異世界人たちの宴2
「狂気を感じる……あなたもそうとう悪いことを成してきたのね。邪悪な意思がだだ洩れよ。トキワさんのときとは違う波動……あなたは自分のために悪事をなしてきた。そうね?」
「あんた……なに? 心が読めんの?」
「いいえ。あなたから放たれる波動を呼んで、推測しているだけよ」
「ふーん。セイクリッドフィールドねえ。これがあんたのスキル?」
「そうよ。能力を奪うとはそういうことなのね」
「奪われた割にはサバサバしてんね、ええっと、アメリアさん?」
「泥棒風情に呼ばれる名前は持ち合わせていないの、ごめんなさいね」
「うわあ、むかつく」
「セイクリッドフィールドは、わたしが開発した魔法なの。学園の調査のために作ったのだけれど、構成は簡単で誰でも使えるようになっているのよ」
「つまり、奪われても腹は痛くない、と。やられたなあ。この世界は、誰でも使えるスキルをトレードマークにしてる奴ばっかり。面白くないよ、もっとオリジナル技を使ってよね」
失礼な言い草である。おまえのためにスキルを覚えてるんじゃねーよ!と言ってやりたい。
学園長も、ハロルドも、クラレンスも、この言い回しには少し顔をしかめている。
何様だ、こいつ。そんな何様のSに話しかける教師がいた。リガットだ。
「誰も同じ技を持ってない、って点ではオレの技はオリジナルだぜ?」
「あんたかよ。脳筋野郎は要らないって言ってるだろ!」
「でもおまえ、リサーチしたらリガットより攻撃力が高かったぞ、良かったな脳筋」
「は? そんなこと言い出したら、一番の脳筋はテメーだろ!」
「そうともおれは脳筋さ。それが?」
「わたしは脳筋が好きなのじゃ」
リサーチとは、敵・味方のステータスを開示するスキルである。
この間の茶番劇で、舟長がサンドバッグにリサーチをかけたら、攻撃力は528だった。リガットの攻撃力は500に満たないので、攻撃力で比較する限り、S氏の方が脳筋だ。
ただし、脳筋云々は、ステータスのバランスから言うものでもある。
他のステータスと比べて攻撃力が突出しているリガットや、攻撃力が700もある斧戦士は明らかに脳筋だが、S氏は違う。そもそも攻撃力以外のステータスが見えなかったので、なんとも言いようがないのだ。
「そういえば、学園長の話では腕がもげたらしいリガット先生ですが、どこがもげたのです?」
「それも問題の一つでな……」
学園長がクラレンスを見る。クラレンスはハロルドを少し見て、学園長に向かって頷いた。
「信じてはいるが、念のため言っておく。これから話すことは他言無用だ」
「前半はしゃべってもいいのかい?」
「フロウ……。もちろん、だめだ」
「分かってるよ。そこの兄ちゃんがなにか言いたそうにしてたからね。代わりに言ってあげたのさ」
セリフを奪われたSが、ええー、とため息をこぼす。
正直、前半の内容は眉唾ものだった。こことは違う世界があり、それを超えてこちらにやってきた、なんて……誰かに言っても信じてはくれまい。だが、嘘みたいなホントの話は、頭に残りやすいものだ。少しでも覚えていて、それが流出したら困る。
各々、黙って了承する。
「クラレンス、説明を頼む」
「了解した。あのとき……リガットの左腕はあんまし綺麗には切断されてなかった。俺の腕じゃ縫えるか分からんぐらいには。止血魔法を唱えて、いざ手術をしようってときに、トキワが俺を止めたんだ。すごい回復師を呼んだから待っていろ、と」
「そんなこと言ってないよ。最強のヒールが来るから待ってろとは言ったけど」
「些末なことじゃない」
「……現れたのはそこの嬢ちゃん。魔法課の子が来て杖を振り回すもんだから驚いたが、なんとヒールの一言でリガットの腕を再生させちまった。生えてくる、じゃなくて初めから傷なんてなかったかのように。ヒールの回復量は知力に依存する。その通りのことが起きたんだ」
「彼女の名は、チェリル・グラスアロー。魔法課の二年生だよ」
学園長が捕捉する。と言っても今日の集まりでそれを知らないのは少数派なのだが。
へえ、彼女がセインズに勝ったっていう? 一年前のことを蒸し返さないでくれるかな。オレはいつでも思い出すぜ。問題児三人衆が盛り上がっている。
好奇の視線が集まり、魔法使いは居心地が悪そうだ。
「彼女の知力は900越えらしい。HPを回復したあと、あまった回復量が欠損部分の回復に向かった……と俺は考えている。それでも飽き足らず、気分やその他もろもろの傷まで治してしまった可能性がある」
「ああ。あとで確認したんだが、学生の頃つけた脇腹の傷がなくなってた」
「やはりか。本人も古傷が治せるって言ってたからな。それはあるだろうとは思ったが……本当に治せるとは」
「今更だけど、知力900なんて何をしたらそこまで行くのよ?」
「ひたすらにジョブをマスターし、ひたすらにレベルを上げるだけだよ?」
「聞いただけで分かるわ……その道過酷なんでしょ?」
アメリアが知ったような口を利いた。ええ、その通り鬼畜ですよ。
魔法使いは九つの属性を操るが、それは全属性を操りたかったからそうなったのではなくて、ただ知力を上げたかっただけである。確かに全属性扱えれば、モンスター相手に有利に動けるだろう。しかし、これは最悪無属性だけでも事足りる。
※無属性の耐性を持つモンスターはいない。つまり、どの敵にも等倍でダメージが出る。
「知力……魔法課、支援課……ヒール……ふむ」
「学園に新しい風を吹き込みますか、学園長」
「いや、わたしの一存では決められないよ。後ろに口うるさいお目付け役も控えていることだしね」
「人の命を救うことですよ。さすがの彼もうんと言ってくれるでしょう」
そのお目付け役は学園長の横でだんまりを続けている。
「フランシスは応援してくれるのかい?」
「学園長がやる気なら。あ、ついでに無手課と支援課の共同授業も一緒にお願いします」
「またそれか……。いや別に反対してるのはわたしじゃないんだが……」
「ハロルド教頭。なにがいけないのです?」
「せめて学園だけでも、生死に関係なく過ごしてやるべきだ、とは思わないのですか」
「そんなこと言ったら無手課のアサシンの卵たちは、実際に使うことなく仕事をやらねばなりません。そちらのことの方がワタシは恐ろしい」
「いままでもそうだったのだから、問題ありませんよ。学園は外から切り離された楽園。平穏の中で学習することが最も良いのですから」
「外から切り離された……? 冗談はやめてください。自宅から通う生徒や、休日に冒険者として活動する生徒は、何だって言うんです?」
ハロルドとフランシスの間で激しい口論が巻き起こる。学園長はそっと席を立って、二人から離れた。フロウが酒瓶を持って入ってきたので、いったん口を閉じて席に座りなおす。
当然のことながら、真っ先に酒瓶へ飛びついたのはアメリアだった。
「あの子、アルコール中毒でも患ってんの?」
「さあな。なんだか一部の人が喜びそうなすごい顔をしている」
アヘ顔ダブルピースですね、分かります。しゅごいのぉとか言いそう。
勝手な感想に、舟長と剣士は辟易だ。一応、やめろと言ったが、あながち的外れでもない表現に唸らざるを得ない。
「目にハートマークが……」
「いい加減にしろ!」
舟長の拳骨に魔法使いは涙目だ。
一方、敬語キャラ同士の戦いから逃げてきた学園長は、セインズに話しかけていた。
にっこり。笑顔で。
「ところで、セインズ君」
「学園長ですか……なんでしょう」
「君、学生時代に禁書を持ってたことがあるんだって?」
「……!?」
いや―な予感は無事的中。セインズはカクカクと動いて悪友を見た。ハワードは違う。そうなんだ、とか言ってる。リガットは……。目をそらしまくっていた。
「り、リガットぉおおおおお!」
「違う、違うんだ。オレがしゃべったのは保健室の……」
「クラレンスがこっそり教えてくれたんだ」
「あわ、あわわ」
「おまえ、絶対しゃべるなってあんとき言っただろ!!」
「ふむふむ。裏付けが取れてわたしも嬉しい限りだよ」
「あああああああああ」
修羅場になっていた。
そんな悪友の現状をスルーしながら、ハワードはこっそりスカイアドベンチャーに近付いた。魔法使いと呼ばれている少女の後ろに回って、いざ驚かそうとしたときだ。黒い腕がにょろりとハワードの腕を掴んだのは。ものすごい力でぐいぐい引っ張られるので、逆らわずそっちの方へ行くと……。
「ねえ。何してるの」
あんまりよろしくない雰囲気で、スカイアドベンチャーのメンツに囲まれていた。
四つの目は胡散臭いと言わんばかりに。一つの目は純粋な疑問を浮かべていた。
「この人誰?」
「さっきセインズさんとリガットの横に座ってた人だね」
「それは知ってるけど、この人と会うの、今日が初めてだよね」
「やあ、こんにちは。僕は――」
「ハワード・コンテン。支援課の教師。セインズ・リガットと合わせて問題児三人衆を結成している。ジョブは鑑定士。三人衆の中では頭脳・インドア派」
「……ええっと」
「ハワードさんって言うんだ。頭よさそうな名前だね」
「おまえはなんつう頭悪そうなセリフを言ってるんだ」
言うべきことをすべて奪われてしまったハワードは頭をかくしかない。
初めて会ったはずなのに、どうしてこんなに詳しいのか不思議だったが、セインズとリガットを知っているなら話は別だ。謎の三人目のことを調べたくもなるだろう。
この情報群が、さっきハワード自身の頭を読んで得た情報だと知ったら、どんな反応をするのだろうと思いつつ、斧戦士は警戒しながらハワードをじっと監視する。
S氏は放置されていたのをいいことに、クラレンスとフロウに絡んでいた。
「ねーねー食堂のおばちゃん、オレにもなにかつまみをちょーだい!」
「おばちゃんって。あんた、結構いい年なんじゃないのかい」
「初めてあいつに殺されたときから、身体は成長してないからね。身体は若いよ」
「ふうん……じゃあ40前後ってとこかな」
「さあね。年なんか忘れちゃったよ。あ、あんたのスキルも面白いねー」
フロウに話しかける姿はごく普通の青年だ。能力のことを口に出さなければ。
「俺のトレードマークか……止血魔法だな」
「あったりー! なになに? 自分にもかけれるの? すげーじゃん!」
「若いときは国軍で衛生士をやってたんだ。そこじゃ、自分も怪我するのは当たり前だった。だから、こんなスキルが開発されたのさ」
「ふーん、じゃ、これも汎用スキルなんだ」
「スペルメイカーでもないのに、自分の攻撃にスキル名つける奴なんかそうそういないぜ。って、おまえ何を……」
急に自分の腕を斬り出したS氏に驚くクラレンス。S氏は、覚えたての劣化スペルエイドを唱えるが、何も起きない。だらだら流れる血に、クラレンスがスペルエイドを発動した。
「ちっ、効かないか。これだがら劣化スキルはやなんだよねー」
「なるほど……劣化すると、自分には効果がなくなるのか」
「あ、止血、サンキュウな。一応、ほっといても治るんだけど」
「そんなにだらだら流したら、掃除が面倒だろ。掃除するのはフロウさんなんだからな」
「そりゃあ、失敬」
「なあ、Sさん。あたしにも能力ってあるのかい?」
「え、オレ? ……能力はどんな人にでもあるよ。おばちゃんの能力はね……」
満腹メーター。目を合わせた人の空腹度が分かる。
「あっはっは! すごい! オリジナル能力だ!」
「戦闘員じゃないからかね。あんまりみんなが使ってるスキルを持っていないのさ」
「でも、これはオレには必要ないかな。老後に料理屋を開くってんなら別だけど」
「老いないんじゃなかったのか?」
「だから、一生使うことはないだろうね! オレ他人とか気にしない性格だし」
「食堂で働くにはバッチリの能力だったようだね。どうだい、しばらくここでアルバイトしないかい」
「あはは、やらない、やらない! そんなことしたら、食堂に来た子、片っ端から能力奪っちゃうよ!」
「それはまずいねえ」
「それはまずいなあ」
フロウとクラレンスの声が重なった。互いに顔を見合わせる。




