パワーダウン!
「魔法使いさん、魔法使いさん」
その日の昼。ご飯を食べ終わった暇な時間を見計らって、斧戦士は魔法使いに話しかけた。
「なにー?」
「一時的に、でいいから腕力を下げる魔法を作ってくれない?」
「……んー? なんで?」
「そうしないと、おれ、だいたいの授業でやることなくてさ。授業点も欲しいし、魔法使いさんの力でなんとかならないかなーって」
このように魔法使いの前ではウキウキランランな斧戦士である。
魔法使いは少し考えて、応えた。
「ステータス派の我々に対する、なんと冒とく的な行為! でも斧戦士さんの頼みだから作るよー」
「ありがとう、魔法使いさん。これあげる」
渡したのは、さっき調達した出来立てのマッドドールである。
「なにこれ。はにわ?」
「マッドドール第一号だって」
「剣士が叩いてたやつ?」
「あれは三号機らしいよ」
三号機は一定期間に攻撃するのに対し、一号機はまったくの不動だ。
決して攻撃をしないという点が気に入って、持ってきたのだから。
どんなに弱くてもそれは物理攻撃だ。積み重なれば、魔法使いの体力をゼロにしてしまうかもしれない。それを心配して色々確かめたのはナイショだ。
「へえ、意外と可愛いじゃない」
「魔法使いさんはこういう無駄にギミックが仕込んであるの好きかなあって」
「そんな難しい機能があるの?」
「壊れてもヒール・リバイブが効かないんだ」
「物だからかしら。ちょっと借りてもいい?」
「いいよ。好きなだけ見て」
目の前でいちゃいちゃし始めた二人に、舟長はうんざりした表情を隠さない。
「おまえらなあ……」
「舟長、さすがに心狭くない?」
「珍しいだろ、こんな分かりやすくいちゃいちゃしてんのは」
「珍しいからイライラするんだよ! おい斧戦士、おまえだろ、よく分からん状況を作り出してる原因は! 何の意図があってやってる!?」
「ちょ、ちょっとそんなに怒鳴らないでよ!」
「フルブーメランだぜ、アサシン」
この難問に対し、いちゃいちゃしてる二人がどう対応したかと言うと……。
「エナフォすっぞ、舟長」
「舟長、確かにおれはとある企みによってこの状況を作り出しているが、それは舟長ががなり立てたり、わめいたりしてなんとかなるものじゃないぞ」
一人は実力行使を、もう一人は正論を持って対峙した。
舟長は開いた口がふさがらない。
いま、斧戦士のやつ、肯定したよな? なんでおれ怒られてるんだろう。
そんなテロップが頭をよぎる、よぎーる。
「じゃあ、どういう企みなのか、聞いてもいいか」
「魔法使いさんとおれは熱々な仲である、と学園中に広めるためだ」
「なにこっぱずかしいこと言ってるの、この人は。自意識過剰だよ」
「そんなことはないぞ。簡易対戦で担当教師をぶちのめした五人がここに揃ってるんだ。噂になるし、みんな注目してるはずだ」
「悪い意味でな! というかおまえがガン飛ばし過ぎたせいでこのテーブルの近く、人いないんですけど!」
「広く使えていいじゃん」
「わたし、思うんだけど、ヒステリックなリーダーがいるってのもマイナス面じゃないのかなーって」
「あんだと! 誰のせいでヒステリックになってると思ってんだよ!」
「ヒステリックなのは認めるんだな」
「うるせえ、ほっとけ!」
こんなんである。たぶん、全体的に万遍なく悪いんじゃないでしょうか。
誰が悪いとかじゃなくてね。ね?
「あーもう、おもしろいなあ」
「なに一人で外野から面白がってるんだよ、アサシン。おまえも混じれよ」
「えーやだー。そういう剣士だってそうじゃない」
「オレはなんて言うか……だって舟長はアサシンの彼氏だろ? 止めてやれよ」
「あーあー。魔法使いちゃんは完全に巻き込まれちゃった形だね。舟長? うーん止めてもいいけど、あれが生きがいみたいになってるじゃない。それにああいうとこも嫌いじゃないし」
「神経質なとこがかあ? アサシン……顔真っ赤だぞ」
「だって。もう、わざわざ言わないでよね」
恥ずかしがるぐらいなら言わなきゃいいのに。剣士は思わずにはいられなかった。