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23話 2-6 授業2

お久しぶりです!

 授業は進み、各人が素振りをしている。

 鎌使いの講師ジャックは、生徒1人1人の元に足を運び、丁寧に指導して行った。


 不真面目そうな見た目に反し、根は真面目なのかも知れない。もしかすると、わざと浮ついたキャラを演じているのかも知れない。

 生き生きと指導する彼の表情は、純粋に鎌使いが増える事を喜んでいる様にも見える。

 絶対的に人口の少ない鎌使いだからこそ、鎌への愛情が強いのだろう。


 そしてジャックは、ロザリーの所へ回ってきた。


「おうおう、お前は大鎌使ってんのか。物好きだねぇ」


 そういってロザリーの素振りを見物し始めるジャック。

 おちゃらけた態度とは裏腹に、その瞳はロザリーの素質を見極めようとするかの様な、真剣なものだ。

 そして、その細められた目が見開かれるのには、そう時間がかからなかった。


「……お前、どこでその動きを学んだ?」

「……」

「いや、門外不出だってんなら無理に言わなくて良い。ただ、相当な腕前だ」


 お前ならすぐに立派な鎌使いになれるだろう。そうジャックは呟いた。


 実は、ロザリーとジャック、その戦い方にはある共通点があった。

 それは、足遣いである。


 ロザリーの使う剣術、つまりは勇者勝人の大和流円流柔剣術は、敵の間合いに入る時、また斬る時に独特な足裁きをする。

 それは円を描く様な足裁きである。


 敵の攻撃する線を外しつつ、自分の攻撃する線に相手を捉える。

 そうして一気に潜り込み、敵を切り払うのが真髄であるのだが、それはジャックの使う鎌術と似ているのである。


 鎌はその構造上、通常の直線的な動きでは最大限の力が発揮できないのだ。また、刈り取る動作をする為に、鎌の間合いは非常に狭い。

 相手の攻撃を抑えつつ、急接近しなければならない為、その動きは蛇のような、独特の曲線を描く。


 そう、ロザリーの動きは、ジャックのそれと似ているのである。

 ロザリーはジャックのパフォーマンスを見た時に、ジャックはロザリーの素振りを見た時に、それに気付いたのだ。


「……そうだな、もしお前が鎌術を本格的に学びたいってなら、街の冒険者ギルドに手紙を送ってくれ。まあ、その気があるなら、だがな」


 その後、1、2点アドバイスをして、ジャックは隣の生徒の元へと去って行った。








「──ってことが、あった」

「へぇ、すごいね! ロザリー」

「先生に気に入られるなんて、やるね―!」

「それで、どうするんですか? 姫様」


 その日の放課後、学園の敷地内にあるカフェでロザリー、ディア、アリサ、ヘンリーの四人は集まっていた。

 学内にあるだけあり、メニューに書かれた金額はどれも良心的だ。


 ロザリーは紅茶を啜りながら、武術の授業であったことを話したのである。


「……?」

「鎌を習うなら、手紙を送る様言われたんですよね……それで、姫様は使いたいんですか? 鎌……」


 どうするのか、という曖昧な訊き方にロザリーが首を傾げると、ディアは確認するように尋ねた。

 アリサやヘンリーも興味津々といった様子でロザリーの答えを待つ。


「……かま、かっこいい」

「ってことは……」

「てがみ、かく」


 どうやらロザリーの答えは決まっていた様である。


「ロザリー、すっかり鎌が気に入ったんやねー」

「……でも、実際どうなんだい? 鎌って」


 鎌とは、武器としては相当使いにくい物であるはずだ。格好良さだけで選ぶにはリスクがある──暗に、ヘンリーはそう言っているのである。


「……なれ」

「な、慣れかい……」


 事もなさ気に言うロザリーに、顔をしかめるヘンリー。


「じゃあ、帰りに便箋を買っていきましょうか~」

「ん」


 相変わらず無表情に、それでいてどこかワクワクした様子で、ロザリーはもう1度カップを傾けた。








「──さて、今日君達に使ってもらうのは、これだ」


 灰色の髪を無造作に伸ばし、やる気のなさげな視線で生徒たちを一瞥する男性教師。

 その右手には、ランプが握られている。

 しかし肝心の火を灯す部分には、火を灯すロープがなかった。


「これは見たことぐらいあるだろ。光を発生させる魔道具だ。

 魔法構造学を学ぶにあたって、まずは基礎中の基礎、ランタンの魔道具を作ってもらう」


 そう、この授業は魔法構造学の実技の時間である。

 これまでは座学で、魔方陣などについて学んできたが、いよいよその仕組みを再現する過程まできたのだ。


「いやぁ、授業ほとんど寝てて全然おぼえとらんなぁ……ロザリーちゃんはどお?」

「ん、たぶん、大丈夫」


 数人で集まって、班を何組か形成し、各班で魔道具を作り提出する。それが課題だ。

 ロザリーは、アリサともう2人の4人で班を作っていた。


「えっと、魔方陣を描いて、その魔力供給源として魔石を置くんだよね……」

「うん……」

「光を生み出す魔法陣かぁ……たしか、無属性やったはず」

「光そのものは、無属性。光属性は、回復に能力アップ」

「まあとりあえず、紙に書いてみましょう」


 4人は相談しながら、魔法陣を描いていく。

 魔方陣は円が基本だ。力の循環・集中と、魔法が成り立つ土台や領域をあらわすのだ。

 そしてその中に、魔法の設計図を書き表すのである。

 それは実は数式の様なものであって、簡単なもので、仕組みをしっかり理解していればそれほど難しいものでもない。

 魔法構造学の授業をしっかりと受けているものならば、実はヒントが無くても作ることができる程度の課題だ。

 ロザリーはすでに回答が思い浮かんでいたが、見た目は幼くても中身は成人済み。

 グループの子達に考えさせようと、要所要所ヒントを与えながら作業を見守った。


「ようし、これならできるはず!」

「先生に確認してくるね!」


 そして出来上がった魔方陣は、教師に提出し、正解であれ不正解であれ、発動しても問題なしと判断されれば、魔力の塊、魔石を渡される。


「オーケーもらえたよ!」

「じゃあ、こっちの台座に魔法陣を書き写して、発動してみましょう!」


 もちろん、この紙に描いた魔方陣は清書しなければならない。

 ただの黒いインクだと魔力が上手く流れないのだ。


 魔方陣を書くには、魔力伝道の良い物質を使わなければならない。

 授業ではあまり伝導性の良くない、安い物が使われる。


「うーん、これでいいかな」

「……たぶん、大丈夫だと思う」

「よーし、はつどうしてみるか!」


 そしていよいよ、その時。

 ランプの台座に魔法陣を書いた円盤を置き、魔力供給源となる魔石を中央にはめる。

 後は魔石から魔力を引き出す“魔力呼び”を行えば、陣は発動する。


 緊張感が高まる。

 ロザリーとしては、生まれてから初めての魔法だ。見慣れたはずの現象に胸が高鳴った。


 4人を代表してアリサが、魔力呼びを行う。と言っても、魔石にほんの少し魔力を注ぎ、魔石から魔力を溢れさせるだけなので、誰にでもできる作業なのだ。

 ちなみにじゃんけんで決まった。


 一瞬他の三人に目配せをし、アリサがそっと魔力を流し込む――と、一瞬魔方陣が輝き、その上に光の玉が生まれた。


「……! やったぁ!」


 その光に照らされた4人の顔が、明るくなった。

 魔術的な明かりは熱は発しないものの、人工的な光と違って寒々しさもない。

 むしろどこか温かみのあるその光は、太陽の光にも似ていた。



 それからは、各々がランプを点けたり切ったりとして遊んでいた。


「あれ? ロザリーちゃんさっきから見てるだけじゃん。ほら、やりなよー」


 それを黙ってみていたロザリーに、ランプが回ってきた。

 礼を言い、差し出されたランプに手を伸ばす。

 明かりが着いたままのそれにランプに指が触れた、その瞬間。


 ――ピキンッ


「えっ?」


 突然、明かりが消えた。

 明かりが消えただけでなく、その発生源である魔法陣、その中央にはめられていた魔石に、ひびが入っていた。


「あー、これは魔石の魔力切れだね~」

「なんやそれ」

「……授業でならった。魔石のなかのまりょく、なくなると、ませきこわれる……」

「あらら……ついてないわねぇ」


 その後、教師に魔石の代わりがないか訊きに行ったが、残念ながらもう魔石は無いと言う。


「うーん、落ち込まないで、ロザリーちゃん」

「だい、じょぶ……」


 ロザーリア・レイゼン。見た目は幼い少女でも、中身は成人済み。

 こんなことでは落ち込まないのだ。


「あ、あとでお菓子あげるか――」

「おかしっ!?」


 その言葉にうつむきがちだった顔を勢いよく上げるロザリー。

 瞳を輝かせる銀髪の少女に、三人は苦笑いで顔を見合わせるのであった。






 その夜、ロザリーは部屋にいた。

 ディアはすでに眠っている。


「……たぶん、原因はわかった」

『やったじゃん』


 部屋の主である銀髪の少女は、暗闇に幽鬼のような赤い瞳を向けた。

 その視線の先には、誰もいない。あくまではたから見て、だが。


 ロザリーの視界には、透けるように宙に浮く、自分と同じ姿形をした何かが見えていた。

 それはロザリーの“ロザリー”としての意識の塊だ。


 勝人としての意識が目覚めた影響なのか、こうして現れるようになった霊のような何かは、昼間はその姿を現さない。

 それは吸血鬼だからなのかどうなのか。ロザリーには判断できなかったが、あまり興味を持っていなかったため問いただすことも無かった。


「かくしんは、持てない。……でも、まちがっていないはず」

『たしかめないの?』

「あした、たしかめる」


 そう答えたロザリーの視線は、手のひらの中で転がるひび割れた魔石に移されていた。

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