ねんがん の あんさーSS を てにいれたぞ! inソミオとソミタとあとエド
HUCの神、Lizreel様からアンサーSSを頂きました!
なんと恐れ多いことでしょう!
やっぱりLizreel様はすげぇや!、と、感動に打ち震えております
モンジャ集落の守護神、赤い神が拠点としていた洞窟を引っ越し、カルーア湖上の西に、貝殻のような形の巨大な水上神殿が一夜にして建てられた。忽然と出現した壮麗な神殿は、モンジャ、グランダである種の観光名所となっていた。赤い神がカルーアの湖上に神殿を経由してモンジャ地区とグランダ国を結ぶ参道を架けたので、その道は両地域を結ぶ交通の大動脈となり、湖を介して二つの地域の積極的な文化交流が始まった。
モンジャとグランダを往来する交易商の列が途切れることはなく、人々は神殿の前で手を合わせて祭神に祈りを捧げては通り過ぎてゆく。
長閑な光景であった。
特徴的な赤毛と鮮やかな赤い瞳を持つ祭神は、実体を伴う。純白の衣を着、穏やかな性格で民から慕われる彼は、昼間は神殿を離れ各地区の民たちのもとを周り、祝福し、声をかけ、望まれれば力を貸し、望まれなければ力を貸さない。いつもどおりのスタイルだ。
今日は散歩をしながら水上参道で釣り糸をたらす彼の民を見守ったり、釣果はどうかと問う。参道は釣り人たちでごったがえしていた。わざわざ湖の沖合いに船を出さなくとも、水上参道は釣り場として丁度良いのだ。
モンジャの民はもともと釣り好きだ。グランダでは天空神を祀っていたころ、カルーア湖の魚介類を食べてはいけないと禁じられていたのだそうだ。いわば宗教上の理由で魚を食べる習慣がなかったのだが、魚食が健康によいと赤い神にすすめられたこともあり、モンジャの民に倣って釣りや投網を行うようになった。
赤い神は時折祝福を求められてはそれに応じながら、参道を通ってモンジャ地方へと足を向ける。その道すがら、昔なじみの素民を見つけた。ヤスだ。昔から苦楽を共にしてきた仲だけに、彼もつい足を止めてしまう。
『ヤスさん、こんにちは』
「ごきげんよう、あかいかみさま。良い天気ですね」
『狩りをやめて、釣りに転向したのですね。……釣れていますか?』
彼がヤスの魚篭の中をのぞくと、わずかにちょろりと、小魚が三匹ばかり収まっていた。
「いやあ、俺はまだはじめたばかりで、釣りはへたくそでさあ。俺の家族が、腰も痛いしもう年だから危ないことはやめてくれってんで、狩りもやるが、釣りに重きを置くことにしたんですよ。でも今日は、ガキんちょにたらふく食わしてやれねえですなあ。やっぱり狩りに行くしかないですかなあ……」
『腰が痛いときは、いつでも言ってくださいね。痛みをとりますから』
赤い神は申し訳なさそうな顔をすると、おもむろにヤスの腰をさすりはじめた。ヤスの体はまだがっちりとした筋肉に包まれているが、長年、モンジャ集落の民のために先陣を切って狩りを続けて色々と無理をしたために、体の衰えや古傷が目立っていた。ヤスの腰を完治させるにはヘルニアの手術をしなければならないのだが、この時代の衛生状態、赤い神の現段階の能力、内科医のエトワールでは外科手術は難しかった。
「あーそこそこ、あー気持ちいいですなあ。痛みがとれてきました」
ヤスは幸せそうに目を細める。赤い神に腰をさすってもらうと、神通力によって苦痛が和らぎ、何よりの薬になるのだ。
『もっと釣り糸を細くして、針を増やしてみてはどうですか?』
「針を増やすってどうやって? 釣竿はもう3本も同時に仕掛けてるんですぜ? グランダの民が網を使うようだが、網は当たり外れが激しいって話だしなあ。それなら狩りであまった肉団子を針につけて、釣りをする方が効率がいいのかもしれないと思い……」
『ヤスさんヤスさん、釣竿を増やすだけが針を増やすことではありませんよ』
「かみさまのなぞかけは、いつも難しいものなあ。分かりました、考えてきましょう」
『次に会うときまでの宿題です』
「俺をガキんちょみたいに扱うのやめてくださいよー。まったく、かみさまにはかなわないなー」
しかしヤスは困った顔をしながらも、赤い神と共に生活を送れる幸せをかみ締めていた。何であれ、ヤスは赤い神が達者で戻ってきてくれたことが嬉しかった。彼がいなかった期間、ヤスたちが安眠できた夜など一日もなかった。集落の男たちが日夜交代で見張り番をし、いつ襲来するとも知れない、人食いの猛獣たちに怯えなければならなかった。
赤い神が戻った今、エドはモンジャには近づかないし、草原の奥にでも行かない限り人が獣に襲われることはない。畜産も盛んになってきて自給自足体制が整ってきたので、モンジャの民がわざわざ狩りに出向く機会は少なくなり、腕の良かったかつての狩人たちも農耕作業をしたり、すっかり大人しくなってしまったものだ。
ただし、異様にエドに執着する、あの風変わりな二人の兄弟を除いて……。
『狩りは危険と隣り合わせの仕事です。少しでも体力に不安を感じるのならば、一線を退いたほうがよいでしょう。それがあなたの身を守ることになります』
「すみませんなあ……。でも俺のかわりに、弟子たちが頑張ってますから」
『ソミオさんとソミタさんですか。エドを狩るあの兄弟は、狩りを専業で頑張っているようですね。私ときどき的にされていましたけれど』
彼は懐かしそうに目を細めた。何となく、しっくりとこない彼らとの思い出なら山とある。
「目つきの悪い弟の方は、ちょっと元気が有り余っていますがスジがいい。兄の方は理論派で冷静です。俺も安心してあとを任せられる。晴れてるので今日も狩りに行っているはずです。エド肉を狩りに行っているんでしょう、あいつらまだ石の銛にこだわっているんですよ」
『石の銛……こだわってましたねえ。様子を見てきましょう』
最近、彼らに祝福をしていなかったな。赤い神は重要なことを思い出した。狩人に祝福を怠ると、ちょっとした理由で大変なことになってしまうのだ。インフォメーションボードで集計して全素民に定期的な祝福を欠かさないようにしているとはいえ、人数が急激に増えたので、誰に祝福をしていたかしていないか、うっかりしていると忘れてしまいそうになる。
インフォメーションボードで情報を求めると、兄弟のいる座標が表示された。赤い神はふわふわと優雅に快晴の空を飛翔し、ひとりモンジャの南西の森に向かう。
『ソミオさん、ソミタさん』
「あかいかみさまだー! どうしたんですかこんなところに」
兄、ソミオが人懐っこく、空からやってきた赤い神に手を振って呼んだ。しかし神は着地してこの森で起こった惨劇を把握したのか、険しい顔つきになった。グランダの森の奥に棲息していた巨大な獣が頭部を殴打され、伸されて横たわっていた、バグマグだ。
グランダの獣がモンジャの森にきていたのだ。第一区画が解放以前は、このようなことはなかった。第一区画が解放して流動的になったのは、なにも人だけではないのだ。
『バグマグがこのようなところまできたのですか。怪我はありませんでしたか?』
「このとおり、俺たちは平気です。エドがバグマグに追いかけられて襲われていたので。あ、エドってのはこの子で」
兄ソミオはエド少年の肩を掴んでずいっと赤い神の前に出した。エド少年はカチコチに緊張している。彼がこれほど間近で赤い神を見たのは初めてだった。赤い邪神として城壁に晒され掲げられていたのを、城壁の下から見上げたことがあった、というぐらいである。
『襲われた? ……エドさん……グランダのエドさんですね。あなたはエトワールさんの祝福を受けていましたか?』
「い、いいえ」
『ではそれが襲われた原因ですね。私たちの祝福を受けた民は、危険から身を遠ざけることができます。暫く祝福を受けなければ神通力が薄れ、獣が”食べても良い”と勘違いをして襲ってきます』
「そうだったんですかー。知りませんでした」
兄ソミオが知らなかったと驚いていたが、元来祝福とはそういうものだ。ヤスは知っているが、彼らは知らない。
モンジャの狩人たちがエドに襲われにくいのは、赤い神の神通力が体にしみついているからだ。赤い神の気配は、獣たちに同族意識を持たせている。だから祝福を受けていなければ、それだけ襲われやすくなることを意味した。
というわけでソミオとエド少年はその場で赤い神の祝福を受け……ソミタはというと。
バグマグの解体をする手を止めなかった。赤い神が近づいてきても、見向きもしない。
『精が出ますね、ソミタさん。狩りもずいぶん上手になったようですね。ヤスさんが褒めていましたよ』
「なあ あかいかみさま。こいつ エド どっちがうまい?」
話しかけられても、やっぱり手は止めない。彼にとっては、人間だろうが神だろうが関係ない。神はソミタの獲物に対する執念に恐れ入った。
『グランダの民は、バグマグを塩焼きにして食べていましたよ。ロイさんメグさんは、エドの方がおいしいと言っていましたね』
「やっぱりエドか」
エド肉をグランダに持ち込んで交易すれば……あまりの旨さにグランダの民が驚くのではないか。モンジャの地ではやや供給過剰であったエド肉を他国で特産品としてPRし物々交換をすれば、狩人として生計がたてられる。
弟ソミタがアガルタ世界に大きく羽ばたこうかという考えが、
このときちらりと脳裏に過ぎったり過ぎらなかったりした。
『折角ですので、ソミタさんも祝福させてくださいね』
赤い神がソミタの手元をよく確かめもせず背後からソミタを抱擁しようとしたところ、
「あ」
ソミタのが握っていた石の銛に、ふとした拍子で手の甲をざっくりと刺し貫かれた。はかったようなタイミングだった。
『~~~!』
「いしのモリ まだいける」
声にならない痛みをひきつった笑顔でこらえながら、
弟ソミタは絶対に私を目の敵にしているに違いない、と、笑えないお約束を今回も理不尽に思う赤い神であった。