インフォメーションバトル
「んー。妙だな」
「なにが妙なのです? お父さま」
「チェリル・グラスアローに関する情報がまったく入ってこない」
「お父さまもチェリルさんに興味があるのですね」
「そうだね、グロリアの話を聞く限りじゃ面白い子らしいから。そうだ、グロリア。もしよかったら、本人に聞いてみてくれないか」
「なにをです?」
「グラスアローの魔法使いはきみかって」
「分かりましたわ!」
父のことが大好きなグロリアは快諾する。
そして父からのおつかいを抱えて、魔法使いに会いに行くと、珍しい人が彼女のそばに座っていた。斧戦士だ。
「珍しい組み合わせですわ」
「そうでもない」
「えっ? いまどこから声がして……」
「グロリア! どうしたの、こっちだよ!」
「ああ、今行くわ」
小走りで駆け寄るグロリア。
こんな些細な仕草でも女の子らしさって出るんだな、と魔法使いは感心していた。
何考えてんだおまえ。
「そうだ、お父さまから伝言があったのでした」
「グロリアのお父さんから? なんだろ」
「グラスアローの魔法使いってあなたのこと?」
「そうだよ。グロリアのお父さん、すごいね。まだまだマイナーなこの名前を知ってるなんて」
「そんなことはない。スペルメイカーは年寄りばっかだから、若い子の話は話題になる」
「どんな理論だ。スペルメイカーの若い子なんてこの学園にはたくさんいるでしょ?」
「魔法使いさんぐらい、すごいスペルメイカーはいないよ」
「はいはい、わたしびいきわたしびいき。いつも斧戦士さんはそうなんだから」
「照れなくてもいい。事実だから」
「もー顔が熱くなるからやめてー!」
なんだ、この茶番。グロリアはいちゃいちゃしている二人に真顔にならざるを得ない。
保健室でもこんな感じのやり取りがあった気がする。
「そうだ、グロリアといったか。おれからお父さまへの伝言を頼む」
「お父さまへの? なんでしょう」
「あんまり魔法使いさんを探らないでくれ。以上だ」
「……? 伝えます」
「必要な情報があれば、一覧にしてくれ。こっちで答えを出すから」
「それも伝えた方がいいかしら」
「ああ、頼む」
ジェラルドは、娘から今日の出来事を聞いてため息をついた。
グロリアはきょとんとしながら言う。
「最近、ため息が多いですわ。お疲れですの?」
「いいや、全然情報が入ってこなかった理由が分かってホッとしてるんだよ」
「そうですか。老け込んで見えましたので、心配しました」
娘のひとことに、一瞬脳が真っ白になる。
老け込んで……まさか、そんな。ぼくはまだ35だぞ。
「お父さま?」
「あ、ああ。偵察員もプライドが邪魔したんだな。まさか学園の生徒に情報戦で競り負けたとは言えまい」
「???」
「すまない、こちらの話だ。それで、彼は誰なんだい?」
「トキワ・リック。スカイアドベンチャーの斧戦士だと聞いています」
「ふむ。彼についても調べたいが、また妨害されてしまうかな」
「知りたいことがあったら一覧にしろって言っていましたわ」
「果たして答えてくれるのだろうか。いや。物は試しだ。夜の間に一覧を作るから、明日持っていってくれないか」
「分かりましたわ、お父さま! お休みなさいませ!」
答えを聞かず飛び出していく娘に、若さを感じて脱力する。
そして、翌日、グロリアが持ち帰ってきた一覧を見て、ジェラルドはたいそう満足したそうな。夜中に聞こえてきた笑い声にグロリアは不安を覚え、父を尋ねるとまさかの発信源。そっと扉を閉めたのだった。




