フランシスの評判
「はー疲れた」
アサシンがだらんと身を投げ出す。
フランシスのナビゲーターが終了したのだ。
「お疲れーココア飲む?」
「飲むー」
いつもより幾分か幼い声が響く。
「ほい、ココア」
「ありがと、舟長」
飲み物を持ってきてくれたのは舟長だった。
キッチンから魔法使いの鼻歌が聞こえる。あ、音が外した。
「ふふふ」
「どうしたんだよ。口癖写ったのか?」
「違うよー。もう。っていうか、フランシス先生の印象ってそんなんなの?」
「不気味な先生だってのは、噂でさんざん聞いたぜ」
「ええー。フランシス先生結構イケメンだよ?」
今日初体験したことだが、前から知っていたかのように暴露する。
「イケメ……!?」
「ちょっと暗ったいけど、顔はいいんだからモテそうな気がするけど、そうでもないんだよね。不思議」
「暗ったいだけじゃ駄目だよ。仄暗い過去もないと」
魔法使いが手を拭きながら現れた。
なるほどーと感心するアサシンに、一言付け加える。
「まあ、うちの斧戦士さんには敵わないけどね!」
「斧戦士、暗い過去なんであったっけ?」
「暗くはないが、親父と兄貴に殺されかけたことならあるぞ」
「それ、十分暗いから」
斧戦士が全然なんでもない風に言いながら現れた。
手にはいもけんぴの袋を持っている。
「え、どうしたの? その袋」
「ちょっと小腹が空いてるかと思って。持ってきた」
「ココアに合いそうなツマミ見つけるの大変だったんだよ!」
「あはは、お手数かけちゃってごめんね?」
なんて言いながら、アサシンはさっそく袋を開封して食べ始める。
ボリボリ。ポリポリ。うまーい。
「舟長が固まったまんまだぜ」
「これは勘違いしてるな?」
「もう、ボクは舟長一途だっていうのに。だいたいフランシス先生はマルチダしか見てないよ」
「マルチダ? マルチダってアサシンちゃんと決闘した?」
「そうそう。なんかお気に入りらしいんだよね」
「そうだったのか。だからさっき……」
思い出すように呟いた斧戦士だった。フランシスとの会話は、とっさの判断で話を合わせていたらしい。……マジで?
「あれ、斧戦士にしては珍しい。マルチダに関することは調べたんじゃないの?」
「マルチダ・テスラがアサシンと和解した時点で調べるのはやめた。だから、人間関係や一方的な恋煩いには対応していない」
「そんな的確に先生のこと表さないであげて。可哀想だから」
「マルチダ・テスラはスタイルが良かった。一方的な片思いをしている連中は、ほかにもいるだろう」
「そりゃそうだろうけど」
解凍が進んだ舟長が息を吹き返す。やや顔が赤い。
「急にイケメンとか言い出すから……何かと思ったぜ……」
「こいつ、アホだよなあ。……おーい、魔法使い?」
「ありゃ、今度は魔法使いちゃんが凍り付いてる。スタイル云々でかな?」
「ま、魔法使いさん。いまのは説明の一環だから。違うんだ」
「こんな必死な斧戦士見られるのなんか、ここだけだよね」
魔法使いが凍ったまま、夜は更けていく。




