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海賊狩りのジンとエマ  作者: 八神 涼
3/13

02 帰路

「それでは、よろしくお願いします」


 長い金色の髪を上下に揺らしながら、エマが深々とお辞儀をして見せた。今、彼女がいる場所は店前の河川岸であり、そのすぐ手前には小型の水上バスが止まっている。


「ああ。そちらこそ、ご苦労であった」


 輸送ギルド《水上の馴鹿(アクアルナ)》のメンバーである中年男性は、軽く手を上げて応えると、ジョルディーノとその一味を乗せたバスを発進させ、アステリアから少し離れた孤島「バルベルト大監獄」へと向かって行った。


「――さて」


 小さな身体を背伸びさせてから、エマがくるっと振り返った。


「帰ろっか、ジン」


 名前を呼ばれ、酒場の壁に打ち掛かっていた細身の少年が応答する。


「ああ。マスターから報酬も貰ったことだし、もうここに留まる理由はないしな」


 ジンは壁から離れ、長いブラックコートをはためかせながら歩き出す。


「あっ、ちょっと待ってよ!」


 エマはとことこと後を追いかけ、ジンの隣に並ぶ。二人の身長差はおよそ十五センチ。必然的に、エマは少し見上げながら話しかけることになる。


「あの店員さん、ジンにすごく感謝してたね」


「まあ、寸前の所だったからな。間に合って良かったよ」


 前方を見ながら素っ気なく返答するジンに、エマは「うんうん」と感慨深そうに頷く。


「ああいうので心に傷を負っちゃうと、立ち直れなくなる人も多いからね。一応、マスターにはアフターケアをしっかりするよう言ってきたけど、店員さんのあの様子なら大丈夫そう」


 深みのある柔らかな声に、ジンが朗らかな笑みを見せる。


「エマは優しいな。このご時世、他人のためにそこまで考えられる人は中々いないと思うぞ」


 彼の視線を受け取ると、黄色と青を基調としたブレストアーマーを装備した矮躯の少女は、頬を真っ赤に染め上げる。


「べ、べつに普通のことだよ。同じ女性として、放っておけないと思っただけ」


「そっか。なら、そういうことにしておくよ」


 微笑を湛えながら、ジンは再び視線を前に戻す。


 暫し無言の時間。


 迷路のように狭くて曲がりくねった路地や通りが多いアステリア。


 建物は大量の丸太の杭を打ち込み、それを土台に建設されており、玄関は運河に面しているものが多い。


 今、二人が歩いているこの辺りも、小さな民家が所狭しと建ち並んでおり、窓からは淡いオレンジ色の光が漏れてきていた。


「…………」


 パトロールも兼ねて、注意深く辺りを窺っているジン。すると、


「――ねぇ」


 と、唐突にエマが口を開いた。ジンは何事かと、声が聞こえた方に振り向く。


「ん?」


「もしさ、私が男の人に、さっきみたいなことされていたら、どうする?」


 その質問の意図するところは読み取れなかったが、ジンは即答することにした。


「まず間違いなく、そいつを殺す」


「ふ~ん。それから?」


「そ、それからっ!?」


 まさかの返しに、言葉に詰まるジン。自然と、歩くスピードも落ちていた。


「傷ついた私に、ジンは一体何をしてくれるの?」


 随分生々しい話だった。ジンは首を何度か横に振り、


「よしてくれ。そんなこと考えたくもない」


「例えばじゃん。た・と・え・ば!」


 予想以上にしつこかったからか、ジンは立ち止まり、強めの口調で告げる。


「エマ、例えばでもそんなことは絶対に言うな。お前のことを大切に思っている人が悲しむだけだ」


 次の瞬間、黄色の膝下丈ブーツの「コツコツ」と地面を叩く音が止まった。


「ごめん、そうだよね……」


 叱られた子供のように肩を窄めているエマ。


 一方のジンはというと、そこまで落ち込まれるとは思ってもいなかったのか、困ったように頬を掻いていた。


「大体、お前には俺がついているだろ。だから、絶対にそういうことは起こらないし、起こさせない」


 ばつが悪そうに明後日の方向を向いているジンを、エマはまじまじと見詰める。


「な、なんだよ?」


「うぅん。ただ、カッコいいなぁと思っただけ」


「そ、そりゃどうも……」


 二人の間に微妙な空気が流れる。


 それを嫌ってか、ジンはコートのポケットに両手を突っ込みながら「さて」と切り出す。


「そろそろ急ごうぜ。あいつらも腹空かせて待ってるだろうし」


「そうね。アリスあたりはもう寝ちゃってるかも」


「はは、違いない」


 ジンとエマは互いに微笑み合い、早足で歩き出した。


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