ガールズトーク!
「やあクレア。調子はどうだい?」
ジェイムズ青年は、寮の庭で待ち合わせしていた彼女を見上げながら言った。
彼女の名はクララ・メルダ。クレアは彼女の愛称である。
学園に入り、優秀な成績を修めている少女をこう呼ぶのは、幼馴染のジェイムズだけだ。
いつも彼女にそう呼びかけるとき、ほのかな優越感を感じる。
「セインズ教師の課題でヘロヘロよ。で、急に呼び出した訳は?」
「課題で疲れてるきみに、ちょっとした土産を持って来たんだ」
「その持ってるガラス玉ね?」
クララがジェイムズの手に乗っているガラス玉を指さす。
結構大きい。
「そうだよ。きみの後輩が作った魔法具らしくて、使った感想を求められているんだ」
「へえ。それは同じ魔法課の先輩としては興味あるわね」
「作ったのは一年生。チェリル・グラスアローっていう女の子だよ。知ってる?」
「グラスアローですって!?」
オーバーリアクションで驚きを表現するクララ。
ジェイムズは苦笑しながら、彼女に相談してよかった、と思った。
やはり魔法関連の話題は本職に聞くに限るからだ。
「やっぱり。グラスアローって言うのはウィザードの中では知られた家名なんだね」
「ええと、残念だけど違うわ。最近スペルメイカーの間で噂されているのが、“グラスアローの魔法使い”という人物なの。同一人物かは知らないけど……。その子が嘘をついてるって訳じゃないよね?」
「ごく普通に名乗った感じだったよ。もしかしたら彼女のお姉さんか妹さんが、その人物なのかも」
「そう……。まあどちらにせよ、がぜん興味が湧いたわ。早速、練習場に行きましょ」
「練習場ならもう予約してあるよ」
「あら、素敵。気が利くのね」
大好きよ、ジェイムズ。といつもの調子で言われた青年は、それをどう受け止めるべきか、しばし迷った。幼馴染だから、と必死に言い訳をして心を落ち着かせる。
まったく、彼女は分かっているのだろうか。片思い歴10年のジェイムズにとって、その言葉がどんな風に届くのか。
弾みだした心を無視して、ジェイムズはクララを練習場に案内した。
「予約してあるから、がらんがらんね。誰もいないわ」
「当然だよ。作った本人が威力に注意してほしい、って言ってたからね。他の人がいない方が安全だろう?」
「なるほどね。悪くない発想だと思うわ。ね、早く、やってみてよ」
「分かったよ」
ジェイムズは大きく構えを取って、練習場の中心部分を狙う。
投げた。地面に着地したガラス玉は、いとも易く砕ける。割れたガラス玉から白い奔流が現れて、すぐに爆発を起こした。どかーん。
もうもうと上がる砂煙。目を凝らして経過を見守る。
何も起きない。
「終わった……のかな」
「いまのは、無属性の爆発……? たぶんもう近づいてもいいと思うわ」
「爆心地を見てみよう」
ガラス玉が当たったと思われる地面は小さくえぐれていた。爆発で砕けたのだろうか、ガラスの破片がキラキラと輝いている。
ガラス片がこっちに飛んでこなくてよかった、とジェイムズは思う。
クララは信じられない、とこぼしながら、爆心地のガラス片をひとつ拾った。
「記念にもっておこうかしら」
「怪我するよ」
「大丈夫。アクアプロテクトの魔法で包んでおくから」
「これは……なんて感想を言えばいいか難しいね」
「すごい威力だったって言えばいいわよ。そうだ、例の一年生に感想を聞かせに行くんでしょう? わたしも連れてってくれない?」
「構わないけど……あんまりいじめたりしたらダメだよ。きみは先輩なんだから」
「質問攻めにするぐらいは許されるかしら」
「ほどほどにね」
ジェイムズ青年は、無駄のような気もするが、念のため彼女を牽制しておく。
クララは魔法のこととなると、興奮して自制が効かなくなるのだ。
後輩の一年生がそれにドン引きしたり怖がったりしないのを祈って、ジェイムズは彼女を伴って練習場を出た。
意外にも、あの一年生も同じタイプで盛大なガールズトーク(主に魔法について)が展開されることになろうとは、今のジェイムズは知る由もないのであった。