アナライザー8
「はい、残念でした」
「はい、じゃあ帰ろっか」
「こんなに頑張ったのに、なんにも収穫はないんですか……」
「お金と経験値は入ってるはずだ。なんにもじゃない」
バートはがっかりするケイトを慰めた。
「いつものこ」
「よくあることだ」
「おま、遮るなよ! さっきの仕返しか!」
「先に遮った人が悪いんですー」
セスが今日三回目となるセリフを放とうとしていたとき、明らかに悪意のあるタイミングでトキワが割って入ってきた。そのせいで、それは叶わずに終わる。
子どもっぽい理由でケンカを始めた二人を無視して、バートは言う。
「そろそろ転送の時間か」
「ドラゴンが消えて20秒は経ったね」
「ケイトちゃん。大丈夫だと思うけど、一応手を握らせてね」
「はい? 構わないですけど……」
チェリルとケイトの手が重なったときだ。
ぐらぐらと地面が揺れ始めたのは。仰天して両手でチェリルに掴まるケイト。
他の三人は、この事態に動じてないようだ。
「あわ、わわっ! なにが、今度は何なんですかー!?」
「今回は一回で起こったか」
「しばらくこの山は使えないね」
「ケイトちゃん。これは、山が噴火しようとしてるんだよ」
「ふんか? ふんかって噴火ですか? わたしたち、こんな火口近くにいるのに、危険ですよ!」
「大丈夫。ほら、転送が始まった」
「て、転送!?」
「舟長の足元を見れば分かるけど、消えてるでしょ? これからわたしたちは、火山のふもとに転送、送られるんだ」
「き、消えてるー!?」
「わたしたちも消え始めたね。じゃあ、ちょっとのあいだお先に失礼」
チェリルが光の粒子を放出して消える。グラグラ揺れる地面。誰もいない独りぼっちの空間。取り残されるんじゃないか、そんな不安を抱いたとき、ケイトからも光があふれる。
六人パーティとなったスカイアドベンチャー。最後に転送されたのはケイトだった。
ふもとに戻ってきたスカイアドベンチャー。ケイトの姿が見当たらない、ときょろきょろするチェリル。手をつないでおけば一緒に転送されるだろう、という考えは甘かったようだ。
やがて涙目のケイトが転送されてきて、チェリルはほっと一息。
大泣きするケイトをそっと抱きしめるのは、セスに任せて。チェリルは揺れる山頂を眺めた。
ここからは随分距離がある山の頂き。もうマグマが流れてきているのだろうか、さっきまでいたはずの場所は赤く燃えていた。
「うわあぁぁん」
「あー、もうそんな泣くなって。置いてきゃしねーから」
「燃えてるね」
「ケイトが落ち着いたら、とっととここを離れるぞ」
「落ち着くまで待っていたらそれこそ日が暮れる……日が昇るかもしれん」
ケイトの方を見たトキワが表現を変える。そうでなくても太陽はとっくの昔に沈んでいるのだ。日が暮れるというのは表現として妙だ。
「バカなこと言わないの。こうすればいいでしょ? 剣士、ケイトを担いで」
「ほいよ」
「えっあ、あの! 大丈夫です、ひとりで帰れます!」
「ほらあっちでは、魔法使いがつられてるぞ」
「斧戦士さん、頼むー」
「任せろー!」
「なんですかこれ。なんかイチャイチャしてるんですけど……」
「あれが斧戦士唯一の生きがい、魔法使いなんだ。とめてやるな」
「えー。でも、わたしどうしてセスさんに抱えられてるんですか?」
「そりゃ、いまから猛スピードでここを離れるからさ!」
セスが言った通り、他の三人はもう移動を始めている。バートとモードは一人で、トキワはチェリルを背負っている。そしてケイトをお姫様抱っこしたセスが、三人を追いかける。
ケイトが今ごろ自分の体勢に気付いてわたわたするが、セスは気にせず抱っこしたままだ。
「舌噛むって言うから、じっとしてろよー」
「はひぃ。すみません!」
「斧戦士さん、ゴーゴー!」
「あいよー」
「あっち、めちゃくちゃ喋ってるんですけど」
「あれは、斧戦士が細心の注意を払ってるからできることだな。なんだろ、結界でも張ってんのか? 薄い膜が見えるが……」
「ちょっとしたバリアを張ってるだけだ。石とか飛んだら危ないだろ?」
「なんだよ、聞いてたのか。余裕があるとこがマジ論外だよな」
「論外?」
「独り言まで拾うなって」
トキワがきょとんとしているが、セスはそれも論外だと思う。
わざわざ聞こえにくいようにぼそっと言ったのに――現にケイトには聞こえてない、それでも聞こえたと言うのだから、これを論外と言わずしてなんと言うのだ。人外か。
「ケイトのうちってどこだ?」
「行ったことあるのは、剣士と魔法使いちゃんだっけ?」
「わたしは覚えてないよ」
「斧戦士が知ってるから、そっちに聞いてくれ」
「おい。まあ、知ってるが。セルレット地区キトリーの238番地だ」
「!? なんで知ってるんですか!?」
「そこってもしかして中央図書館の近くか?」
「ああ、ちょうど裏側に当たるかな」
「ちょうどいいじゃない。中央図書館の前で降りて、そっから歩いてけば。キミも、お家の人にその恰好見られるの、嫌でしょ?」
「確かに、嫌です。あのう、それでなんで知ってるんですか?」
トキワはその質問を意図的に無視する。聞かれたくないのだ。
どんな手法を取ったのか聞きたくなるが、斧が飛んできそうなのでやめておく。
答えてもらえないケイトが、あのーあのーと繰り返すが、進展はない。
トキワに話す気がないからだ。もし話すとすれば、チェリルが聞いたときくらいか。
「斧戦士さん、どうやって調べたの? 別の学課の住所なんて、まずばらしてもらえないでしょ?」
「……分体を教務室に置いて、誰もいなくなった隙に調べた」
「そうだったんだあ。他の人もそうやって調べてるの?」
「基本的にはな。教師はこの手の話は決して話さないし、生徒はそこまで詳細な個人情報を知らない。本人に聞くのも手だが、あまり手をかけるのもめんどくさい」
「あの、犯罪が目の前で横行しているんですが」
「無視しとけ。あいつの行動を捕捉して現行犯逮捕しないと、罪は認めさせられん」
「ボクなんか、斧戦士の情報に助けてもらったことがあるからね。この件に関しては口をつぐむよ」
「分体、便利だなあ。オレも欲しい」
ケイトがいくら頼んでも素っ気ない態度だったのに、チェリルが尋ねるとこうだ。
終いには喜んでペラペラ話し出す始末。
本人に聞くって、ほんとに聞いてるの? 疑いたくなるのも仕方ないだろう。
たぶん、本人の記憶を覗いて、直接見ているの――。ぎゃー斧が飛んできた。
なんでもないです。なんでもないです。
「お、中央図書館が見えたぞ」
「じゃあ、あとちょっとか。ケイトちゃん、あとちょっとだよー!」
「ありがとうございます! じゃあそろそろ降ろしてもらって……ってここどこですか!?」
「屋根の上だよ」
「どうしてチェリルさんは平然としていられるんですか!?」
「よくあることだもの」
トキワがとなりでうんうん、と頷いている。
ひとんちの屋根に降り立ってしまってはなにもできないので、ケイトは再びセスに抱えられる。お姫様抱っこ継続である。
ケイトが抱きかかえられたのを確認して、バートとモードが屋根から屋根に飛び移っていく。
なるべく音をたてないように。いまは住民が寝静まる夜。うかつに移動して起こしたらたいへんだ。小さなお子さんを持つ親からクレームが来てしまう。
中央図書館の屋根は他の家の屋根より高い。大ジャンプで飛び乗る。
「ここからは降りていくんだったな」
「ちょっと高いねえ。無難にロープで降りる?」
「窓の桟でワンクッション置いて、降りてけばいいだろ?」
「それが出来たら苦労しねーよ」
「まあ、抱えたままじゃ、ロープは握れないからな。他の手段を考えよう」
「レビテーションで降りるのじゃ」
「その手があったか! 魔法使い、頼んだぞ」
三階建ての図書館は、ひどく高かった。ケイトは真下を見て、ブルブルと震える。
そんなことは知らずに、チェリルが詠唱を始めた。黄色い魔法陣が上から降ってくる。
「さあ、一番最初に乗る人は誰?」
元気よくのたまうチェリル。順番は、バート、ケイト&セス、モードだ。トキワは最後にチェリルとともに降りるので、関係ない。
三人分のレビテーションを唱えて、無事ケイト達を下に下ろすことに成功した。




