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赤い果実と夏の幻想

作者: ひとくい

月に妖しくかかる白、宝石箱をひっくり返したような星空。素敵な夜に響くお囃子はセンチな心も塗り替えるような胸踊る音楽で。

今夜は夏祭りだ

屋台の客寄せ声に盆踊りの音頭、朦朧(もうろう)と淡い赤を放つ提灯(ちょうちん)

毎年この季節になると仲間内で騒ぎだし、誘い合う。

今年は仲のいいクラスの男友達のメンバーで行くことにした

待ち合わせ時間より少し早く待ち合わせ場所に来て祭りの雰囲気に浸っていると様々な人間ドラマを目にする

小さい子供の手を引く楽しそうな家族

泣き崩れてる彼はフられちゃったのかな?

なんて心の中で思っていると友達が謝罪をしながら走ってきた

『ごめんごめん!おそくなった!』

俺を合わせて四人の男グループでまわることになった

『まずはイカ焼きだよな!』

『たこ焼きも捨てがたいぜ!』

葡萄飴(ぶどうあめ)なんてものもあるぞ!』

皆思い思いに自分の考えを口に出していてもはや収拾がつかなくなっている

祭りのせいか仲のせいか皆早歩きで声も大きくなってしまっている

俺も歩幅を合わせて賑やかな夜を過ごすことにした


それぞれ食べたいものを買って落ち着いて食べれる座れる場所を探しているとふいに一つの屋台に目がうつる

【りんご飴】

丸ごと一つの林檎(りんご)を飴でコーティングしたお菓子だ

俺は吸い寄せられるように屋台の前に立つとお金を出しながらりんご飴を二つ注文していた

『あ!いたいた!どこいってたんだよ!』

ふいに呼びかけられびっくりしながらも笑顔で返す

『お前りんご飴すきだっけ?』

まぁな、なんて簡単に流すと友達の一人が見つけた座れる場所に皆で座って少し遅い晩御飯をはじめた


『いやぁ今年も遊んだねぇ…』

もう夜も更け、祭りを楽しむ人ごみも嵐が去ったかのように跡形もなくなくなっていた

『じゃあ!今日はこの辺で解散にしますか!』

ばいばーい、と皆が見えなくなるまで手を振ったあと俺は祭りの通りにある一つの寺院に寄った


『おーい、来たぞ』

一つの石の前に立つ

『お前の大好きなりんご飴買ってきてやったんだからもうちょっと喜べよな!』

その石はとても綺麗で儚いように見えた


ある女の子の墓石だ


それも大事な大事な女の子の


俺は墓の前にりんご飴を静かに置くと自分用のりんご飴を一口かじった

『…これのどこがいいんだ?全く…』

少しはにかみながらも一口、また一口とりんご飴をかじっていった

口の中に広がる甘味と少量の酸っぱさが今は亡き彼女との思い出を蘇らせた


半分ほど口にすると林檎(りんご)独特の甘酸っぱさに加えてすこししょっぱい感じもしてきた

『大好物…買ってやったのに…食わないのか?』

石の前の赤い果実は少年の願いを裏切るように買ったときのままで


去年の夏祭り、浴衣を着た君と歩いた


いつものようにりんご飴を片手に綺麗な笑顔で俺と話してくれた


思い出せば出すほど感情が水となって流れ落ちた


もういない…もう会えない…


ふと涙で潤んだ瞳で墓石を見るとりんご飴を片手に持つ彼女が見えた気がした


ふいている風が言霊を運んできたかのように『ありがとう』

と切ない声で、愛しい声で囁いた気がした


目を擦りもう一度君に向かってはにかんで見せてから踵を返し、歩を進めた


去っていく愛しい少年をりんご飴をつかみ涙まじりに見送る少女の姿は夏の幻想の彼方に消えた


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