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アナライザー4

 

 話変わってスカイアドベンチャーの二人は、暗い夜道をてこてこ歩いていた。斧戦士トキワと一緒に。何故トキワがいるのかと言うと……。

 事の次第はこうである。

 ケイトと別れてすぐ、やけに暗ったい道に差し掛かった時である。急にセスがチェリルを呼び止めたのだ。


「魔法使い、ストップ」

「へ?」

「おまえ、なにしてるんだ?」


 闇の中に話しかけるセスを不思議に思いつつ、待機するチェリル。すると、闇の中からなんとトキワが現れたではないか!

 相変わらず、闇の中から現れたがるトキワの行為に、チェリルは叫び声を抑えられなかった。


「ふんぎゃー」

「なんでここにたどり着いたか、とかは聞いちゃダメなんだろうな」

「おれはいつでも魔法使いさんのそばに現れるよ」

「ストーカーじゃねーか」

「いいストーカーさんだよ」

「ストーカーにいいも悪いもあるか!」


 セスのツッコミで、凍り付いていたチェリルが復活する。誰よりもチェリルに甘いトキワは、彼女になぜここにいるのかを問われると、違う答えを言ってきた。


「学園内を探しても魔法使いさんが見つからないから心配して探しに来たんだ」

「ほげー。わたしだってたまには夜更かしするよ」

「学園内って……おまえ、あそこなかなか広いじゃねーか」

「念ずれば、魔法使いさんが半径どのくらい外にいるかぐらいは分かる。今回はそれが学園の外だと分かっただけだ」

「なお怖いわ」

「舟長もアサシンも心配していた。帰ろう、魔法使いさん」


 セスのツッコミを無視して、チェリルに手を差し伸べるトキワ。

 チェリルはなんのためらいもなく手を取って、トキワに言った。


「うん、帰ろー」


 そして時間は巻き戻る。おててつないだトキワとチェリルが先頭に、セスは後ろについて二人の後をついて歩く。トキワとセスは足音を消しているので、チェリルのポテポテいう足音だけが響く。暗い夜道。ライトフラッシュの灯りが三人をまろやかに照らし出す。


「そういえば寮の門限って何時だっけ?」

「八時だ」

「まだ大丈夫か」

「間違えた。十八時だ」

「……急いで帰らないとヤバくね?」

「そうだな」


 そうだな、じゃねーよと思うセス。

 トキワはチェリルを抱えて、走り出す。斧は邪魔なのであらかじめしまっておいた。セスは遅れないように二人の後を追った。

 トキワもセスもステータス上の素早さは低いが、運動神経が発達していてアクションは得意だ。第一、ステータスの素早さは知力と同じで、実際の運動力には反映されない。反映されるのは戦闘時の行動順ぐらいだ。

 だから、二人(三人)の影はあっという間に学園の門までたどり着いていた。


「ちょっと飛ばし過ぎたか」

「おにょにょー」

「そうだな、魔法使いさんが危険状態だ」

「ちゃんとお姫様だっこすれば良かっただろ。そんな小脇に抱えて……酔うわ!」

「……うちの魔法使いさんが恥ずかしがらずにいられると思うか?」

「そりゃあ……やってみないと分かんねーよ」


 そうだな、と頷きそうになったセスである。一応やってみないことには分からないということにしたが、同時に高確率で恥ずかしがるだろう、とセスは思った。

 学園の門はもう閉まっていたので、塀をジャンプで乗り越える。

 今日の当番をしていた担当の教師が目を点にするのが見えたが、お構いなしだ。

 寮に向かって一直線。


 担当教諭は夢を見た、ということにしてやろうと思い、浮かしかけた腰を下ろす。確かめるようにもう一度振り返ったときには、すでに静かに門が佇んでいただけだった。


「左から足音。なんだ生徒か」

「え? あ、ほんとうだ……見えてないうちから言わなかったか? おまえ」

「見られたあとに先公だと分かっても、遅いだろ」

「遅いけど、どう考えてもおかしい」

「足音でだいたいの人のサイズが分かるだろ? この学園に大人の生徒はいない訳じゃないが、大半は未成年の学生だ。サイズが大きいやつに警戒してるだけだ」

「ね? 簡単でしょ? ってことか。オレにはさっぱりだが……」


 セスが頭をかく。

 チェリルの意識は既にない。トキワは細心の注意を払って彼女を運んでいたが、とうとう目が回ったのか途中からぐったりとして動かなくなった。


「なあ、魔法使い、やばくね?」

「……はやく部屋につきたいな」


 セスの質問には答えず、トキワは先を急ぐ。

 トキワにだってこの状態のチェリルがやばいことぐらい分かっている。

 しかし。不運なことに、三人はぎりぎり間に合わなかった。


「剣士、いま隣の部屋にセインズが入っていった」

「今日セインズさんなのかよ。困ったな、このまま進むと普通にバレるよな」

「ああ。置いて来て良かった。分体からアサシンに伝える。幻覚の用意を」

「相手、セインズさんだぞ? 騙し切れるか?」

「余裕だ。こんなところで魔法使いさんの経歴に傷をつけてたまるか。剣士、魔法使いさんを頼む。ちょっと本気出してくる」

「……ほどほどにな」


 目の前で黒い霧になって消えるトキワに、セスはぽつりとこぼす。

 聞こえていないだろし、聞こえていても実行しないだろう言葉を。


 セインズはチェリルが、学園内の初めての対戦で打ち負かした教師の名だ。

 この学園の卒業生であるセインズは、かつて生徒時代にだいぶブイブイ言わせたらしい。

 そんな彼が撃ち破れられてしまったのだ、彼の同級生やほかの魔法課の教員の注目がチェリル・グラスアローに集まってしまうのは仕方のないことだった。


 そしてほかならぬセインズ自身も、チェリルの動向には気を付けているらしいのだ。

 こんなとこで隙を与えてはいけない、とトキワは思ったのだろう。

 かなり過剰に巨大な力をもってして、またセインズを打ち負かそうとしている。


「やりすぎ注意だぜ……」


 答える者のいないなかで、闇に紛れながらセスはもう一度つぶやいた。




 朝。すずめがチュンチュンなく頃。チェリルは目が覚めた。

 昨日なにしていたのかあまり覚えてない。というか、布団に入った記憶がない。


 いつ、わたしは寝たんだっけ、と時計を見て驚いた。

 八時五十五分。

 授業は八時半からである。


 飛び起きたチェリルを待ち受けていたのは、机に張り付けられたメモ用紙。そこには、昨日は遅かったから、ゆっくり寝ていていいとの言葉が。


「誰が書いたんだろう?」


 トキワやアサシンの、ましてやスカイアドベンチャーの誰でもない字は、チェリルを混乱させた。辿るように昨日の記憶を探り、ふと思い出した。


「あ、ケイトちゃん! ……ってそんなわけないよね」


 スカイアドベンチャー式鍛錬の新たな仲間の名前である。

 ケイト・ノーマン。支援課アナライザー志願の一年生だ。


 彼女は昨日、確かに家へ送り届けたのだから。朝早くにわざわざこんな紙を置いていく暇はあっただろうか。それに、休んでいていいなんて生徒が言えるセリフじゃない。

 じゃあ、誰? 昨日の出来事を知っていて、なお休ませてくれるなんて……。


 チェリルは寝間着を脱いで、服を着て、いつものウィザードローブ(高級品)を羽織って、布団に潜り込んだ。

 誰だか知らないが、二度寝していいというなら従おう。もう授業に出ても遅いし……。

 結局、誰が書いてくれたのかは、その日の昼食まで分からずじまいだった。


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