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スカイアドベンチャーと敗北2

 

 チェリルはエリオット教師を見送って、起き上がる。HPバーは満タンだ。休息は必要ない。

 必要なら自分でヒールをかければいい。チェリルはぎょっとした顔のグロリアをスルーして、スカイアドベンチャーの面々を見た。

 この件はあとで。――了解。

 それから何事もなかったかのようにおしゃべりを始めた。


「ところで、みんな授業どうしたの?」

「オレは呼び出しされたって伝えて教室を出たから、サボリではないはずだ」

「サボリです」

「おいおい……オレはたまたま自習だったから簡単に抜けてこれたぜ」

「ボクは授業なかったし」

「あーそうなんだー。心配かけてごめんねえ」

「なに、魔法使いさんのためなら授業なんてポイさ」

「おい。おまえの魔法使いへの愛の強さは分かったから、授業はちゃんと受けろ。卒業できないぜ?」

「おれ舟長ほどアホじゃないから、サボっていい授業とわるい授業ぐらい心得てますー」

「おー舟長の血管がびきびきしてるー」

「最初の一言、完全に余計だよね」

「信じられませんわ……他学課の生徒と言うのはこんなにも野蛮なんですの?」


 グロリアちゃんが何か勘違いをしているが、これはかなり悪い例である。と、声高に言いたい。チェリルが唯一知る、銃士ガンナー課の先輩ジェイムズ氏はかなり落ち着いた性格をしていたような気がする。

 同じ銃士課の授業を受けるトキワとは大違いだ。おっと斧が飛んできた。


「おーい、おまえら。交友を深めるのもいいが、そろそろ授業行けよー」

「あっと怒られた。じゃあ舟長、この戦いはまたあとで」

「やる気もないくせによく言うわ!」

「ああ、頭が痛いです……」

「大丈夫? グロリアちゃん、わたしの寝てたベッドでよければ貸すよ」

「なんであなたはそんなに元気なのか教えてくださる!?」

「サーセン」


 いつもの調子でグロリアに返事をするグラスアローの魔法使い。

 理想と現実の差に、わなわなと震えるグロリア。しかし、チェリルはもう隠す必要はないと思っていた。というか、隠す気なんて初めからなかったのだが。

 どういう訳か歪んでしまった、自分の姿を今のうちに修正しておこうと思ったのだ。


「さっきの対戦、なかなかスリル満点だったでしょ。わたしもそうだけど」

「あなた、普通に喋れるのね。あなたの放った魔法はエナジーフォース、無属性魔法の第三級でしょ?」

「うん。特別に改造したエナジーフォースとかそういうのじゃないよ。たぶん、他の生徒があの魔法を唱えても、あなたの魔法防御の値次第ではあるけれど、ほとんど通用しないだろうね」

「第三級魔法といえば中級魔法と同じ威力……。わたしの魔法防御は中級魔法を軽減できるように調整してあるから、本来ならあなたの魔法はほとんどダメージが通らないはずなのよ」

「……えーと、グロリアちゃん、次の授業なに?」

「マイカ先生の授業があるけど……どちみち遅刻だわ。それよりあなたの話を聞かせて欲しいの」

「魔法課の子ってどうしてこんなに押しが強いのん……?」


 思わず語尾も変わるチェリル。他に押しの強い魔法課の子とは、先輩のクララ・メルダさんのことだろう。彼女は初対面のチェリルに対して質問攻めを敢行した少女である。

 いやーすごかったなー。まあ、チェリルさんもすごい勢いで答えてたけどね。

 そのあと、めっちゃ魔法の話で盛り上がってたし。


「じ、じゃあ、わたしの部屋で話そう。ここは新しい患者さんがくるかもしれないし」

「意外に気にされますのね」

「いや、ここは気にした方がいいと思うのん……」


 チェリルは小声で反対した。保健師の先生もうんうん頷いている。


「じゃあ、オレたちは解散か」

「また昼に会おーぜ」

「ボクたちも授業遅刻してるけど何とかなるよね」

「なんとかなる、なんとかなーる」


 呪文のようなものを唱えながらトキワが消える。黒い霧が残って、空気中に溶けていく。

 また、ぎょっとした表情を隠さないグロリア。これは理解できる。

 バートが舌打ちをした。


「あいつ……他人がいるときはするなっつってんのに」

「いや今の感じだと、置いておいた分体になにか起こったんじゃねーか?」

「なんだろうね、指名でもされたのかな」

「斧戦士さんなら、遠隔操作で分体ぐらい動かせそうだけど」

「分体の方が性格凶暴だって以前言ってなかったっけ」


 平然と話しを進めるスカイアドベンチャー、マイナス1。

 分体とは、斧戦士の分身である。いわゆるそのままのコピーというやつではなくて、完全に異なる自我を持った存在である。そのため、まれに斧戦士本体が望んだのとは違う動きをすることがある。表面が溶けたりするし。

 まあ、そんなことはどうでもよくて、とにかく斧戦士が人知を超える力を持っていて、それを授業中だとか日常生活で頻繁に扱っているという事実を知ってくれれば十分だ。


「な、なにが起こったのかしら。闇属性のワープ? それとは違う、邪法を使用した?」

「あー、斧戦士さんの力について考えると頭がおかしくなってくる(黒歴史的な意味で)ので、やめておいた方がいいと進言しよう」

「あなた、魔法使いの癖して研究熱心じゃないのね」

「研究するとじたばた暴れまわる羽目になるのに、それでも研究を進めよ、というのですか?」

「それとも専門分野が仲間の能力じゃないというのかしら?」

「ねえ、聞いてます?」

「えっ、何の話です?」


 会話がドッジボールな魔法使い組はスルーして、そろそろさすがに授業に行かないとまずいバート、モード、セスの三人。これ以上遅れると、進学に必要な授業点をもらえなくなる可能性が高い。それを思うと、不可思議な方法で消えたトキワは最適の方法を選んでいたのかもしれない。

 くっそー。あいつ一人だけ抜け駆けしやがって……!


「斧戦士を見習って、ボクはそろそろ行くね」

「アサシンちゃん。またねー」

「魔法使い、おまえは授業サボるなよ」

「まあ、ほどほどに休まないと怪しまれるし。むしろサボった方がいいのかもな。そこの魔術師さんの知識欲を満たしてやるためにも」

「わたし、次っていうかこの時間の授業ないから」

「なんだ、心配して損した」


 損したバートである。

 二時間目の授業が終わったら昼休みにはいるので、実質チェリルは自由時間がかなりあるということになる。これでグロリアの質問コーナーに好きなだけ答えられるだろう。

 グロリアはとりあえずトキワへの興味を置いて、チェリルに向き直る。


「では、まずの質問……」

「待って、ここ保健室だから! まだ移動してないから! ね!」

「でしたら、あなたの部屋へ案内してくださるのかしら?」

「うん、そうしようと思ってたけど、他人から言われるとこう感慨深いものがあるよね」

「どうしたんです? 早く行きましょうよ」

「あ、はい。先生、失礼します」

「ほどほどにしとけよ、おふたりさん」


 保健室の教員に励まされ、ようやくチェリルは外に出た。

 爽やかな空気が心地よい。チェリルは伸びをする。

 けっして保健室が窮屈だったとか、昔のトラウマを刺激されて早く出たかったとか、そういう訳ではなかったのだが、チェリルの心が晴れやかに舞い上がる。


「ここは寒いわ……はやく案内してちょうだい!」

「あ、はい」


 一方、炎の魔法も得意とする彼女は凍えていた。日陰側だったからかもしれない。


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