闇にたたずむ四人2
さらにさらに、即死魔法と蘇生魔法について説明するアサシンの後ろ側では……。
「おい、呼ばれてるぞ、斧戦士」
「なんでみんな、あれをエグイって言うのか分からんね」
「いや、エグイから。普通蘇生できない人ですら蘇生するんだろ?」
「あれって、死ぬ覚悟を決めて自殺した人とかでも効くの?」
「効くよ。だから、いくらでも殺して憂さ晴らしができる」
「そういう発想がエグイんだよ! もっと無いの!? 心温まる話は!」
「じゃあ、こういうのはどう? 寿命が決まっている難病のお父さん。娘を残して死んじゃった。こういう場合も斧戦士さんの蘇生方法なら生き返れるんだ」
「おお。心温まるいい話じゃないか!」
「それ、意味あるか? 状態異常じゃないんだから病気は死んでも治らない。そうすると、病に侵されてボロボロになった体に魂を戻しても、また魂は外に出てしまう」
「……効かないのか」
「病魔っていう状態異常ならいけるけど、病気だったら根本的な解決にはならない訳ね」
アサシンをほっぽいて、蘇生方法の使い方について盛り上がっていた。
斧戦士風蘇生魔法は、死から回復するだけで体力の回復はしてくれない。しかも、時を戻すように死ぬ前の状態に戻すだけなので、下手すると治るはずの状態異常ですら復活するおそれがあるのだ。
あんまり使い勝手は良くなさそうに見えるが、実際もてあそぼうとして使う分には使い勝手が良い。しかし、これで人助けをしようとなると大変である。
「うまくいかねーな」
「だいいち、斧戦士しか使えないんだし、意味なくね?」
「斧戦士が人助けするとは思えねーし」
「そうそう。オレたちが考えたって無駄だぜ」
「あんだとー! 斧戦士さんだって人助けするときぐらいあるよ! ……たぶん」
「あのね。人助けしたいならリバイブを唱えればいいと思うの」
「そうか、斧戦士も覚えてるから、使えばいいんだな」
「よっしゃ、万事解決だぜ!」
面倒になってきて、台詞使いが荒くなる舟長と剣士。
魔法使いは斧戦士を援護しようと、否定するが自信がない。
斧戦士は否定も肯定もしなかったが、ある一つの手段を提案する。
人助けには体力の回復も行えるリバイブ。
人弄りにはなにがなんでも蘇生させる斧戦士式。
これを場合によって使いこなせばいいのだ!
「ところでアサシンの方はどうなってる?」
「なんかあの人、焦燥感があったんだって」
「そういえば、マルチダ・テスラは二年生の中では名の知れた生徒らしい。つまりエリートという訳だな」
「エリートがアサシンに感じた焦燥感……?」
「思い当たるのなんか一個しかないぞ……」
「えーなにー?」
「嫉妬だろ」
「嫉妬だな」
「悋気ってこと?」
「それは浮気だから違うが、まあ、一年生で入学当初から実力を発揮した生徒がいるって聞いて会いたくなったのかもしれんな」
「オレが聞くに、ド派手な妨害行為も行ったようだし、要はいじめたくなったんだろ」
「好きな教師がアサシンに興味惹かれてると知って我慢できなくなった、とかもあるかもしれない」
「それは飛躍してないか?」
「二人の授業を担当しているアラン・ファイア教師は、アサシン職専門の教師だ。特別好意を寄せていてもおかしくない」
「本人は自覚無しかもしれないし、これ以上触れてやるのはやめようぜ」
そう話していた時のことだ。
アサシンが急にこちらに近づいて来て言ったのだ。
「そこにいるスカイアドベンチャーと会って、ボクと友だちになってくれる?」
「えっ」
「バレテーラ」
「おい」
「うん?」
魔法使いがバツの悪そうな顔でアサシンの前に出ていくが、アサシンは笑って受け入れて違うことを言った。
「もう、違うよ。魔法使いちゃんじゃなくて、舟長だよ」
思わぬ言葉に、壁に潜んでいた斧戦士が腰を上げる。剣士も闇から出てアサシンを見る。
最後に降参した舟長が天井から落ちてくると、アサシンはふくれっ面の舟長を見た。
「舟長の気配の消し方、なんか分かっちゃうんだよねー」
ニコニコしながら言うアサシン。斧戦士は共感を覚えてこう言った。
「おれも魔法使いさんに分かってもらえると嬉しい。アサシンは舟長の気配だから分かったんじゃないのか」
アサシンが意味を理解してほほを染める。
「ちょ、ちょっと何言ってるの! そういうのじゃないから! 違うから!」
「おおー熱い」
感動的に魔法使いが言葉を紡ぐ。剣士が苦笑した。
置いてかれたマルチダがくしゅん、とひとつくしゃみをした。
アサシンはマルチダにも助けを求める。が、そっけない態度を取られ涙目になる。
魔法使いが助け舟を出すが、その船は泥船、みるみるうちにアサシンは冷静さを失っていく。
魔法使いは笑いながらエナフォしようとか言ってるし。
そうこうしているうちに、アサシンがポーカーフェイスを取り戻した。
マルチダに話しかけ、驚くような条件で友だちになることを申し込んだ。
「もう? じゃ、じゃあなおさら約束の品を戴いとかないとね。さ、ボクと友だちになってよ」
この驚きの展開にスカイアドベンチャー側も黙ってはいられない。
再び闇の中に潜むと、小声で話し始めた。
「いじめっ子と友だちになれるなんて幻想じゃなかったのか!?」
「魔法使い……そりゃ幻想だろうけど、そんなにでっかい声で驚くなよ」
「マルチダ・テスラはいじめっ子だったかもしれないが、アサシンはいじめられっ子というタマじゃない。だから常識外れの奇跡が起こったのだろう」
「どっちかっていうとアサシンがいじめっ子だよな」
「誰がいじめっ子だって?」
「あ、アサシン。話は終わったのか」
「終わったよ。それでキミたちはなんの話をしていたんだい?」
「いじめっ子といじめられっ子が友だち同士になるには何が必要かという話をだな」
「そんな難しい話してたの!?」
「まさか」
「……」
斧戦士にけろりと言い返されて、アサシンは彼を睨みつける。
斧戦は涼しい顔だ!
「コイツはそういう奴だろ。睨んでも屁でもないって顔してるし」
「信じられない。もう。ほんとに」
「いてて」
舟長をぽこぽこと叩くアサシン。HPバーが減っていく舟長。
魔法使いがヒールをかけていた。剣士が舟長に補助スキルを唱える。
元凶の斧戦士は、おー熱い熱いと言いながら見ていた。
「熱くない!」
「前から思ってたけど、アサシンってこのネタに弱いよな」
「うるさい!」
「斧戦士さんとわたしだって熱々だぞ!」
「マジ熱々だから」
「そこの二人、張り合わないでくれます?」
マチルダがそっと脇を通り過ぎていったのも気付かず、スカイアドベンチャーはわいわいと話し続けたのだった。




