1人目のピエロ 大論争大会
「ねえ、みんな。このサイトに全員登録してね。絶対だよ。」
大声で誰か叫んでいたので何事かと美咲は顔を上げた。昼寝をしていたのに・・・。授業中、眠くて仕方がなかった美咲は、10分休みに入った途端昼寝をしていたところだった。
黒板にはでかでかとサイト名らしきものが書いてあった。
「ブラック・ピエロのスクールサーカス」
はあ?なんてふざけた名前だ。絶対怪しい。そう思ったのは美咲だけではないらしく、クラスの男子が
「なに?そのサイト。明らかに怪しくね?」
と言った。
すると、
「名前はともかく、これは役立つサイトなの。この前中間試験あったでしょ。でもうちの高校、学年順位教えてくれないじゃない。このサイトは登録した人の点数を計算して平均点、学年順位、クラス順位や偏差値まで出してくれるんだよ。」
と、始めに叫んでいた女子が説明した。
「そんなの、個人情報を公開するようなものじゃんか。やだよ。」
クラスの男子が一斉に抗議する。すると
「みんな塾とか中学時代行ってたでしょ。そしたらテストの点数なんて名前付きで公開されてたんじゃない?それとどう変わるのよ。いいじゃん。別にこの位。」
他の女子がそう叫び、また別の女子が叫び始める。
「だってみんな、知りたいでしょ。次のテストのためにも。」
「正確な計算をするためにも、全員登録が絶対なの。協力してくれるよね?」
もう、クラスの中は大論争大会だった。はぁ、なんて最悪な寝起きだ。大体、学校が学年順位やらなんやを出さないのならそれで諦めるか、先生に直接訴えればいいのに。そう美咲は思った。
美咲の通う丘の上第一高校は、市内では難しいほうの学校である。つまり、頭にはちょっと自信のある生徒が集まっているのだ。しかし、県内の高校はどこでも自由に受験できるため、県内で見ればもっと上の高校はあるのだ。そうなると、意外に丘の上高校の生徒の学力にはバラつきがあり、県内トップの高校も楽勝だったのでは?というような人から、中学時代、平均よりちょっと上ぐらいでした。みたいな人まで、いろんな人がいるのだ。
ちなみに美咲は、自分が下から数えたほうが早いことを自覚している。たまたまこの学校に受かってしまったようなものだ。時には場違いな所に居るような気もするが、割とのんびりした和やかなクラスの雰囲気に救われて、今では普通になじんで生活している。
そんな1年5組でこんな荒々しい論争大会になるのは珍しい。前期中間試験が1年生に精神的ショックを与えたのは確かだ。しかし、こんなことにまで発展するとは・・・。
そんなことを考えているうちに、論争はチャイムと共に言い出した女子達の押し切り勝利となった。
「とにかく、全員登録してね!」
反対派はぶつくさ文句を言いながら急いで授業の準備をし始めた。
この小説に出てくる学校、団体、サイト及びその他内容に関するものは全て架空のものであり、実在の人物、団体及びその他には一切関係ありません。