第1話『もらい水』
朝顔に鶴瓶取られてもらい水
まだ、夜も空けきれない早朝…私はけたたましい携帯電話の音で目を覚ました。
何度も何度もしつこく鳴る着メロを、最初は無視していたが鳴り止む様子を見せないので、出た方が早いと、眠たい目を擦りながら電話へと手を掛けた。
『…はぃ…』
迷惑そうに、小さく応答した。
『もしもし、愛子!お母さんだけど』
何だかとても慌てた様子な母。
『何…?』
私は、そんな母の動揺ぶりにも関わらず冷たく言い放った。
『今から、タクシーで急いで病院に来て!おばあちゃんが危篤なの。』
必死の様子の母をよそに、私は祖母が危篤だと言われても対して、どうとも思わなかった。いや、むしろ心の中で
(やっと、死んだんだ。)と冷ややかに呟いた自分がいた。
『愛子…?』
『分かったよ。じゃぁ、すぐ支度したらそっち向かうから』
面倒臭そうに、そう言うと電話を切った。
祖母が体調を崩して入院をしたのが、私がまだ15才の時だった。それから、何度も入退院を繰り返して、最後に脳溢血で倒れたのが今から2年前だった。
それからはほとんど意識がなく、生命維持装置に生かされている日々が続いた。
高校を卒業してすぐ家を出てしまったので、最後に祖母の顔を見たのはもぅ2年も前になる。
ほんの電車で20分の距離を、私は仕事が忙しいと理由を付けては実家にも寄り付かなかった。
あの家は、家族は私にとって鬼門なのだ…。
簡単に身支度を済ませると、呼んでいたタクシーの中に乗り込んだ。
街はまだ、目覚める前の静寂を漂わせている。
私は、まだ薄暗い空を窓越しにただ、ぼんやりと眺めていた。
『もらい水』
朝顔の蔓が、井戸の汲み上げる為の綱に絡みついていて、その蔓を取ってしまうのがかわいそうだから、隣の家に水を分けてもらいに行く。
そんな、優しい心の人を唄った詩です。