

 そんな覚悟ではアサシンになれっこないというのに。


「いいえ、今はまずい。アラン先生が見てらっしゃる……」


 このとき、わたしは自らがなそうとしている違法性を少なからず認知していたのかもしれない。教師のいない時間を狙うなんて。まるで非道な人物になったような……。

 しかし、わたしは、これが正しい道だと信じて疑わなかった。アラン教師はそんなわたしをたしなめるように、こう言っていた。


「正義感を持つことはいいことだけど、振り回し過ぎには気をつけろよ」


 当時のわたしにはまったく響いてなかったけれど。

 授業が終わり、アラン教師が去る。生徒たちが解散し始めたのを見計らって、わたしは気の弱そうな女子生徒に話しかけた。


「どうか、わたしの言う通りにしてくれないかしら」

「で、でも……」

「彼女の本気を引き出すためなの。協力してちょうだい」

「……はい」


 うまくいった。最初の一人はわたしの計画に賛同したも同然だ。

 あとは彼女が拡散してくれれば……いや無理か。わたしに押し切られるような性格では、他の人に話したりはできないだろう。

 やはりもう少し気の強そうな……いた。彼女にしよう。

 そこまで冷静に判断できていたのに、わたしは自らの行動を止めようとしなかった。

 さきほど気の弱そうな彼女にした強要も、これから気の強そうな彼女にする脅迫も、すべてわたしが振るうべき正義だと思っていたからだ。

 愚かにもわたしは……、唯一共感できたかもしれないモードという女子生徒の心を踏みにじったのだ。


 とある日の授業……。その日は二人組になる必要がある授業内容で。

 わたしの協力が浸透していた女子生徒たちは、誰も彼女と組みたがらなかった。

 困った彼女がわたしのもとにやってくる。そうだ、それでいい。

 ――さあ。見せてちょうだい。あなたの本気を。

 ――さあ、見せてもらおうじゃないか。キミの真意を。


 アサシンことモードがその奇妙なイタヅラに気が付いたのは、いつだったか。

 授業を進めていくうちに、話しかけてくる女子が明らかに減ったのだ。

 モードのほうから話しかけても、困ったように眉根を寄せるか、嫌な顔をされるか。

 行動に心当たりのないモードは焦った。

 いつ彼女たちのご機嫌を損ねたのだろうと。

 しかし、次第に困った顔をする彼女たちの不自然さに気付き、誰かに強要されてやっていることだろう、合点がいったのだ。

 それからモードは、この騒動の主犯を探した。

 男子生徒ではない。彼らはモードが話しかけてもいつも通りだ。

 アラン教師。じゃない。さすがに彼は大人げない真似をするような人物ではない。

 あとは女子生徒だが……。いた。ひとりだけ異なるオーラを放っているのが。

 彼女は自分の異端性に気が付いていないようだった。

 どの女子生徒からも遠巻きに見られるその存在は、とある授業で勝負を仕掛けてきた。

 その勝負をモードは買った。


「マルチダ。ボクと二人組を組んでくれない?」

「かまいませんわ。わたし、以前からあなたと話したいと思っていたの」


 そうだろうよ、とモードは思った。

 ボクも会いたいと思ってたよ。と心の中でつぶやく。

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