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スカイアドベンチャーの楽しい学園生活  作者: 紅藤
スカイアドベンチャーの受難 ~一年生~
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アサシンの受難4

 

「これで大丈夫なはず……」


 天に昇りかけた魂が重力に従って、自然に体に収まっていく。

 魂を見ることができないモードは想像して祈ることしかできないが、じっと待っていると。

 彼女が身動きした。思わず椅子から立ち上がるモード。

 長いまつげがふわりと持ち上がる。


「マルチダ!」

「うう、モード? きゃあ!」


 可愛らしい声が上がった。呆然としたモードの目の前で、マルチダはずるりと滑り落ち、したたかにお尻をぶつけた。彼女の来ていたレースの服がぺしゃりとつぶれる。

 モードは慌ててテーブルを回りこんで、彼女のそばに駆け寄った。


「だ、大丈夫?」

「誰ですの? わたしをこんな目に合わせたのは……」

「すみません、ボクです」

「モード! あなたさっきのはいったいどうやって……いたっ」


 悲鳴をあげるマルチダ。出血はどこにもないが、随分と痛そうだ。

 どこが痛いのかは敢えて聞かず、モードはヒールの魔法を唱えた。

 痛みの終了にマルチダは驚いた。


「あなた、魔法も使えるんです?」

「うん、本職より回復量は劣るけどね。調子はどう?」

「素晴らしく負けた気分ですわ」

「うん、なんかごめん」

「謝らないでくださいまし。それで――さっきの攻撃はわたしに何をしたのです?」


 マルチダはお嬢様っぽくモードをたしなめると、一番聞きたかったことについて触れた。

 モードとマルチダはランチの乗っているテーブルに座りなおす。


「あれが本物の即死攻撃さ」

「気絶攻撃ではなくて、即死攻撃? つまりわたしは……」

「一度死んだよ。でも、キミが死を認識するよりも早く蘇生した。だから、キミは今、こうしてここにいる」

「それじゃ、蘇生が間に合わなかったら……!」

「うーん、原理は不明だけど、仲間の一人に、そういう状況になっても無理やり蘇生させるのが得意な人がいるから大丈夫だよ」

「か、軽い! 死に対しての認識が薄いですわ!」


 マルチダが騒ぐ。うるさいなあ、とモードは耳をふさぐが、マジもっともなことである。


「納得してくれた?」

「まだ、納得していませんが……これはこちらで片付けますから」

「そう。なんかマルチダ吹っ切れてない?」

「そ……そんなこと、あるかもしれません。わたし、どうしたのかしら。あなたに対して感じていた焦燥感のようなものがすっかり消えていますわ」

「そんなもの覚えてたの!?」

「まさかこれは……」

「えっこれは?」


 戸惑うモードに、マルチダは意外なことを言ってきた。

 張り詰めた硬い表情。モードは構える。


「……モード。わたしはあなたに謝らなければならない気がします」

「え? どれを?」

「すべての行為をです」

「ちょっと話が見えないんですけど……」


 小声になるモード。何かが起きようとしている、しかし何が起きるのかは分からない。

 モードはそんな恐怖におびえる。


「わたしはあなたに対しての何とも言えない感情を糧に、一年生の女子生徒全員にあなたを無視するように仕向けました」

「ああ、あれ? まあ、気にしてないよ」

「それどころか、あなたの所有物を許可もなく破壊したい衝動にかられ、盗んだりしました」

「壊すのはやめてほしいなあ。二度と手に入らないだろうから」

「さらに一部の一年生に迷惑をかけ、授業を休んでまであなたを拘束し続けている」

「いいよ。ボクの授業はたまたま休みだったからさ」


 すべての行為を笑って許すモード。マルチダは耐えきれなくなって言った。


「謝るだけでは足らない気がします。なにか厳重な罰を受けないと……」

「それはボクから促すことじゃないね。アラン先生に聞いてよ」

「あなたからの罰も欲しいのです」

「女の子がそんなこと言わないの。そうだなあ。じゃあ、そこにいるスカイアドベンチャーと会って、ボクと友だちになってくれる?」

「えっそれはまさか……」


 モードの言葉に気まずさを感じて出てきた人物がいる。魔法使い チェリルだ。

 彼女は気配を消せない。だから気付かれたのだろうと思い、悄然とした表情で顔をのぞかせたのだが。

 モードはチェリルに近寄って笑いかける。


「もう、違うよ。魔法使いちゃんじゃなくて、舟長だよ」

「……」


 斧戦士 トキワがぬるりと壁から現れる。


「舟長?」


 素っ頓狂な声を響かせたのは剣士 セス。長時間しゃがんでいたのか、伸びをしている。

 そして舟長 バートは……。

 諦めたように天井から降りてきた。


「オレがなんだよ」

「だから、だだ漏れだったのは魔法使いちゃんのじゃなくて舟長の気配なんだってば」

「あんだとー?」

「魔法使いちゃんは一切気配消せてないから一般人かと思うけど、舟長の気配の消し方、なんか分かっちゃうんだよねー」

「それ、特定の人にしか発動してないだろ、アサシン」

「舟長、アサシンだから分かったのだと思えば悔しくないだろう。おれも魔法使いさんに分かってもらえると嬉しい」

「あー、つまりそれは近しい人だからとか言うこっぱずかしい理由か」

「ちょ、ちょっと何言ってるの! そういうのじゃないから!」


 赤面するモード。バートは少しスカした気分になった。

 マルチダはそれを呆然と見送る。まったく気が付いていなかった己を叱咤したかった。

 気配を消せない一般人もいたというのに、いかに自分がモードに集中していたかが分かる。

 マルチダは笑えばいいのか悲しめばいいのか、分からなくなっていた。


「ま、マルチダもそう思うよね!?」

「なにがですの?」

「その、ボクが舟長の気配を感じた理由ってのが、恋人同士だからとかいうの!」

「わたしには恋人がいませんし、その四人の気配も感じ取れてなかったから、何も言えませんわ」


 冷静になって答えたマルチダである。もう、すべてがどうでもよかった。


「アサシンちゃん、気のせいって可能性もあるよ!」

「そうか、気のせいっていう手もあるね!!」

「少し落ち着けって」


 チェリルの説に乗っかるモードだが、その姿はすっかりテンパってしまっている。

 マルチダと対決していた頃の冷静さはかけらもない。

 セスがなだめるが、その声も届いてないようだ。


「エナフォする? エナフォ」

「待て、まだその時期ではない」

「おまえ、エナフォしてリバイブすればいいとかマジ野蛮すぎ! 知力900もあるんだからもっといい案考えろよな!」

「近頃は舟長も言うようになったのに忘れてしまったのかね? 知力の値は魔法攻撃力と回復力にしか影響を及ぼさないんですよ? 頭の良さ云々ではないんですよ?」

「おまえ、自分のことけなしてるんですがいいんですか!?」

「なんでおまえら敬語でやりあってるの?」


 トキワが遠回しに阻止を呼びかけ、セスが不思議そうにバートとチェリルを見つめる。

 そのあいだに、赤面してテンパっていたモードが復活する。

 まだ頬は赤く、表情も崩れたままだが、いつも通りのポーカーフェイスをかぶった。


「ま、マルチダ。とりあえず約束の品を戴きたいんだけど」

「約束の品? はっきり言ってくれないと流石のわたしも分かりませんわ」

「ええ、マルチダ冷たい……」

「なんだか、あなたたちを見つめていたら、悩んでいた自分がバカみたいに思えてきて。これからアラン先生に会って話をしてきたいと思います」


 マルチダは決心した顔でモードを見つめる。瞳はわずかに揺れていたが、決心の現れだろうか。涙も薄っすら浮かんでいた。これはなんのせいだろう。


「もう? じゃ、じゃあなおさら約束の品を戴いとかないとね。さ、ボクと友だちになってよ」

「あ……そ、そうでしたわね。け、けどわたしでいいんですの? あなたをいじめた張本人じゃないの」

「だって同級生の女の子はみんな、キミが遠ざけちゃったじゃないか」

「すみません……」


 小さくなって謝るマルチダ。それもモードは笑って流す。


「いいよ、別に。だから今、ボク友だちいないの。キミが初めての友だち」

「あ……。分かりましたわ。受けて立ってやろうではありませんか!」

「なんか勘違いしてない? そういうのキミの悪い癖だと思うよ……」

「ふふっ、早速友だち気取りですか? わたしの友だちはみんなそういうんです」

「いや、直しなよ」


 モードはそういうが、彼女のあまたの友だちが失敗したように、マルチダには伝わらない。

 マルチダはいま、新しい決心に満ち溢れているからだ。

 モードは、はやく別の友だちも作ろう、と心に決めた。

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