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浦島太郎 ~現代のお話~

作者: 金魚

 昔々、ある所に、浦島太郎という心優しい男がいました。

……「昔々」? いやいや、とんでもない。「浦島太郎」というお話は、現代のお話だったのです……。


 舞台は海水浴場。若いギャルやチャラ男の聖地。そこに、カメが漂流してきました。

「ん? あれカメじゃね? マジパネェ。見に行こうぜ!」

 チャラ男とギャル集団の一人が言いました。

「え、カメ? ヤバぁーい。超可愛いんだけどぉ」

「ツイッターにアップしようぜ! リツイート超稼げるじゃん」

「お、良いね! どうやって写真撮る? とりあえずウチがカメにまたがっとく?」

「お前、それ巷で言うバカッターじゃね?」

「そう? 大丈夫じゃね? ほら、撮って!」

 若者がバカッターを生産しようとしているところに、浦島太郎という、近くに住む男が通りがかりました。

「君達、何してるの?」

「ん? ああ、珍しくカメがいるからさ、写真撮ろうと思ってよ」

「それで、カメにまたがってるってどういうことだよ……。とりあえず、カメがかわいそうだからどいてあげなよ」

「え? かわいそうかな?」

「うん、しかもその行為は動物愛護法に引っかかるかもしれないな」

 それを聞いた瞬間、チャラ男の顔が青ざめました。

「警察には世話になりたくない!! お前ら、もうやめようぜ!」

「お前そんなに敏感にならなくても……」

「そんなこと言ったって! 俺、大学の指定校推薦狙ってるし! こんなことで人生棒に振りたくないわ!」

 そう言って若者集団はどこかへ行きました。

「良かったね。さぁ、好きな所へ行きな」

 カメは微笑むように目を細め、海を泳いで行きました。


 それから三日後。太郎は変な夢を見ました。

「夢で、カメからのお告げを受け取った……。俺、そろそろ悟るのか? 最近流行りの悟り系男子になるのか? まぁ、とりあえず、カメを助けた海水浴場に行けば良いらしいけど……」

「浦島さん? 浦島さん?」

「おお、遂に神の声が聞こえてきた……! 俺、浦島教でも開こうかな」

「違います、カメです」

「え、カメ?」

「はい、カメです」

「カメが喋ってる?」

「はい、喋ってます」

「……は?」

「先日は助けていただきありがとうございました。僕の上にまたがってた人、結構重かったんですよ。助かりました」

「そうかこれは夢か。それとも科学の発展でカメの言語が分かるようになったのか。最近の日本って凄いなぁ!」

「現実を見てください。僕ちゃんと喋ってますよ?」

「カメさんこそ現実を見てください? 普通カメって喋りませんよ?」

「いや、僕、竜宮の住人だから喋れるんですよ。普通を逸脱する存在ってかっこいいですよね。すなわち僕ってかっこいいですよね。そんなスーパークールタートルである僕の故郷、竜宮に行ってみたいと思いませんか?」

「何カメ君エキサイトしてるの? まず俺、話に着いていけてないよ?」

「詳しい話は竜宮に行ってからにしましょう」

「だから竜宮ってどこ」

「海の底です」

「はい?」

「ああもうめんどくさい! 良いから竜宮行きますよ」

「いや、行かねぇよ!?」

「めちゃくちゃ可愛い、乙姫様って人がいますよ」

「行きます」

「浦島さん、大学生のくせに彼女いないんですか?」

「うるさい!!!!」

「彼女に飢えてるんですね、分かりました」

「だからうるさい!!!!」

 太郎はカメとひとしきり話した後、カメの背中に乗って竜宮へ行きました。

「人間って海中で呼吸出来ないんだけど大丈夫?」

「大丈夫です。竜宮のイリュージョン☆がありますので」

「何だろう物凄く怖い」


「ヤバい! 竜宮のイリュージョン☆、凄い! 海の中でも呼吸が出来た! ぜひとも理屈を教えてほしい! んでもって卒論で研究する!」

「浦島さん、卒論でズルしないでください!」

 一人と一匹がいるのは海の底、竜宮。真っ青な光が差し込み、コンブがユラユラと揺れています。周りを見渡せば、どこまでも続く赤やピンクのサンゴの林。

「もうすぐ竜宮城です。ここからは歩いて行きましょう」

「えー、カメ君乗せて行ってくれないの?」

「僕、そんな便利屋みたいな立場じゃないので」

「え、違うの?」

「違います!」


 しばらく歩いてようやく竜宮城に着きました。門をくぐると、そこには美しい女性がいました。

「ようこそ、浦島さん。この前は、カメを助けていただきありがとうございました。お礼に、おもてなしをさせてください」

「え……あの……その……ありがとうございます」

 太郎は小声で言いました。

「浦島さんコミュ障だったんですか!? 何でそんなにチキってるんですか!?」

「う、うるさい……。緊張するじゃん……」

「だから彼女ができないんですね! 納得です」

「うるさい!!!!」

 それを見て微笑んでいる乙姫を見て、太郎はますます胸の鼓動が高鳴りました。


「さぁ、宴です! 浦島さん、沢山楽しんでくださいね!」

 太郎は竜宮の広間へ案内されました。太郎が席に座ると、魚達が次々と素晴らしい料理を運んできます。ふんわりと気持ち良い音楽が流れて、タイやヒラメやクラゲ達の見事な踊りを踊っています。

「ここは天国か」

 太郎は思わず口に出してしまいました。

「ええ、天国です。楽しいでしょう? 浦島さん、明日もいますよね?」

「はい、もちろん!」

 太郎のコミュ障もいつの間にか治っていました。


「もう一日だけいてください、もう一日だけ」

 乙姫はずっとそう言って太郎をずっと竜宮に引きとめ、遂には、太郎が竜宮に来てから三年が経っていました。

「乙姫様、俺に好意を持っているのかな? こんなに引きとめられるなんて普通ないよね、カメ君? ヤベぇ、俺モテ男だわ」

「黙ってください」

「だって、ねぇ」

 太郎も太郎で、調子に乗るようになっていました。

 しかし、遂に太郎も就活のことが気になるようになりました。

「まずい、そろそろ就活しなきゃ……。さすがに就職しないと親に殺される」

「随分と物騒な家庭ですね……。といっても、浦島さん進級出来てるんですか? いや、絶対留年してますよ。出席日数確実に足りないですよ」

「ハウァ……!」

「ぎゃあ、浦島さんが白目剥いた!」

「何で俺が白目剥いただけで悲鳴上げられなきゃいけないんだよ!?」

「何となくです」

「えっ」

「どうされたんですか?」

 そこに乙姫が来ました。

「乙姫様、俺、もう海上に帰らないといけません。こうやって三年間竜宮城にいられて、とても楽しかったです」

「そんな……! 浦島さん、もういっそのこと、竜宮に住みませんか?」

「でも、一応海上にも俺の帰りを待っている人がいるんです」

「そうですよね……。私は浦島さんがいなくなるなんてとても寂しいですが、私の勝手で浦島さんを困らせてはいけませんもんね……。おみやげに、玉手箱を差し上げます。この中には、浦島さんが竜宮で過ごした『時』が入っています。これを開けずに持っていれば、あなたは年をとりません。しかし、一度開けてしまうと、今までの『時』が戻ってしまうので、決して開けないでくださいね」

「は、はぁ……。何かよく分かんないけど、分かりました」

「浦島さん、バカなんですか? カメでも分かりますよ」

「うるさいカメ君。良いから俺を海上まで送りなさい」

「何で送ってもらう側なのに偉そうなんですか……」


海上に戻った太郎は、周りを見てびっくりしました。

「あれ? 三年で結構世界って変わるものだな。うん、日本って凄い」

 そこは確かにあの海水浴場でした。しかし、何かが違います。

「家に帰るかな……。母さんに殺されるかな……。とりあえず、『自分探しの旅に出てました☆』って言えば何とかなるだろ。……あれ? 家は? ないよ? 俺の家ないよ?」

 太郎の家はなくなっていました。よく見ると、出会う人も皆知らない人です。

「あの、すみません」

 太郎は一人の老人に話しかけました。

「僕浦島太郎なんですけど、僕の家知りません?」

「浦島太郎? ああ、確かその人なら、七百年ほど前に海に出たきり、帰って来ないって聞いたことありますよ」

「な、七百? 七世紀? どういうこっちゃ」

「こういうこっちゃです」

「何かノってくれてありがとうございます」

「いえいえ」

 しばらく太郎は一人で考え込みました。そして、竜宮での三年は、海上の七百年にあたることを悟りました。

「俺はもう一人ぼっちなのか……。ああ、母さん、会いたいよ。俺に言い訳をさせてくれよ」

 そんな時、太郎の目に玉手箱が映りました。

「乙姫様は、この玉手箱を開けると、『時』が戻ると言っていたな……。もしかして、『時』が戻れば、七百年前に戻れるんじゃないか!? 乙姫様は開けるなって言ってたけど、俺、このまま生きていくなんて出来ないよ。すみません、乙姫様!」

 太郎は玉手箱を開けました。そこからは白い煙が出てきました。

「おお、これは……」

 煙の中に、竜宮や乙姫の姿が映りました。そして、楽しかった竜宮での三年間が、次々と映し出されました。

「そうか、俺は、竜宮に戻ってきたんだ……!」

 太郎は喜びました。しかし、玉手箱の煙は次第に薄れていきました。

「待って、待ってくれ! 俺は、一生竜宮に住むんだぁ!!」

 煙の中から出てきたのは、大学生の太郎ではなく、髪もヒゲも真っ白の、ヨボヨボのおじいさんである太郎でした。

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