スカイアドベンチャーと愛の行方3
「相談聞いてくれてありがと」
「ううん、ボクにできることならいつでも頼ってよ」
「漢気あふれる回答をありがとう。わたしを見習ってもっと女性らしくなってもいいのよ?」
「うんうん。いつも通り強気なエルシーに戻ったね。良かった良かった」
「ちょっとぉ。わたしからのアドバイス聞き流さないでよ。わたしから言ってあげることなんか珍しいんだから」
「えーでも、ボク、スカイアドベンチャーの中ではかなり女の子らしい方なんだけど」
「あの子と比べるのは上達していかないと思うの」
向こう側の席に聞こえないようにトーンを落としたエルシーだった。
トキワがちょっとエルシーの方を見た。この情報通な仲間は地獄耳持ちである。
おそらくチェリルに失礼な言葉でないかチェックしているのだろう。そして……判定が出た。なんと、驚きの白である。いいのかそんなんで。
トキワはチェリルに視線を戻した。
「あ、斧戦士は論外だけど、舟長にも手を出したら厳禁だからね」
「もう、スカイアドベンチャーには手を出さないわ、絶対」
「ならいいや。安心した。もし何かの間違いで舟長が誘惑されちゃったら、ボク許さないかも」
「ど、どっちを?」
「両方に決まってるじゃない」
にっこり笑うモード。エルシーは彼女の本気を感じ取って、反射的に手を隠す。
その手がうっかり舟長と呼ばれる人に向かっていたら大変だからだ。
「なんか寒気がする」
「風邪か!?」
「オレの見立てでは風邪じゃねーと思うぜ」
「……」
日の当たる席にいたバートが震えだす。額をチェリルが触るが、熱はないらしい。
当然だ、冷気の発信源はバートではないのだから。斧戦士が迷惑そうにモードを見た。
「じゃ、そういうことだから。またね」
「もう絶対スカイアドベンチャーなんかに手を出さないわよー!!」
うわーん。泣き叫びながら走り去っていくエルシーを、食堂にいた一般生徒がなにごとかと振り返る。それを見ていたバートが余計な一言を漏らした。
「ちょっと可哀想だな。あの子」
「……」
真顔のモードと目があった。バートは死を覚悟する。
さっきまで大盤振る舞いしていた冷気がすべて引っ込められているのが怖い。
明らかに怒っていた。地雷を踏んだバートが引きつった笑みを見せる。
「アイスブレード」
冷気じゃなくて氷の剣がバートに刺さっていく。
グサ。グサ。グサ。グサ。六本ぐらい刺さったところでアサシンは笑みを浮かべた。
妖艶な笑みだった。取り込まれそうな目がふたつ、こちらを見ている。
バートは呆気にとられ……次の瞬間、最高に不機嫌なモードに首を刈り取られた。
即死の状態異常ではなく、致命傷を負ったバートへの容赦ない通常攻撃。
バートは死んだ。
「ぎゃー!」
「あっ、ご、ごめん。いますぐ片付けるから」
「人のこと言えないじゃないかー」
「そんなこと言ってる場合か! 蘇生するぞ、蘇生!」
チェリルが目の前の惨劇に叫び声をあげる。
ハッとモードが正気に戻った。いつものトーンでチェリルに謝る。
トキワが茶々を入れるが、モードには対応している暇がない。
「リバイブ!」
「生き返ったけど、オレはとりあえずどうしたらいいんだろう」
「アサシンに謝っておけ」
「無難だが、それがいいだろうな」
「はーい……」
力なく承知するバート。正気には戻ったようだが、視線を合わせてくれないモードに、長期戦の覚悟を決めざるを得ない。
近くへ行っても顔を背けられる。早くも心が折れそうなバートだった。
「今日は怖い夢を見そうだ」
「添い寝サービスは入り用ですか?」
「今夜分を予約させてください」
誰かと一緒なら、怖い夢を見た後も怖くない。その心境から、添い寝を希望するチェリル。
トキワはこの上なく嬉しかった。本来なら、いつでもチェリルの部屋の前に陣取って、安眠を妨害するすべてを打ち払いたい気持ちでいっぱいなのだ。たとえ一夜であったとしてもそれが果たせるならば、トキワにとってこれ以上嬉しいことはないのだ。
にこにこし始めたトキワを不思議そうに見つめるチェリル。
やがて自身も嬉しくなってきたチェリルは、身体をゆらゆらと揺らし始めた。
セスはにこやかな隣のカップルから目をそらし、もう一つのカップルの行く末を見る。
バートはまだ謝罪を受け入れてもらってないらしい。逃げるアサシンを必死に追いかけている。ちょっとしつこいぐらいに。
片肘つけながら経過を見守っていると、とうとう鬱陶しくなったのかアサシンがまた、ダガーを振り上げた。今度は即死効果が発動して、バートは一撃で死んだ。
モードは荒い息をなんどか吐いて、死んだバートの身体に向かって言った。
「しばらく許してあげない!」
かくして、斧戦士と魔法使いの仲は格段にアップしたが、舟長とアサシンの仲はいまにも崩れそうである。愛の行方は神のみぞ知るということか。
これにて、スカイアドベンチャーと愛の行方、閉幕、へいまくー。




