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スカイアドベンチャーの楽しい学園生活  作者: 紅藤
スカイアドベンチャーの受難 ~一年生~
8/116

舟長の受難

 

「スカが当たった」


 舟長 バートは斥候課の授業に挑んでいた。内容は盗み行為スキルを発動させること。

 新米のシーフたちには難しい事柄でも、バートはらくらくこなせた。しかも、的は見えているというのだ。これは外す方が難しい。そう思っていたのだが。


「スカって書いてある」


 このザマだ。何度見てもスカの文字は消えない。


 バートの頭はこの問題を解決する一つの可能性思いつきつつあった。

 全部の紙に“スカ”が書いてあった……いや、そんなバカなことを教師がするか?

 パーティーの斧戦士 トキワならいざ知らず、こちらは超真面目……超☆真面目な教員がやっているのである。そんな新米シーフの心を折りに来る作戦はしてこないはず……。


 悶々と考え続けるバートの前に現れたのが、問題の教師、サイモン・クロック。

 彼は棒立ちになったバートを覗き込むような形でバートに話しかけた。


「大丈夫かい、バート君」

「……一応、盗めました」

「どれどれ……。あっと、これが当たっちゃった? ほんとに?」

「あとの紙は全部当たりですか?」

「うーん、いつもは種明かししないんだけど。実はそうなんだ。きみは1/10でハズレを引いてしまったようだね」

「ああ、やっぱり……」

「そんな落ち込まないでよ! 紙を盗み出せたのはきみだけなんだから!」

「あ、はい」


 バートの両手を掴んで、ほかの生徒にアピールするサイモン教師。

 周りにごしゃごしゃ集まり始めた同級生クラスメイトを見ながら、両手を上げる。


「わーい」


 力のない歓声である。それもそのはず、バートは嬉しくなんかなかったからだ。


 18歳であるバートは、スカイアドベンチャーのリーダーとして、ときに守銭奴だったり、ときにヒステリックだったりしながら、世間を見てきた。

 それなりに大人の世界も見た。


 そして、すっかりひねくれた性格になってしまったバートは、見えている紙が盗めたからと言って、素直に喜べるほど子どもではなくなっていたのだ。


「どうやってやったんだ?」

「短剣持ってるのに!」

「え、えーとな……」

「はいはい、きみたち。そういうコツは自分で見つけようね。じゃないと身につかないよ」

「ええー」

「先生、ありがとうございます」

「きみも、あまり落ち込まないように。ね?」

「ああ、はい」

「ご褒美のアメちゃんあげるから」

「……」


 アメを受け取ったバートは思う。これ、魔法使い チェリルが好きなんじゃないかと。

 くれたサイモン教師には悪いが、これはスカイアドベンチャー第一のアタッカー、チェリルに貢ぐことにした。バートはそんなに甘いものが好きでないのだ。


「ありがたくいただいておきます」

「あんまり嬉しくないよね……ごめん。そうだ! あとで教務室に来てくれないかな」

「はあ。教務室と言うと……」

「二階の角にあるんだ。そこならまだましなものがあるはず……!」

「先生、オレは物が欲しい訳じゃありませんよ」

「だよねー。ま、まあよかったら記念にでもいいからおいでよ」

「分かりました」


 という訳で、昼休み。いつも通りスカイアドベンチャーの面々と昼食を済ませたバートは、教務室へ行くために準備をしていた。


「なんで教務室なんかに? なんか悪いことでもしたの?」

「ちげーよ。まあ、なんだろうな。一応、授業で一位になったから報酬をくれるって話なんだが。あ、魔法使い、これやるよ」

「ありがと。なにこれ? あめ玉?」

「授業終わりに先生からもらった。オレは甘いもん好きじゃないからさ」

「舟長はわたしのこと勘違いしてる気がする……せっかくだからもらうけど」


 四人と別れ、単身、教務室へ向かうバート。

 そこで見たものは……。昼食中のサイモン教師だった。

 うん、まあ、そうなるよな。とバートは思った。


「さっきぶりですね、サイモン先生」

「あ、バート君。来てくれたんだね。っと、ごめんよ。食事中で」

「いいえ。この時間に来ればそうもなるでしょう」

「きみはいつも、仲間のみんなと食べてるのかい?」

「ええ、そうですが……」

「教師内で噂になってたから。スカイアドベンチャーに会いに行くなら昼間の食堂が一番だって。全員揃ってるし」


 やっぱり噂になってるのか……。バートは小さく舌打ちをした。

 今日もスカイアドベンチャーの周りに人はひとりっこおらず、静かな昼食……チェリルや斧戦士 トキワがうるさいのでそんなこともなかったか。

 思い出して苦い表情になる。


「大丈夫? すごい表情になってるけど」

「気にしないでください。それより」

「ああ、きみにあげるブツのことね。あめ玉もういっこいる?」

「甘いものはもういいです。それより珍しい素材とかあったら見せてもらいたいのですが」

「珍しい素材? そうだなあ、僕は持ってないけどグレンなら持ってるかも……。それにしても、高価なものを欲しがるね。授業でいいパフォーマンスしただけで」

「ディスられるのは得意ですが、別に欲しいとは言ってないです」

「え、ご、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけど」

「欲しければ自力で採りに行きますよ、素材なんて一つじゃ足りませんから」


 へえ。と感心するサイモン教師。ごちそうさまでした、と手を合わせると、席を立って後ろの棚をがさがさ探し始めた。

 バートがその行動に疑問を抱く前に、誰かが教務室に入ってきて声を上げた。


「サイモン先生、なにをしておられるんですか?」

「あ、レイチェルさん。そだ、レイチェルさんはなにか珍しい素材とか持ってます?」

「生徒の前ですよ! もう……。わたしが持ってるのは月の石という、月陰の力を強めるとか強めないとかいう、胡散臭い品ぐらいですが……」

「月陰魔法……はウチに使い手がいないので……」

「きみが使ってもいいんだよ。闇夜に紛れたり、気配をお手軽に消せたり……」

「月陰魔法とシーフは組み合わせがいいんですよ。わたしもそうだし、サイモン先生はどうでしたっけ?」


 レイチェルと呼ばれた女の教師がサイモン教師に尋ねる。


「僕は日陽派だから。そうそう、グレンならいいモン持ってんじゃないかなーって思って探してたんだよ」

「斥候課だからって言葉まで粗野にする必要はないんですよ、サイモン先生。それはそうと、グレン先生ならあなたの後ろにいます」

「えっ」

「……」


 思わず後ろを振り返るサイモン教師。

 バートもたまたま同じ方向を向いていたので、その方向をじっと見つめる。

 気配は感じ取れないが……。これが斥候課の教師の間ではやっている遊びなのだろうか?


「だ、誰もいないじゃん、やだなあ、そういう冗談は……」

「さすがレイチェル女史。おい、サイモン。聞きてえことはいろいろあるけど、まず、なにをしているのか教えてくれねえかな?」

「ああああ……あのね、あれだったんだよ。その、ここにいるバート君に珍しい素材を見せてあげようかと……」

「そこにいるのは……バート・スカイアドか。知ってるぜ、スカイアドベンチャーのリーダーだろ。ふむ、珍しい素材ね……面白いもの欲しがるじゃねえか」

「……」


 バートは珍妙な顔をした。どうして斥候課の教師はどいつもこいつも話を聞かないのだ?

 見せて欲しいと言ってるだろーが。


 バートは半分切れていた。

 すると、バートの怒気が伝わったのか、グレン教師がサイモン教師をいじめるのをやめて、机からなにか取り出し始めたのだ。


「そこにあったんだ……」

「サイモン、あとで面貸せよ?」

「えっゴメンナサイ」

「このバカは置いといて、これがシャドウドラゴンのうろこだ」

「邪竜の鱗……」

「こっちはよく分からんキノコ」

「冬虫夏草?」

「で、これは俺が学生だったころ、大会で準優勝したときのペナントだ」

「……ペナントまで。これは確かにレアだ」


 バートはさきほどまでの怒りはどこへやら。すっかり感心していた。

 どこで手に入れたかは不明だが、確かに素材だ。レア度は微妙なところだが、素材には違いない。


「斥候課ってそう戦闘に貢献できるジョブじゃないだろ? あんまりレアな素材は持ってねえと思うんだよ。やっぱレアなやつが見たいなら戦士課か魔法課だぜ」

「シーフなら盗めますし、他の斥候職スカウトだって要らぬ戦闘を避けることができるじゃないですか」

「そういう考えしてるの、たぶんスカイアドベンチャーぐらいだぜ。正直、最初のうち欲しいのは火力と回復だろ? で、次に少し安定してくるとちょっと装甲が心配な魔法ジョブもパーティーに入れられるようになる。シーフはレア素材狙いでちょっと募集があるが、だいたい募集をかけてるのは高ランクの冒険者たちだ。だが、シーフのレベルが足りないからなかなか加入できない」

「斥候職の授業を受けているほとんどの生徒は、国の偵察軍への志望をしてますよ」

「へえ」


 うなったバートである。

 もともと冒険者という地位が先にあったバートにとって、この学園は冒険者のための学校だと思っていたのだ。


 しかし、現実は職業学校。職に就くために通う生徒もいる訳だ。


「なるほど……じゃあ、この辺りで失礼します」

「ああ、もうそんな時間か。次の授業、遅れるなよ」

「珍しい素材を見せてもらって楽しかったです」

「ほんとに思ってるかあ? おまえ。知ってる素材だったんだろう?」

「ペナントだけは確かにレアでしたので」


 グレン教師をぞんざいに褒めて、バートは教務室をあとにする。

 ああそう……。とグレン教師の声が追いかけてきたが、バートは振り返らなかった。

 だいたい、このつぶやきからどう返せばいいのか。バートには分からなかったのだ。




魔「なんか微妙に受難してなくない?」

ア「確かに、受難だったのは最初の方だけだよ」

舟「うるさい。普通の生徒はこれくらいが受難なんだよ! お前らがおかしいの!」

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