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どうやら勇者は(真祖)になった様です。  作者: 兎ノ花成海
第零章 魔王を倒すまで
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3話 0-3 旅立ち

すいません、大変遅れましたー!

「……だから、私も一緒に魔王退治に行くと言う事です」


 このセリフは、聖女ミランナのものだ。

 それは、この世界に召喚されて1ヶ月、基礎的な剣や魔法の鍛錬をつみ、こちらの世界にも慣れてきた頃……つまりは、勝人が勇者としてこの国(聖都)をつ数日前の事になる。





 ──ブゥン!


 鋭いとは言い難い風切り音が鳴る。


「い……っち、まんっ!!」


 それと同時に剣を放り出し、全身で呼吸をしながら倒れ込む勝人。

 全身を滝の如く流れる汗が地面に染みを創るその姿を見れば、今の今まで行っていた修行の大変さが窺えるだろう。


「よーし、まだまだ動きに無駄が多いが、最初の頃に比べれば大部良くなってるし、細かい所は後々(のちのち)の実戦で身に付くだろうし、取り敢えずは終了だ」


 そう勝人の訓練を監督するのは、『聖騎士団一番隊副隊長』こと、クライア・ハルバー(四十二)。

 何だかんだで意気投合したこの二人、今ではすっかり歳の離れた友達の様に仲良くなっている。


「よぅしボウズ、後は旅立ちの日までに買い物とかしとけよ。実際に国を出てから『買い忘れー』とか言って戻って来たら、格好がつかんからな」


 ガハハと豪快に笑うクライアと、それもそうだと苦笑いする勝人。

 こうして見れば、不思議な事に親子に見えなくもない。

 前にも言ったが、クライアは日本人離れしたりの深い顔立ち。対する勝人の顔は、良くも悪くも典型的な日本人のもの。

 それでも尚 親子に見えるのは、2人から出される雰囲気がそうさせているから なのかも知れない。


「カツヒト様、アテス様がお呼びです」


 と、この城の召使いの1人が声をかけて来た。


「ああ、わかった。場所は?」

「2階応接間、七号室との事です」

「そうか……ほらボウズ、さっさと汗拭いて来い。ほい駆け足!」

「う、うすっ!」



 そんなやり取りをしつつ、場所は変わって応接間。



「良いですか?カツヒト様。旅立ちの日まで、いよいよ残り3日です」

「……あぁ」


 と、敬語なのにどこか尊大さが滲み出るこの少女は、この聖都で1、2番目に偉い聖女。

 ……なお、同い年、もしくは少し歳上だと思っていたのだが、なんと勝人の2つ下、16歳だったのだ。その事を伝えると、当然ビンタを貰ったのだが、その理由を勝人はまだ理解できない様である。


「……なので、そろそろ出発当日の事を教えておこうと思います」

「出発の日? 何かやるのか?」


(そう言えば予定日と、その日までに戦闘とか生活の事とか、諸々出来る様になれー位しか言われてなかったな……)


「んで、何すんだ?」

「そうですね……簡単に言ってしまえば、パレードです」

「パレード?」


 その時勝人の脳裏に浮かんだのは、小さい頃に1度だけ見た、某ネズミの国の大行進。


「勇者といえば、世界を救う救世主。その存在を世界中に知らしめると同時に、国民総出で勇者様を歓迎し、見送るのです」

「なるほど……」


 それはわかった。うん、それは良いのだが……と、勝人は目をやる。


「えーと……話は変わるんだけど、そこに居る人って……」


 実はこの部屋に入った時から、ソファに座るミランナの斜め後ろに、クライアと違い厳つい……と言うよりは、シャープな感じの男が立っていて、ずっとこちらを睨む様に見つめて来るのだ。


(地味に恐いんだが……)


「あぁ、紹介がまだでしたね。彼は“聖騎士団団長及び一番隊隊長”ギリアヌス・オルドマテラ。一応、この国で一番強い騎士になりますね」


(へぇ、クライアのオッサンより大分若く見えるけど、人は見かけによらないって事か…………)


「ええと、宜しく……ギリア────」


 と、恐る恐る挨拶しようとした時、ギリアヌスのメガネが閃光を発したっ!


「貴様ぁぁぁぁっ! 私を名前で呼んで良いのは、ミランナ様だけだぁぁぁあああっっっ!!」

「うおぉうっ!?」


 次の瞬間、勝人の頭の横を何かが掠め、ソファを貫いた。

 見れば、巨大なランスに映る、自分のマヌケ面──別に本当に勝人が間抜けな顔をしてるのでは、たぶんなく、平面で無いランスに映ったため歪んで見えているだけだ──が見え、サーっと血の気が引く音が聞こえた。


「──っす、すいませんっした!? え、えと……オ、オル…………」

「オルドマテラだ。覚えておけ」

「は、はいぃ」


(おっかねぇ! 何だこの人っ?!)


 ──命の危機を感じつつ、勝人は気を取直して2つ目の質問をする。


「……えっほん、あー質問と言うかお願いと言うかー」

「何ですか?」

「図々しいとは思うんだけどサ俺ってほら──この世界来てまだ日が浅いだろ? 常識にも疎いしさ、まだ魔物との実戦とかもした事ないし──」


 そこまで言って、ミランナ──と言うよりギリアヌスの目が、さっさと用件を言え、と訴えて来てるのに耐え切れなくなり、慌てる勇者カツヒト。


「ええと、さ……」


 そこで一旦言葉を切って、プライドをかなぐり捨て言う。


「──心細いから、責めて次の街位までで良いから、誰か着けてくれないかっ!?」

「……何だ、そんな事ですか」

「へっ……?」


(そんな……事? え、なに? 恥を忍んで聞いたのに対して、そんな事? マジで? 何で? why? なに、ふざけてんの?


 ─────何て事、ちっとも思ってませんよ? いやいや、本当に。

 ……別にアレだよ? オルドマテラさんが睨んで来たからとか、ランスを握る手に力が入ったのが見えてビビったとか、そーゆーのじゃナイデスヨ……?)


 そんな水面下の(一方的な)争いにも気付かず、ミランナはのほほんと話を進める。


「その事については問題ありません。第一、もしさっさと勇者を放り出してすぐに野垂れ死にされてもコッチが困りますし。

 それに、何の為に“聖女”が居ると思いますか?」


(何だろう、日本で言う天皇──つまりは国のシンボルとか? …………って)


「それとこれと、何の関係があるんだ?」

「そんなの決まってるじゃ無いですか。……一緒に行くんですよ」

「一緒にって──誰が?」


 頭の中がハテナで一杯の勝人に、ミランナは「つまりですねー」と続ける。


「……だから、私も一緒に魔王退治に行くと言う事です」


(…………ん?)


「えーと、ミランナ……さん?」


 勝人はボリボリと頭を掻きながら尋ねる。


「つまりそれは……俺がミランナと二人旅──」



 ザクッ



「うおおうっ!?」


 ──瞬間、猛烈に嫌な予感がして身じろぎした、その時。

 先程まで勝人の頭があった所に、またしてもランスが突き刺さっていた。


「貴様ぁぁぁぁっ! 何を巫山戯た事を言ったっ!? 貴様の様な輩がミランナと“二人“旅だあっ?! 巫山戯るのも大概にしろ小僧、あまり巫山戯た事をかしていたら、殺 す ぞ!? もう巫山戯た事を言うなよ?! 2度と巫山戯るな! わかったなっ?!」

「……はい」


 勝人は、正直に言って、ドン引きしていた。


「ギリアヌス、言い過ぎですよ……すみませんカツヒト様。彼、少し口は悪いですが根はいい方なんです。

 ……と、話を戻しまして、信仰して下さる民と共にある“聖女”ですが、これまで殆んどの時間を司教座聖堂(大聖堂)で過ごして来た事もあり、やはり世間の常識に疎いのもまた事実。

 ですので、カツヒト様をサポートする私のサポートをする為に、こちらのギリアヌスも旅に同行するのです」

「な、なるほど……」


 納得──だが、ギリアヌスち上手くやって行けるだろうかと、勝人は不安を隠しきれない。


 そんな勝人の内心に気付いていないのか、はたまた気付いていて無視しているのか、聖女様ミランナは呑気にパレードの日程を話し始めた。



 まったく……と、2人に聞こえない様に小さく溜め息をついて、勝人は苦笑いをしながら適当に相槌を打つのであった。











『ミランナ・アテス 女 16歳

 MP 1260/1260

 聖都の聖女。メインの装備は特注の聖女セット,聖本。実年齢より高く見られるのが最近のお悩み。』


『ギリアヌス・オルドマテラ 男 23歳

 MP840/840

 聖騎士団団長及び一番隊隊長。メイン装備は巨大な円錐型のランス,これまた巨大な十字盾,そしてミランナの似顔絵が入ったロケット,眼鏡。

 酔狂なミランナ信者である。

 元はスラム出身で、パンを分け与えてくれたミランナを守り、より近くに居るために努力に努力を重ねて、なんと22歳で団長まで登りつめた。』

次回予告

魔王戦。


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