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魔術師ふたりと秘密のお部屋2

 

「じゃあ、わたしも知力を鍛えればもっと強い威力が出せるのね?」

「やるかい? 道は険しいよ」

「あら。わたし根性だけはあるのよ?」

「ふふふ。じゃあ、教えてあげる。転生の仕方をね」


 魔法使いは共有倉庫から『いのちの雫』を一つ取り出し、グロリアのステータス表に置く。

 グロリアのレベルはちょうど50。転生にはよい頃合いだ。


「行くよ」

「ええ」


 肯定の意をくみ取った魔法使いは、実体化したいのちの雫をステータス表に押し込む。

 やがてステータス表の色が水色から淡くなっていって、白に染まる。

 光が収まると、水色のステータス表が何事もなかったように浮かんでいた。


「はい。これでまたレベル50まで上げると強くなってるよ」

「待って。転生はわたしに何をしたの?」

「ある程度の力を持ったまま、レベル1に戻したの」

「レベル1に!? わ、わたしの魔法防御が……」

「レベル50なんかすぐだよ、すぐ。ダメ?」

「うぅ、うわあああん」

「な、泣いちゃった! どうしよう……そだ、EXPタブレットがあるじゃん」


 ちゃんと説明しないからこういうことになるのです。

 説明下手だから、やって分からせるっていうのはダメってことですね。


「EXPタブレットは使わないから余ってるんだよね」


 鍛えてきたすべてがなくなってしまった、とむせび泣くグロリア。

 スキルもスキルの熟練度も失われていないが、グロリアはそれを知らない。

 幼い頃の、力のなかったレベル1に戻ってしまったと思っている。


「ぐ、グロリア。これを食べれば、少しレベルが戻るはず」

「うう……これは本当なの?」

「わたしは食べたことないけど、美味しいって聞いたよ」

「そんなこと言って……! またわたしのこと騙す気でしょ!」

「仮にレベルが下がる薬だったとしても、レベル1だからそれ以上、下がらないじゃない」

「……そうね。だったら食べてやるわよ! 全部よこしなさい!」

「全部はダメです」


 猛烈な勢いでタブレットを食べるグロリア。ステータス表の数値が動き出した。

 魔法使いは初めてのことに驚いた。バグかと思ったのだ。

 これはひとえに異世界人であるグロリアと、異なる世界のシステムに縛られるスカイアドベンチャーとの差異が出ているのだろう。


「ふぅふぅ。それで! どうなったって言うの!?」

「そんな怒らないでよ……レベル23まで上がったよ」

「23なんて半分以下じゃない。返してよ! わたしの努力を!」

「……あのね、落ち着いて」

「落ち着いていられる訳ないでしょ! あなた卑怯な人ね。勝てなかったからってこんな仕打ちをするなんて! サイテー」

「……」


 流石の魔法使いも青筋がびきびき言い始めた。

 話聞けよ。超低音でぼそりという。聞きとがめたグロリアが何!?と叫び返す。

 無理もない。普通のレベル23はあまり強いとは言えないからだ。

 強さを一番の指標にあげるランス家の娘である。このまま家に帰ったらなんてどやされることか。もう家には帰れない。そんな覚悟まで決めていた。

 魔法使いは耐えた。耐えて、耐えて、爆発した。


「だったら、これで目を覚ませ! エナジーフォース!」

「なにっ、ちょっと室内で魔法撃つとか非常識にもほどがあるわ!」

「普通のレベル23だったらこれでやられるかもしれないけど。グロリアは違う」

「聞いてよぉ。ってあれ、気絶してない……?」

「あなたのステータス表をよく見るがいい。その魔法防御、ほんとうにレベル23のものか!?」


 グロリアが水色のステータス表を取り上げる。魔法防御の値は325。なんとレベル50の時より高かったのだ。

 装備品のおかげもあろうが、この数値に呆然とするグロリア。

 知力の値は? 防御力は? 素早さは……? すべてさっきの値を上回っていた。

 グロリアはさっき自分が言った言葉を思い出していた。

 最低だと罵った気がする。卑怯者だと蔑んだ気がする。でも、これは……。


「ほんとに強くなってる?」

「レベルの横には正しい数値がでないの。今のグロリアは73レベなんだよ」


 73? 転生というのはレベルを1にすることではないのか?

 そう思うグロリアは目をぱちぱちとしばたたかせた。

 普通、こんなに上昇率は良くないのだが、これも異世界人の差異なのだろうか。

 スカイアドベンチャーはこの転生を既に三回繰り返してあの数値である。

 これではあっさりと追い抜かれそうだ。


「わたし、あの、ごめんなさい」

「いいよ。わたしの説明不足だった訳だし。でも、みんなレベル1って嫌なんだね」

「そりゃあ嫌だと思うわ。物心ついた時には既に8レベルぐらいはあるもの。レベル1なんて何もできない赤ちゃんよ」


 冒険を始めたときがレベル1だったスカイアドベンチャーとは大違いである。

 おそらく、異世界人のレベルはスカイアドベンチャーほど急速には上がらないのだろう。

 でなければ、相当な鍛錬を積んでいるというグロリアが齢19にしてレベル50だったというのはおかしい。スカイアドベンチャーは結成してからの六年間で約200レベルが上がっているのに。

 魔法使いはEXPタブレットを与えたのが正しい判断だったのか、分からなくなっていた。

 彼女の感覚ではこれほど急速にレベルが上がることは珍しいはずだからだ。


「そうだ、いのちの雫一個使っちゃったから、なにか代わりのものちょーだい」

「あとから言うのはちょっと卑怯ですわ。お金でなんとかできませんの?」

「いいけど、そうだなあ。一個の相場、一番安いので三万だったかな」

「ああ、今月のお小遣いがすっからかんだわ」

「まいどありー。早速バンクにいれとこー」


 何もない空間に手を伸ばし、緑色の画面を取り出す魔法使い。画面に向かって札束をめり込ませると、喰われるようにして札束は消えていた。入金終了である。

 右上のバッテンをタップして画面を消す。


「これで舟長に叱られずに済む」

「舟長って、さっき保健室にいた金髪の?」

「そうそう。あいつアイテムと金のことでは守銭奴っぷりを発揮するのよ」

「そんなに気が強そうなイメージはなかったけど」

「すごいのよー。マジで鬼って感じ」

「鬼?」

「えーと、モンスターのオーガ的な」


 しまった、と魔法使いは思う。この世界にはオリエンタルカントリーなるものは存在しなかった。よって、侍も忍者もジョブの世界にしか存在しない、架空のものである。

 巫女さんもいない。がっくし。


「それにしても、こんなことを何度も繰り返すなんて、ホントに道は険しいわね」

「だから最初に言ったじゃない。やるかい? って」

「レベル50に上げるのはなかなかきついから次はないかもしれないわ」

「キミはたぶん、一転生で十分強いと思うよ」


 本心からそう言った魔法使いであった。

 なんども転生されては、こっちの立場がない。次からこの方法は教えないことにしよう、と決めた。それなら、グロリアへの口止めもしなくてはならないことに気付く。


「グロリア、この転生法は……」

「分かってるわ。言わない。言っても無駄よ。誰にも再現できないんだから」

「え?」

「このステータスを映し出してくれる装置と、激レアな素材が必須なんでしょ?」

「確かに……。グロリアは冒険者になる気はないの?」

「代々ランス家は国の魔術長になるのが倣いなの。わたしもそこを目指しているわ」

「冒険者なら、転生の材料はいずれ手に入るよ」

「魅力的だけど、そっちにはいかないわ。わたしたちは、いずれ来る戦いのために力をつけておかないと。国のために戦うの。わたしたちの世界を守るの!」


 グロリアの熱き思いが炸裂する。そして魔法使いの返答がこちらである。


「うーん、英才教育」

「あのねえ……」

「わたし、田舎者だから、国に縛られず生きる方が性に似合ってるのかも」

「そう。でもよかったわ」

「んー?」

「あなたも魔術長を目指すって言うならライバルが増えるところだったんですもの」

「なるほどね。でも、冒険者の門はいつでも開いてるから。グロリアの大規模魔法陣なんてどこでも引っ張りだこだよ」

「仕事がいやになったら行くかもしれないわ。その時まで待っててくれる?」

「当然! わたしたちは永遠に冒険してるもの!」


 乙女の笑い声がさざ波のように広がっていく。

 魔法使いとランス家の娘はこの日を境によく話すようになった。

 魔法使いに友だちといえる存在ができた瞬間である。


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