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アナライザー6

 

「そろそろ中腹に差し掛かるね。ここからは敵が強くなるから気を付けて」

「まあ、一応攻撃が来る前に仕留める気ではあるが、念のためな」


 チェリルとバートがケイトを励ます。ケイトはわずかに震えていたが、ここまでの戦闘で少し度胸がついたのか、やがて誰よりも元気そうな顔で前を向く。

 大丈夫そうだな、とバートが話しかけると、元気いっぱいの返事が返ってきた。


「……オレたちよりも元気だぜ」

「我々のステータスにはスタミナに値するものがないから、測りようがないのよ」

「オレたちがここに来たのはもう何回目か忘れちまったけど、あの子は一回目だからな」

「だれちゃうんだよ。何度も登ってるとね」

「輝きに満ちているな。羨ましいことだ」


 五人はケイトをじっと見た。すぐには気が付かなかったケイトだが、チェリルと目が合ったのを皮切りに、全員の目が自分に集中していることに驚く。


「な、なにか悪いことしました!?」

「いやあ。元気なの羨ましいなって」

「我々も元気出して登ろうか」

「そうですね、登りましょうか」


 元気のないスカイアドベンチャーと元気いっぱいのケイト、山を登る。

 モンスターが出る。倒す。素材を手に入れる……。


「えっいつ素材を手に入れたんですか!?」

「リザルト画面に出てたぞ」

「そういや、学園に、はぎ取りの授業あったわ」

「取った?」

「取らねーよ。オレたちには必要ない」

「必要ないってどうして!?」

「ありゃ、ケイトにはリザルト画面見えないのか?」

「リザルト画面って言うのは、戦闘後に出る青い画面のことだよ」

「ああ、分かりました。見えてます」

「じゃあ、おまえらが確認して消すのが早すぎるんだな」

「ほかの冒険者は違うけど、ボクらはそのリザルト画面に落ちた素材が表示されるのさ」

「文字だけで判別できるんですか……」

「わたし的には、むしろ実物で見た方が分からない」


 異世界人との相違を確かめながら、さらに山を登る。


「へえ、これがリザルト画面なんですかー」

「本来はここにドロップした素材が表示されるんだが……」

「残念、今回はなにもドロップしなかったようだね」

「なるほど……あっ消えちゃいました、すみません……」

「ああ、押すと消えるんだよこれは。いつまでも目の前にいられると邪魔でしょ?」

「そうなんですかぁ。じゃあ消してもよかった?」

「ああ、今回はなにも落ちなかったしな」

「ほっ。良かったです」


 無事リザルト画面を確認したケイトを温かい目で見守りながら、さらに山を登る。

 すると、山の頂点にたどり着くそのまえで、ピコーンという音が響き渡り、ケイトが立ち止まった。


「J、O、B、M、A、S、T、E、Rって書いてあります」

「じぇーおーびー?」

「JOBMASTERだ、魔法使いさん」

「ジョブマスターね! オッケィ!」

「なるほど、ダンサージョブをマスターしたんだな。おめでとう」

「ええ、もうマスターしちゃったんですか!」

「もう、なんてことはないよ。ここのダンジョンのレベルはかなり高いの。ダンサーをマスターしただけのケイトちゃんじゃ、一発で倒れちゃうくらいなんだから」

「あ……みなさんがいてくださったおかげなんですね」

「ふふん。マスターしたとなれば、次のジョブに変えないとね」


 チェリルが、自分の道具袋からオーブを取り出す。

 バートが持ち出したのかよ!と驚いている。バートの驚きをよそに、チェリルはケイトに問いかける。


「さあ、次のジョブを選んで!」

「えっ、次……次は……」

「もともとのアナライザーでもいいと思うぞ。残りはあと少しだからな」

「は、はい。アナライザーにジョブチェンジ!」


 トキワがケイトを励ますように言った。この短い時間に次のジョブを選ぶのは、彼女には至難の業だろうと思っての助言だ。選んでくれてチェリルも嬉しそうだ。


「別に叫ばなくても大丈夫だぞ」

「い、一度やってみたかったんです!」

「叫ぶの分かるけどね。こう変身ヒーロー的な」

「あー、分かる分かる。斧戦士とかはモーション映えるから羨ましいわ」

「モーション言うな」


 白い光が彼女の足先から頭のてっぺんまで伸びていく。そして真上まで行った光がまばゆい光を放つ。ピカッ。ケイトはアナライザーに転職した。


「やっぱり、衣装とか変わらないんですね」


 ケイトが腕や腰回りを見ながら言った。よほど残念らしい、こんなことを言ってきた。


「わたしも正式に入団したら、使えますか?」

「長い時間が経てば……あるいは完全に無理なのかはオレたちには分からん」

「ただ、短期的に習得しようとしてできるものじゃないのは確かだね」

「残念です……。トキワさんがやってたからやってみたかったのに」

「!?」

「あれ? みんなが見てるとこでジョブチェンジしてみたことあったけ?」

「確か……。ジュリアン・ショルベと対戦したときにやった気がする」

「誰だよ」

「一時期、おれに挑んでくる生徒が多かったときがあっただろう。そのときの一試合だった。相手は三年生で、忙しいなかやってきた。そんな暇人を称えてやりたくて、おれはガンナーにジョブチェンジして戦ったんだ」

「うーん、全然覚えてない」

「そ、そこまでは覚えてないんですけど、薄い紫色のコートをまとって、銃をくるくる回してるトキワさんがカッコよくて!」

「……そりゃ斧戦士さんはいつでもかっこいいよ?」

「張り合うな。ややこしいから」


 ケイトの突然の告白に、チェリルは激しい歯ぎしりをもってして答えた。

 そういう話じゃないから、とバートがチェリルを抑え込むが、今のチェリルは荒ぶる狂犬。いくら腕力が低くても、いくらバートの方が腕力が高くても、抑えきれるものではない。


「ぐるるるる……」

「文明人の知性を取り戻せ、魔法使い! 仮にも魔法使いだろ、おまえ! 900もあった知力はどこに行っちゃったんだよ!」

「そんなものは怒りと憎しみのなかに消えた……」

「なに格好よく言ってんの! 正気に戻れって!」


 バートとチェリルが激しく言い合う。それを見ながらモードは思い出す。


「ボクの記憶が確かなら、銃を使った試合ってエグイ結果で終わらなかったっけ」

「そうだな、どういうものがえぐく見えたのかは分からないが、モーション後、銃を装備するのを待ってもらって、それから容赦なく乱射レベル3を打ち込んだはずだ」

「もうその時点でだいぶエグイけど。それで?」

「死角に回って相手をおちょくったり、背後から暗殺狙撃してみたり」

「キミ、ほんとに相手に敬意払ってたの?」

「最後はクイックドローで決着をつけたはずだ」

「ホントに酷い試合。クイックドローって要は電光石火でしょ? 早いだけの弱攻撃。それで仕留められるって相当弱ってたってことじゃない」

「三年生なら勉強してろよってツッコミを全弾に詰め込んでみました」

「あっ、こいつ初めから称える気なんかなかったな?」


 トキワの変わらない表情を見ながら、モードは確信した。

 こいつはジュリアンとやらに敬意は払ってない。断じて払ってなんかいない。

 ただおちょくるためだけに、ガンナーにジョブチェンジまでしてジュリアンとかいう男の評判を落としたのだ。


「しっかし、そんなエグイ試合だったのに、ケイトはよく見れたな」

「最初がかっこよくて、それでぼーっとしてたら全部終わってました!」

「ああ、エグイとこは全部すっ飛ばしたのね……魔法使い、見ろよこれが本当の乙女パワーだぜ」

「火に油を注ぐな!」

「乙女パワーがなんだ、斧戦士さんを一番に好きなのはこのわたしだ!」

「あー、魔法使いさんがおれへの愛を語ってくれてる。嬉しい」

「もう好きにやってろ!」


 バートは匙を投げた。燃えるチェリル氏は、抑えがなくなったことで、トキワに突進する。トキワは嬉しそうにチェリルを抱きしめる。ケイト置いてきぼり事件である。


「あのー。わたし、かっこいいって言いましたけど、チェリルさんからトキワさんを略奪する意志なんかありませんから!」

「略奪なんて難しいこと知ってるねえ」

「知っててもなかなか言葉には出せない単語だよな」

「えーと? 奪う気はないので!」

「大丈夫、魔法使いちゃん知力900あるから。理解できてるから」

「うう、恥ずかしいから離して……」

「しょぼーん」


 知性を取り戻したチェリルが赤面しながら、トキワから離れていく。トキワのテンションは明らかに下がった。

 バートはチェリルの知性が戻ったことに驚愕している。失礼な。


「だいじょうぶですか、チェリルさん」

「んー。斧戦士さんは渡さないぞー。エナフォしてやる」

「少しは手加減してやれ」


 そんなことを言いながら、一行はようやく目的を思い出す。

 山の頂点にいる、ダンジョンボス、ボルケネスドラゴンに会いに行かなくてはならない、と。


「さて、進みますか」

「魔法使い、まだ耳が赤いぞ」

「舟長、あとでエナフォな」

「魔法使いちゃん、その台詞二回目だよ」

「そっか。じゃあ、舟長。あとでエナフォ・エナフォな」

「増えてる……!」


 茶番を繰り返しながらたどり着いた山頂には、一匹のドラゴンが気持ちよさそうに眠っていた。ぐうぐう……。火山のボスらしく、赤黒い恰好をしている。


「今日は油断してるな」

「1ターンで仕留めてやるぜ」

「それだと素材盗めないぜ?」

「短期討伐ボーナスなんてものはないしねぇ」

「いつも通り、舟長が仕事するまで待機ね!」

「はいはい。運よく盗めますように」


 お祈りをしておくバート。早く盗めるかどうか、はシステムの機嫌次第。つまりリアルラックが試されることになる。ここには何度も通っているから、別に何も手に入らなくてもがっかりしないのだが、そこは人間の欲、できれば今回もいい素材が欲しいのだ。


「え? このまま突っ込むんですか? 準備とかないんですか?」

「オレたちはこの探索用装備が実質、最強装備だからな」

「わたしなんていつも本気装備しかしてないし」

「やるとしたらアビリティの付け替えぐらいか……ここのボスは弱いから必要ないだろうけどな」

「ボスが弱い……? そんなにやりこんでるんですね……」

「弱点固定だし、かなり戦いやすい相手だよ」


 アサシンがフォローするが、ケイトはやや引き気味だ。

 それも仕方あるまい。冒険者の性が、このボスを倒して素材をはぎ取れと言うのだから。

 いい素材を集めるため、使命を燃やすスカイアドベンチャーには、撤退の文字はないのだ!


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