エブリシング ドクター ドリトル
20XX年。
動物の言葉を翻訳する機械が開発された。
動物愛護団体は、その翻訳機の存在を喜び、動物の待遇向上を考えて政府に働きかけた。そのため、全てのペットに翻訳機をつけることが法律で決められた。
その後、ペットと人の間に発生した問題を以下に記す。
ケース1
OL:私の何が気に入らないっていうの!
ぺティ:気の向いた時だけかわいがって、後はほったかし。餌だけあげてりゃ生きてるよっ
て態度が気にいらないんだよ。
OL:仕方ないじゃない。私は仕事もあるし、疲れている時だってある。それを癒すために
ワンちゃんを飼ったのに…
ぺティ:ほら、その言葉使いもシャクにさわる! ワンちゃんだと! 名前だってぺティ
なんて軟弱なのを付けやがって。 俺は男だ! もっと男らしい扱いをしろ!
OL:それだと、私がペットを飼う意味がなくなるわ。私は犬を思いっきりかわいがりたいの
よ。
ぺティ:だったら、他の犬を飼え! 俺と一緒にいる意味はない!
OL:ぺティ何故なの。こんなかわいいトイプードルちゃんが、どうして、こんなに男っぽい
の!
動物愛護員:見た目は関係ありません。あなただって、見た目はこうなのに、中身は全然
違ったなんて言われると怒るでしょう。それと同じことが、このぺティにもお
こっといると思ってください。
ぺティ:とにかく、俺はお前と一緒にいたくない。
OL:ぺティ! それを言わないで。
動物愛護員:了解しました。このペット組み合わせは失敗と判断します。
よって、飼い主からぺティを取り上げ、今後ぺティの新しい飼い主を探すこと
にします。
ぺティ:ぺティはやめろって! 新しい名前は「ジョン」とか男の名前がいいなぁ。
OL:あぁ、ぺティ、ぺティ…(泣)
ケース2
主婦:うちの猫、こんなひどいこと言うんです。とにかく、もう、一緒にいられません…
ミーシャ:なんだど、このババアめ。
主婦:ほら、もう嫌になります。
ミーシャ:ババアにババアと本当の事を言ったまでだ。
主婦:とにかく、この猫と一緒にいても、全然くつろげません。むしろ疲れてしまいます。
もう、一緒にいたくありません。ペット関係を解消したいです。
動物愛護員:了解しました。このペット組み合わせは失敗と判断します。
よって、飼い主からミーシャを取り上げ、今後ミーシャの新しい飼い主を探す
ことにします。
主婦:あー、これですっきりしたわ。
ミーシャ:こっちだって、せいせいしたよ。
動物愛護団体は、さながら、ペットと分かれるための離婚相談所、相性の良いペットを見つけるための結婚相談所となった。
そして、見た目も性格も良いペットは、すぐにも飼い主が見つかったが、性格の悪いペットはいつまでも飼い主は現れなかった。
ぺティやミーシャ、なかなか貰い手のないペットたちは動物愛護団体の部屋で話あった。
動物愛護団体は業務で忙しくなり、ペットたちの世話は、最低限しか行えなかった。
「ぺティ。お前、見た目がかわいいから、ちょっと猫かぶれば、すぐ飼い主が現れるんじゃな
いの?」
「やなこった。俺は犬だぜ。猫かぶるなんて出来ねえや。」
「そんなふうに、頑固ジジイみたいな性格だからもらってもらえない。」
「お前だって、その毒舌をやめれば、飼い主が出来るぞ。」
「ふん。俺の猫舌は毒舌なんだ。猫をかぶって飼い主が出来たって、すぐ化けの皮がはがれ
まう。」
「俺だってそうだよ。飼い主が出来るのは、猫をかぶるのが上手い奴ばかりだ。」
「このままだと、俺たち一生、この部屋で過ごさないといけなくなるぞ。」
「それものこれも、こんな翻訳機が出来たせいじゃないか。」
「そうだそうだ!」
一方、飼い主たちも悩みを動物愛護団体に訴えていた。
「近頃、ペットを飼っても、全然癒されないんです。」
「あれしろとか、これが欲しいとか。うるさい主人が一人増えた感じなんです。」
「うちのペットは、外面だけ良くって、影で悪口を言っているんです。もう嫌。」
「ペットから何を言われるのか、ビクビクしてしまいます。」
「こんなことになったのは、あの翻訳機のせいじゃない。」
「そうだそうだ!」
そして、ペットたちも、悩みを動物愛護団体に訴えはじめた。
「ちょっと餌が良くないって言っただけなんだよ。それだけであんなに怒られるなんて。」
「変な服着せられて、おしゃれなカフェなんかに連れていかれて…僕はもっと自然に生きたい
のにそれは許されないんでしょうか?」
「飼い主が盗聴機を付けたんです。神経磨り減って、毛皮が脱毛し始めました…」
「こうなったのも、あの翻訳機のせいじゃない。」
「そうだそうだ!」
動物愛護団体は、仕事が増えて疲れ果てていた。
「今日も忙しかったな。」
「離ペット相談の話を聞いてると、人間の離婚問題と変わらないから、気が滅入るよ。」
「結ペット相談だって同じだよ。ペットはより待遇の良い飼い主を選び、飼い主は性格と外見
の良いペットを選ぶ。愛情よりも利害が一番になってきて、心がすさむよ。」
「もらい手のないペットに餌をやりに行ったら、さんざん待遇改善を訴えられたよ。」
「飼い主も、ペットも文句ばっかり言いやがって。」
「こんなに、忙しくなるなんて、あの翻訳機のせいだ。」
「そうだそうだ!」
かくして―
法律は撤廃させられた。
動物の言葉がわかる夢の翻訳機はこの後、永遠に使用されなかった。