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スカイアドベンチャーの楽しい学園生活  作者: 紅藤
スカイアドベンチャーの受難 ~一年生~
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アサシンの受難3

 

「さて食堂に着いたね。何食べる?」

「ほんとに何か頼むつもりだったのですか。あなたはいつも、スカイアドベンチャーのみなさんとお昼をしているのでしょう?」

「たまにはいいでしょ。ボクが楽しみにしてるのはみんなと一緒にご飯することじゃなくて、一緒におしゃべりすることだからね」


 お腹すいちゃった、と笑うモード。マルチダは毒気を抜かれたようだ。

 すっかりしおらしくなって、モードに続いて食堂の列に並ぶ。


「おすすめはある? マルチダ先輩」

「こんなときだけ先輩扱いしないでくれます? 女の子でしたらランチBが割と少量でいいんじゃないかしら」

「辛いもの入ってない?」

「わたしは平気ですから交換してもよろしくてよ?」

「おお、すごいお嬢様っぽい」

「なにに感心してるんです?」


 プレートを持ち寄って、食堂の空いてる席に座る。

 まだ昼前で、食堂の人影はかなり少なかった。

 とりわけ人がいないのがSKエリア。察しのいい人は分かると思うが、スカイアドベンチャーが座る席の近くである。


「ここにしよ。空いてるから」

「なんで空いてるかご存知ですの?」

「ヒステリックな舟長とバイオレンスな斧戦士がいるからかな」

「それだけではないのでは……まあ、いいですわ」


 マルチダは何かを諦めたようだ。さすが、スカイアドベンチャーのアサシンを務める女の子である、と悟ったのかもしれない。


「わたしが知りたいのは、何故あなたが無手課を選んだか、ということなんですの」

「さっきも言ってたね、それ。一応理由は述べたつもりだけど?」

「ええ、でも、無手課で無手でない生徒がやっていくのは苦労が伴います。わたしは納得できていないのです。あなた……ダガーを専門に扱う者が、ここにいることが」

「あーなんだ、心配してくれてたの? ちょっと気にしすぎだと思うけど。ボク、意外と頑丈だよ? スカイアドベンチャーの中でも死ににくいし」

「死ににくい? まるで死んだことがあるような言い分ですわね」

「あー。えーと、魔法や物理攻撃がそんなに弱点じゃないってことさ。SK専門用語だよ」

「そうですか。専門用語はなるべく無しにしてくださいませ」

「ごめんごめん」


 謝りながら、ミスったなあ、とモードは冷や汗を垂らす。

 スカイアドベンチャーが死なないということを知っているのは一握り。

 それこそアサシンギルドの長や偶然居合わせた冒険者ぐらいしか知らない情報である。

 この世界の常識では、人は長期間放置――リバイブなどの蘇生行為をしないという意味だ――されると死ぬ、そう決まっている。

 スカイアドベンチャーのように特殊システムに縛られないごく普通の異世界人は、致命傷を負えば死ぬ。アサシンになろうとしている目の前の彼女もそうだ。そう思い込んでいる。例外なんてないと。実に普遍的なことであると。


「……モード。どうかしました?」

「ううん、ちょっと嫌なこと思い出しただけ。気にしないで」

「そうですの」

「そういえば気にする気にしないと言えば、これ、返してもらうね」

「!」


 モードはマルチダの懐に手を突っ込み、なにかを回収した。

 マイダガーという名の短剣装備だった。かなりのレア効果が付いた、スカイアドベンチャー必需品の一つである。


「これ、結構レアな装備なんだから。持ってかれちゃうと困るの」

「いつ……いつから気が付いていましたの」

「始めから。この子をやけに熱心に見てるから気になっててさ」

「……しくじりましたわ」

「弁解とかはしないんだね。結構、けっこう」

「嫌味な人ですわね。わざと盗ませたということですか」

「そっちが勝手に盗んでいったんじゃないか。責任は自分で負ってよね」


 マルチダは何も言わず、くちびるを噛んでいる。

 その眼にめらめらと火がついてきたようだ。

 モードの笑みも復活して、濃くなる。


「授業は予備のダガーで何とかしたけど、これはボクたちの冒険に必要なものなんだ。キミにあげちゃう訳にはいかなかったの」

「もらう気はありませんでしたわ。少し確かめたいことがあって……」

「下手すりゃ授業放棄と言われるところだよ。確かめたいことってなに? ボクが答えられることなら教えてあげる」

「いいえ、結構ですわ。あなたはこれがなくても立派に授業を受けていた。わたしが確かめたかったことはそれですから」

「なるほど、ボクの肝が据わってるかどうか、確かめたかったんだ」

「そうです。この点において、あなたはわたしを凌駕する存在であると分かりましたので」


 同じことされたのかな、とモードは思う。

 それで慌てたような時期があったのかもしれない。モードは考えた。

 けどそれは……。ボクにもしていいってことにはならないよね?


「まあ、ダガーがなくても最悪、このナックルで事足りたけどね」

「! 爪装備もできるのですか」

「そんなに驚くことじゃないでしょ? アサシンを目指す人がいるなら、この装備だって珍しくないもの」

「普通は武器を一つに絞るべきですわ。多くの学生は苦学生。そんなに大量の武器を買うお金はありませんから。それに、爪装備も少数派です。ダガー装備の生徒と比べれば希少性はぐっと下がりますが……」

「ありゃ、鉤爪って案外いないの? 男の子なら一度はかっこいいってあこがれそうなものだけど」

「あなたは女の子じゃない」

「女の子がかっこいいからって憧れちゃダメなの?」

「……ダメではないですが」

「ボクの場合、理由はカッコよさからじゃないけどね」


 始めて手に入った強い武器がそれだっただけである。

 たまたま、モードが転職するタイミングで手に入ったそれは、アサシン職かモンク職でなければ装備できなかった。そのため、モードはアサシンになったのだから。


「どれだけ人を翻弄すれば気が済みますの!?」

「えっ? なんのこと?」

「いいですわ、もう。こうなったら潔く対決で決めようではありませんか」

「なにを?」

「対戦で決めると言ったら、意味は一つ。どちらが強いのか。それだけですわ」

「なんで? ちょ、ちょっと待ちなよマルチダ! さっきからキミ、支離滅裂だよ!?」

「さあ、モード・ナイトフェイ。席を立ちなさい!」

「いやいやいや。おかしい、流れがおかしいって」

「ナイフを構えてわたしと相討つのです!」

「ダガーだよ! もう! やればいいんでしょ、やれば!」


 モードが自棄になって立ち上がる。

 拳を構えたマルチダが平行移動してランチから距離を取る。

 SKゾーンの真ん中で二人はテーブルを挟んで向き合った。……さっきはSKエリアだったって? そんなこといいじゃないか、今は。


「ふふふ。わたしはずっと前からこうしてあなたと戦いたいと思っていたのかもしれません。気分が高揚していますわ」

「それ、深夜テンションと同じ類のものだと思うよ。あとになって恥ずかしさで転がらないといいね」

「参ります!」

「人の話聞いてよぉ……」


 モードは参っているようだ。それでもダガーを構え、眼力を鋭くする。

 マルチダが初撃を制する。

 モードはそれを甘んじて受けた。避けたりいなしたりしないで。

 それからモードのスキルがゆっくりと展開される。


「アサシンレイズ!」


 ゆっくりだったから発動率が上がるという訳じゃないが、運よく即死が発動した。

 死の概念が異なるスカイアドベンチャーは、その影響を相手に伝えてしまうことがある。

 それがアサシンレイズという技。相手は気絶状態ではなく即死状態になる。

 すなわち、放置すれば死ぬ状態である。現役のアサシンたちが好んで用いる技の一つだ。

 しかし、モードは慌てなかった。即死状態になり身体中が弛緩して倒れていくマルチダの腕をつかむ。それから、なんとか椅子に座らせ、彼女が死んだと自覚する前にリバイブ――蘇生魔法をかけたのだ。

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