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スカイアドベンチャーの楽しい学園生活  作者: 紅藤
スカイアドベンチャーの失態 ~二年生~
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舟長の失態2

 

 グレンは笑顔のまま止まっているチャールズの肩を叩く。しっかりやれよ、と言ったつもりがどういう訳か、がっしり掴まれている。


「手伝ってくれるんですかーありがとうございますー」

「お、おい。生徒に泣かれるナンバーワンのオレに頼んでどうする!」

「じゃあ、二手に分かれて探しましょう」

「まだおれはうんとは言ってない!」

「じゃあ、いまから言わせましょう、そうしましょう」

「ま、まて! そのスキルの使用はよくない、仮に同僚同士だとしてもよくない!」


 スカウトの教師は、生徒たちを立派な偵察職にするために、いくつもの言うことを聞かせるスキルを持っている。その一つが、封印を解かれつつあった。

 グレンは必死に逃げ出そうとして、なにかを掴んだ。サイモンの服のすそだった。

 振り返ったサイモンは悟った。これは逃げられない、と。

 そして、仲良く三人は聞き取り調査を行うことになったのだ。




 噂が蔓延し始めて二週間。いまだ、囁かれる悪名にバートが流石に対策を考えようとしたときのこと。やけに女子生徒に呼び出される回数が増えたのは。

 アサシンことモードに刺されそうだなと思いつつ、のこのこと呼び出しに応えると、そこに待っていたのは十数人の女子生徒が必ず待っていて、こう言われるのだ。


「ごめんなさい! 噂は嘘だったんですね、広めたのはわたしなんです!」


 どうやら、背後にいるたくさんの女子生徒が一人ずつ出てきては謝罪をしているらしい。

 一気に済ませよ、と思うバートだが、女子生徒の方はそうはいかない。

 この優秀な生徒を呼び出すのにまず勇気がいるし、こうして謝るのも気力がなくてはできない。

 とある日、いい加減に我慢できなくなったバートが、噂の発生主を聞くと、意外なことに名乗り出た少女がいたのだ。


「わたしよ。でも、盗んだのはわたしじゃない。それに、最初は友だちの中で話してただけなの。それが本当のことみたいに噂になっちゃうなんて、知らなかったの!」

「つまり、噂が広がったのは、普段の行いが悪いオレのせいだと?」

「そんなこと一言も言ってないじゃない! 何故か噂が広がっちゃったけど、別にあなたを見下したかったとか、こき下ろしたかったとかじゃないの。本当よ」

「……とりあえず、信じよう。あと、こういう風に呼び出されるのはうんざりだから、もうやめてくれると嬉しい」

「分かったわ。みんな、最後に謝罪しましょう」


 ごめんなさいの声が重なる。バートは何も言わず、謝罪を受け取った。

 顔を上げた女子生徒たちに涙がにじんでいる。泣きたいのはこっちの方だ、とバートは思いながら、斥候課の中庭を去った。

 授業が終わってお昼しに食堂へ向かうと、モードがにっこり笑いながらこっちに向かって大股でやってくるのが見えた。ああ、噂になったのね、と思う。

 手遅れだったか……と反省するバートは、怖い顔をしているモードに言った。


「その件だが、もう大丈夫だと思う」

「どういうこと?」

「呼び出しはもうしないように頼んだ」

「……色っぽいお誘いじゃなかったんだ」

「何故か、一様にごめんなさいをされるんだ」

「振ったの?」

「違うって。まあ、座って話をしようぜ」


 椅子まで案内するバート。モードはおとなしく従って席に着いた。


「斥候課で教務室の資料が盗まれた話は知ってるか?」

「ううん。資料?」

「なんかの素材だと思うが、教務室に置いてあったものが忽然となくなっていたらしいんだ」

「誰かに盗られちゃったのかな」

「理解が早くて助かるぜ。で、犯人はオレだって噂が立ったんだ」


 斥候課では有名になった噂だったが、さすがに他学課まで伝わってないらしい。

 あれ? じゃあ、なんで女子生徒に呼び出された噂は広がってるんだ?


「舟長が? ないでしょ。やるなら全部の資料を奪わなくちゃ」

「やってねーよ。なんかその噂を広めたのが斥候課の女子生徒らしくて、散々謝られたんだよ。鬱陶しいからやめろって言ってきたけど」

「ふうん。ボクはね、今日無手課の女の子から噂を聞いたんだ」

「無手課で? もう広がってるのか」

「違うね、たぶんその子は斥候課の女の子と知り合いなんだと思うよ」


 なんでボクにわざわざ報告したのかは知らないけど……。

 言葉を切って、モードはようやくごく普通の笑みを見せた。


「違うって分かって安心したよ」

「オレは一応、一途なつもりなんですけど……」

「冗談だってば。たぶん、ゴシップ好きの子が、ボクと舟長の修羅場を見たかったんだよ」

「それか、リア充爆発しろの勢いで、二人の仲を裂きたかったとか!」


 魔法使いチェリルの声がした。とっさに上をみあげるが、いない。

 空を見上げているバートにモードが突っつく。


「どこ見てるの? 斧戦士じゃあるまいし、そんなとこから現れる訳ないでしょ」

「舟長、こっちこっち」


 言われるがままに声の聞こえる方を見ると、普通に通路からやってくるチェリルがいた。

 チェリルが席に座ると、黒トキワが降ってきた。舟長の頭の上に。

 頭上でぼよよん、ぼよよんと跳ねる黒いスライムをチェリルのほうにぶん投げる。

 どう考えても重力と常識に逆らって、黒トキワはチェリルに当たる前に減速して、彼女の膝の上に落ちた。


「斧戦士はどうした?」

「ちょっと遅れてくる」

「なんで?」

「巡回」

「なんの?」

「サンドバッグが脱走してないか」


 相変わらず聞いたことしか答えない黒トキワである。最後の質問はチェリルがしたせいか、ちょっと詳しく教えてくれた。

 普通、サンドバッグは喋りもしないし、脱走しないものだが、斧戦士トキワの飼っているサンドバッグは黒魔術を扱う知能がある。そのせいで厳罰中なのに、檻から逃げ出していってしまうのだという。手足の拘束はもちろん、牢屋にはカギ穴すらないはずなのだが、何故か見つけたときは鉄格子の外で、五体満足な状態で歩いてるのだとか。


「なんでそいつ生かしてるんだ? 管理が面倒なら殺しちまった方がいいだろ」

「おれもそう思う。だがあいつは個人的な復讐が済んでないからって」

「復讐ねえ。斧戦士が怒ることなんて一個しかない気がするけど……まさか、ね」


 モードは黒トキワをつつくので忙しいチェリルを見た。

 この話は聞いてないみたい。ここで聞いても「なにがー?」と聞かれるのは必須である。

 スカイアドベンチャーは結成して六年経つ。剣士セスとバートとは幼馴染だが、チェリルとはたった六年の付き合いだ。幼い時何があったかなんて、モードは知る由もないのだ。

 チェリルの膝上でぷにぷにされている黒トキワにもう一度話を聞こうとした、そのとき。


「斧戦士さんです」


 トキワが空から降ってきた。驚くチェリルにドヤ顔をするトキワ。

 視線が下にずれる。よく見もせず黒トキワをひっつかむと、地面にたたきつけた。

 一瞬ぺたんこになった黒トキワは、ゆっくり元通りふくらむと、猛然とトキワに向かっていく。下から見上げる黒トキワ。上から見下ろすトキワ。対照的な二人の戦いが勃発するかと思われた。


「……」

「……」


 数秒の睨み合いののち、トキワが後ろに下がる。なにか取引でもあったのだろうか。

 黒トキワが再びチェリルの膝めがけて跳んでいく。チェリルは黒トキワを抱きしめた。


「巡回してたって聞いたけど、大丈夫だったの? 脱走」

「脱走はしてなかったが、卑怯な隠れ方だったから焼却処分にしました」

「ふーん。殺したんだ」

「殺したけど、復活させてもっかい殺せるようにしてあるよ」

「あん? つまり、蘇生させたのか」

「いまこそ、トキワ式蘇生方法が役立つとき! というわけで、SPは消費してないよ」

「いや、気にしてるの、そこじゃなくてな」

「なんだ、舟長らしくない」


 舟長らしいってなんだよ。ケチって意味か! 舟長は憤慨する。

 もう、変な噂を流されたことなんてどうでもよくなっていた。





魔「どこが失態だったの? これ」

舟「これから大失態するから見ておけ」

ア「多大なるネタバレ」

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