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アナライザー3

 

「はへえ、つ、疲れた……」

「動きっぱなしだったもんね。大丈夫? ヒールかけてあげよっか?」

「あの、へいき、です。スタミナ的な疲れですから……」

「なるほど……スタミナを回復する魔法か、ありだな」

「そこの人、魔法を作る前にやることがあるだろ」


 セスにたしなめられたチェリルは、へへっサーセンと返してから、ケイトに向き直った。

 荒い息を繰り返すケイト。チェリルは眼鏡をかける。

 そのメガネは、誰かのステータスを見られるマジックアイテム。スカイアドベンチャーでも掘り出し物にあたるレア物だった。

 特殊なメガネをかけたチェリルには、ケイトの上がっていくジョブレベルが見えていた。

 とうの昔に一次職を突破し、ベテランダンサーになった彼女は、ステータスも大きく成長し、スキルも10個以上覚えていた。


「わっ、こんなにスキルが……」

「状態異常系スキルや補助スキルは相手がいないと使いづらいから、覚えたてのヒールダンス:レベル3を鍛えるのはどうかな」

「えっえっ、ちょっと待って、ヒールダンスってどれ!?」

「落ち着け。まずこういう時は余計なスキルは非表示にすると分かりやすい」


 セスが急くチェリルを押しのけて、ケイトのスキル表を触った。

 ちなみに1タップで表示のON・OFFが切り替えられる。ランダムダンスはレベル2まで覚えているので、レベル1の方は非表示にする。


「おい、魔法使い。ヒールダンスは1と3を残しといた方がいいよな?」

「そだね。そっちの方が回復量の調節がしやすいと思う。あ、でも知力低いと大差ないか?」

「知力云々はこの子にはまだ早いだろ。それに、それなりに知力があるなら僧侶のヒーリングエリアを覚えた方が色々と効率いい」

「えー、えーと……。ついていけない……」


 ケイトが取り残されたのを知って、チェリルが言う。


「要はヒールダンスの回復力に限界を感じたら、ヒーリングエリアに変えた方がいいってこと。でも、全体回復魔法って取るの時間かかるから、しばらくはヒールダンスでいいと思う」

「そうだ、一つだけデメリットがあるとすれば、メニューから回復できないってことがあるんだが……あんたには関係ない話かもな」

「そうだね、異世界人はいろいろと優遇されてていいなあ」

「そりゃ、ここで生きていくために生まれてきた人たちだから優遇されるに決まってんだろ。変なシステムに縛られてる訳でもないし」


 チェリルが指をくわえてケイトを見る。

 当然、ケイトには何のことか分からない。おろおろと二人を見るが、チェリルもセスもなんとも言えない淡い微笑を浮かべているだけだ。


「???」

「ごめんね、なんでもないよ。さあ、今日はこの辺りにして、とりあえず解散といたしましょうか」

「なんでもないって……気になりますよー」

「うんうん、ごめん。でも今日はすっかり暗くなっちゃったし。大丈夫? 部屋まで送ろうか?」

「私は寮じゃなくて実家なので……」


 だから、心配無用だと伝えたつもりのケイトだったが、スカイアドベンチャーの二人はそうは受け取らなかった。

 仰天したチェリルが慌ててケイトの手を掴む。セスは散らかった備品を片付けに行く。


「も、門限とかはないの!?」

「ありますけど、大丈夫です。勉強して遅れたなら怒られませんから」

「で、でも親御さんが心配するでしょう!」

「親御さんだなんて。大丈夫ですってば、昨日も同じぐらいの時間に学校を出ましたし」

「そ、そうなんだ。でも送っていくよ。遅くなったのはわたしの責任だし」

「そうだぜ。こんな暗いなかを女の子一人で歩くのは危ない。オレもついていくよ」

「え、ええ……ほんとだいじょぶなのに……」


 送ってもらうことになってしまったケイトは小声で反抗するが、スカイアドベンチャー2/5には届かない。あなたの親御さんにも会いたいわ、とチェリルが言うのを聞いて、ますます恐縮する。

 ごく普通の家庭なんですけど……。一家全員アナライザーなとこを抜けば、ほんとありふれた家族なんですってば!


「そういえば、親御さんはこういう新しいやり方には反対の人?」

「私のうちは放任主義なので、私が意欲を持ってやる分には反対しないと思います」

「良かったぁ。たまにいるのよね、頑なに邪道だからやめろって言う人。邪道だからやらないのは分かるけど、こっちまで矯正されちゃうんじゃたまったものじゃないよ」

「魔法使い、愚痴は厳禁だぞ」

「あ、そうだった。ケイトちゃんごめんね。いやあ、親御さんに叱られない雰囲気みたいで助かったよ。わたし怒られるの嫌いだし」

「私だって怒られるのはいやです」

「怒られるの好きな人の方が珍しいぜ、たぶん。オレも嫌いだからな」


 校園の門を出て夜道を歩く。学園の近くは街灯があって明るいが、少しわき道にそれただけで辺りは真っ暗闇に包まれる。夜目の利かないチェリルがライトフラッシュの魔法を唱える。周囲は一気に明るくなった。


「ライトでよくね?」

「ライトは覚えてないし、これSP消費そんなに悪くないんよ」

「まあ、明るい方がいいか」


 ライトフラッシュは覗き犯から透明人間まで、すべての隠された道を明らかにする、照明魔法である。スペルメイカーであるチェリルが作ったもので、最近は天然温泉から個人のお風呂にまで設置が検討されている。

 この魔法を公開したとき、誰でも使っていいよ、という設定にしたため、頒布率は高いようだ。チェリルには一銭も入ってこないが。最近、見る機会が多くなった自分の魔法に、チェリルはご満悦である。


「私の家はここです」

「おお、立派なおうち。おじゃましまー」

「待て。オレたちの門限も近い。お邪魔してる暇はないから、帰るぞ」

「ぬぼーん。じゃあケイトちゃん、また明日ね」


 セスに止められたチェリルは、意味不明のつぶやきを漏らして、インターホンに伸ばしていた手を引っ込める。しばらく押したそうにうずうずしていたが、やがて諦める。


「明日の放課後は、SKのみんなで冒険に出ようと考えてるんだ。ケイトもどうだ?」

「ぼ、冒険ってどこまで行くんですか?」

「すぐ近くのヘテワ火山まで、素材取りに行くぜ」

「そ、それなら出られるかもしれません!」

「じゃあ、放課後に学校の門の前で集合ね!」


 チェリルが満面の笑みで約束をちぎる。ケイトはうんうんと深く頷いた。

 バイバーイと手を振って、ケイトは家の中に入る。家の中は明るくて温かい。

 食卓までたどり着くと、すでに夕食の用意がされていた。いつも食器を並べるのは自分の仕事だったので、誰かがやってくれたのだろう、と思う。

 この揃ってない具合を見るかぎり、弟のラリーだろうか。


「ただいまぁ」

「姉ちゃん、遅いよ! もうオレおなかペコペコ!」

「いつもとそう変わらない時間でしょ。お姉ちゃんは学校で勉強してきたの。それより、これあんまり揃ってないわね。ちゃんとやったの?」

「姉ちゃんの代わりに手伝わされたんだよ!」


 姉弟のにぎやかなやり取りに釣られて、父マークが下りてくる。


「キャサリン、ローレンス。お話は食事中にしよう。父さんもおなかペコペコだよ」

「父さん……、なんでもないときにフルネームで呼ばないでって言ってるでしょ」

「それ、そんなに気にすることじゃないじゃん」

「うるさい、乙女心は複雑なのよ! 着替えてくるから!」


 キャサリンと呼ばれたケイトは口をとがらせて不満をあらわにしたが、弟のローレンス、略称ラリーはそんなに気にしてないらしい。ドンドンと音を立てて階段を上っていく姉を見て、不思議そうな顔をする。父さんはいつもそうじゃん。とでも言いたげな顔だ。


「ああ、また怒らせちゃったかな……」

「今日は姉ちゃんの好きな肉だから、食後には機嫌直ってるよ」

「ローレンスは意外とドライなんだな」

「姉ちゃんのかんしゃくにいつも付き合ってちゃ、体が足りないよ」


 そう言って自慢げに鼻を鳴らすラリー。しかし、二階から姉の怒りのこもった叫び声が響くと、さっと顔色が変わった。


「ラリー! なによこれ、片付けて!」

「やべっ片付けてなかった」


 慌てて階段を駆け上っていくラリーの後ろ姿を見て、マークは安心する。

 まだまだ子どもなんだ、と思ったのかもしれない。とにかくマークはほっと息をついて、妻のいる台所を振り返った。


「ローレンスもキャサリンも、元気いっぱいで嬉しいね」

「なあに? メインディッシュはそろそろ焼きあがるから待っててね」


 マークは二度言うことはしなかった。とんちんかんなことを言っている妻に微笑んで、照れたようにこう言った。


「なんでもないよ」


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