プロローグ
2030年5月9日ゴールデンウィークの最終日に友達と名古屋モ○ド学園のスパイラルタワービル前で待ち合わせしていた。
なぜここかというと、このビルに入っている医療系専門学校に今年の春に入学した俺は、初めての飲み会に参加した。
そこで、酔ったいきおいで対して親しくもない友達に強引に映画に行く約束をしてしまった。
その友達は、三重県から最近名古屋に引っ越してきたばかりで土地勘が無いらしく、映画館にほど近い、この場所くらいしかわからないらしい。
待ち合わせ時刻、ぎりぎりにビルの前にやってきたときだった。
突如、飲み会の二日酔いが復活してきたかのような感覚が非常に長くつづき、そこから、立っていられないかのような縦揺れが襲ってきた。
「うん。地震か?」
さらに縦揺れと横揺れが合わさった感覚を得て、この地震が非常に大きなものだと気づいたときには既に遅かった。
スパイラルタワーは非常に個性的な形と全面ガラス張りを特徴としており、そのビルの前に位置していた俺は大量のガラスの雨に晒されたようだ。
・・・・・
ふと、気がつくとそこは、白い靄がかかった空間であり、男女が1名ずつ、自分を覗き込むように、立っていた。
男女共、非常に美形で、それはこの世のものでないと言わんばかりの神掛かった・・・まあ、実際に神だったわけだが・・・。
その美形の女性が目の前に手をかざして、この世のものとはっきりわかる言葉で説明を繰り出す。
「おみゃー大丈夫きゃー、わしゃこの地区で転生係をしとるナナという女神だきゃー」
うーん、美形が、だいなしである。
小さいころにばーちゃんから聴かされた懐かしい言葉を聴いた俺は、いっぺんに意識がはっきりした。
「転生?ということは私は死んだのですね?」
確認のため、理解しずらい言葉を発する女性を避け、男性に向け聞いてみた。
「はい。そうです。あなたは、後に東南海大地震と呼ばれる地震第一波により重症を受け、近くの病院に担ぎ込まれ、懸命な治療を受けたのですが、地震発生2ヶ月後の7月19日に亡くなりました。この地震で亡くなった最後の一人だそうです。」
案の定、男性は標準語を喋れるようで、更に説明が続く。
「ここでは本来、自動的に転生の手続きが行われ、次の人生に向かわれることになるのですが、今回この大災害のため、あまりにも死者が多すぎて転生が滞っている状態でして・・・」
男性の神が言うには、俺が産まれる前に現在の長久手市で行われたEXPOによるバブルで、名古屋駅前に奇妙奇天烈なビルや、超高層ビルが建設され、その後のバブル崩壊により、耐震メンテナンスが行われず、多くのビルが倒壊し、過去最大級の3万人を超える死者を出したそうである。
「そこで、一定条件下の若くして亡くなった方々に対し、異世界での転生を希望するか否かお聞きしておりまして・・・」
男性のほうは、神とは思えない程の低姿勢で、もみ手をしている。
「えっと、異世界での転生の条件としましては、記憶は残し現在の年齢から人生をやり直すこと、チートな能力や翻訳などの特典のほか、レベルアップの特別イベントも用意しておりますので、ぜひご利用いただけませんでしょうか?」
条件としては破格のようである、この世界でいつ転生できるとも分からないよりは、この条件をのんでもよいようである。
「この世界で転生される場合ですと、はじめは草からとなりますので人間に転生できるのは、早くて20回の転生が必要となります。」
俺はあわてて、了解の返事をした。
「じゃ、異世界でお願いします。」
男性は確認のため、質問する。
「よろしいですね。変更できませんよ。」
やや、早急な言葉に、ひっかかりを覚えたが、そのまま返事をした。
「はい、よろしくお願いします」
男性は更に説明を続ける。
「承りました。では、異世界への転生に対する詳しい説明を致します。お送りする異世界は、魔法が使えるいわゆる剣と魔法の世界となります。」
おお、面白そうだ。
「種族として、魔族、妖精、人間などの多種多様な生物の世界となります。まず、チート能力としてあなたには『魅了』が与えられます。この能力は心の中で唱えるだけで、あらゆる生き物に対して好感度を上げられるものです。」
思わず疑問が浮かび質問する。
「えーっと、他には無いのですか、伝説の剣とか伝説の盾とか大魔法が使えるとではないのですか?」
そして、男性から驚愕の事実が告げられた。
「はい。チート能力として今回の大災害の方、1000名にいろいろと伝説級能力や伝説級の武器を用意し、ご自由にお選び頂いておりましたが、あなた様は1000番目にご案内することとなりましたので、この能力となります。」
そうか、元の世界で生死の境を彷徨っていたせいで、こんなことに・・・。
「それで、早急に返事を求めたのですね・・・。はぁー、そうですか。しかたがないですね。それで、この能力ですが、どの程度、好感度を上げられるのですか?」
男性の説明によると、1ヶ月毎日笑顔を向けて得られる好感度と同等だそうである。
「それだと、チート能力というよりはチープ能力じゃ・・・」
「おみゃーうまいこというのー」
女性のほうは見ないようにして、男性に説明を則す。
「あと、これは全ての異世界転生者に送られる能力ですが・・・。」
『翻訳』:日本語での読み書きが全て、相手の言語に自動翻訳される。
『鑑定』:生物、無生物を問わず、その能力などを知ることができる。
『状態』:自分の現在の状況を知り、設定を変更することができる。
『箱』:1種類につき999個までのものを重量に関係なく収納できる。
以上の4つのスキルを別にもらえるそうだ。
これらは、以前ネット小説と呼ばれる前時代のインターネットの遺物の中で見つけた小説に書いてあったものとそう変わりは無いようである。
「さらに、レベルアップイベントですが、人生の転機となるような出来事があると、自動的にスキルポイントが付与され、『状態』の設定画面で自由に能力に割り振ることがことができます。」
「まあ、人生の転機とはあれだがにー、おみゃーは未経験だろがにー。これがヒントだで、いろいろ探してみてちょーよ。」
女神がニヤニヤ、気色わるい笑いで言ってきた。
「最後に私、この地区を担当させて頂いております。男神のヤマダと申します。あなた様の異世界での人生が、実り多きものになりますよう、祈っております。では、いってらっしゃいませ。」
「おみゃーさんもがんばれよ、わしもがんばるでよ。」
俺は女神を無視して、男神にお礼を言ったところで、世界は暗転した。
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