魔術師ふたりと秘密のお部屋1
魔法使いの部屋にたどり着いたグロリア。
すっかり凍えていた彼女は、魔法使いに温かい飲み物を要求した。
魔法使いは顔が引きつるのを感じながら、なんだこの偉そうな客は!と思いながら、初めての同級生を迎え入れた。ついでにココアを作ってやった。
「ええと、グロリアちゃんが聞きたいのはさっきの対戦のトリックだよね?」
「そうよ。あなたという例外さえなければすべての魔術師の中級魔法は耐えられるよう、鍛錬してきましたのよ? それが通用しないなんて。あなたはどんな魔法の鍛錬をしたというのです?」
「簡単に言うと、システムが違うからなんだけど、それじゃ分からないよね。わたしのステータスを見せてあげる」
「システム? ステータスなんてあまり人に見せるものじゃないでしょう。高いし」
「うーん、それが一番わかりやすいと思うから」
そう言って魔法使いは、スノードームみたいな水晶玉を自分の心臓の前に置いて、しばし待った。すると水色のステータス表(魔法使いには見慣れたものだが)が出てきて一枚の板になった。それを魔法使いはグロリアに無造作に投げて渡す。
「ちょ、ちょっと! もっと丁寧に扱いなさい!」
「えーそれかなり丈夫だし、大丈夫だいじょうぶ。壊れたら新しいの出せばいいんだし」
「分かってますの!? その水晶玉、とても高価なものでしょう! レンタルかなにか知りませんけど、返す時も考えてもっと優しく扱うものですわよ!」
「あ、こっち? これはスカイアドベンチャーの私物だよ」
魔法使いは水晶玉を一撫でして元の位置に戻す。これをちゃんとやっておかないと、舟長が、守銭奴の舟長があとで怒るのだ。高い買い物だったから仕方ない。
「か、買ったら二億はするものを……!?」
「あー、冒険者から買ったからかなり安かったんだよねー。確か二十万くらいだったかな。ギリギリ貯金してた分で買えたよ」
「あなたがた、そう裕福な家庭でもないでしょう。グラスアローもブレイカーも聞いたことないですもの。どこからお金を捻出したんですの?」
グラスアローは魔法使いの家名で、ブレイカーは剣士の家名だ。
五人とも同じ田舎の島国からの出身で、誰もが平民の子だ。家名が知られていないのも当然のことである。
「わたしたちは冒険者だから。スカイアドベンチャーって聞いたことない? 結構名が売れてきたんだけど」
「スカイアドベンチャー? 悪いけど聞いたことないわ」
「まあ、まだ中堅どころだからね。冒険者のなかではわりと有名なんだよ。飛行船を持ってるから」
「その年で中堅なのはすごいと思いますわ。それにしても飛行船?」
「うん。空飛ぶ舟を所有してる。じゃあ、スカイアドベンチャーの話はここら辺にして」
一旦魔法使いは話を置く仕草をして、投げ捨てたステータス表を見ながら言った。
「わたしの知力値、900越えなんだ」
「……? 確かにそうですわね」
「あれ、ピンと来ない? それじゃ、グロリアちゃんのステータスと比べてみる?」
「こんな高価なもの、他人に使わせていいんですの?」
「その方が分かりやすいし。わたしもグロリアちゃんのステータス見たいし」
「そんな理由で……いいです、わたしも腹をくくりましょう。えい!」
可愛らしい掛け声とともに、グロリアのステータス表が出来上がる。
魔法使いはそれを一瞥してグロリアに手渡した。今度は丁寧に。
「さ、それとわたしのステータスを比べてみて」
「わたしの知力の値は521。あなたは926……倍近くありますわね」
「魔法防御の値も見てみると面白いよ」
「あなたが301、わたしの魔法防御は300ぴったり……。あなたも相当な訓練を積んでいますのね」
「まあこれはジョブ補正が強い感じかな。普段はもっと低いよ」
「よくそれで、対戦で無敗を貫いて……、あ。さっきので連勝は途切れてしまいましたわね」
「実はグロリアちゃんと戦う前にハンフリーという少年に敗れてまして」
「とっくに連勝は途切れていたのね、情報が古かったわ」
ハンフリー少年は同じ魔法課の生徒だ。魔法使いがハリケーンマジックという新技をお披露目したときの対戦相手で、その場でハリケーンマジックを破った強者でもある。
あれは解説した魔法使いの自業自得ということで、スカイアドベンチャーは負けを認めている。そもそも冒険者である彼らは対人よりも対モンスターとの闘いに秀でている。この程度の負けで悔しがったりしないのだ。
「それで、このステータス値が何を指し示すのです?」
「ここの世界は同じ魔法を使い続けることによる熟練度か、威力の強い上級魔法を使うか、どっちかが威力上昇の肝としているけど、我らスカイアドベンチャーを律するシステムはもう一つの威力の上げ方があるとしているの。それは……」
「もったいぶらないで早く教えてくださいな」
「ステータス値、知力が、魔法の威力に反映されるということだよ」
「つまり、同じ魔法防御値を持つ者なら、知力値の高い方が威力をより強くすることができる、という訳?」
「そうだね。より多くのダメージを与えることができる。特に環境魔法によって威力が左右されない無属性魔法は、その軽減率を魔法防御に頼ることが多くなる。そして知力で増幅されたエナジーフォースが、あなたに当たって体力を一気に減らした。それだけなんだよ」
魔法使いはそう言って説明を締めくくった。
「わたしの魔法防御があなたの魔法を受け止められなかったのは、ひとえにわたしの想定していた一般的な魔術師の知力をはるかに上回っていたから」
「おお、簡単にまとめられた」
感心する魔法使い。最初からそういえ、と言いたくなるが、彼女は彼女なりに一生懸命説明していたので許してほしい。




