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モリのにほんめ

断崖集落ネストの王女、ミシカがグランダにやってきた頃。

ナズがパラグライダーもどきを作る少し前。

二人の兄弟はいつものように川で釣り糸を垂れながら、石製の銛を量産していた。

赤い神様が戻ったことで素民の追加が始まったのと子供が生まれ始めたのとで、狩りの重要度はうなぎのぼりだ。

牧畜も始まってはいたが、いまだ集落全員分を確保するまでには至っていない。




「カルーア湖の向こう側の集落はすごいんだってなぁ。 何せ鉄がいっぱいあるんだって言うし」

「てつはすごい。 かたくて、なかなかかじれない」

「歯が折れるからかじるのはやめような」

「おお。 おれないようにかじる」

「うん、かじるなっていってるのよ兄ちゃんは」

「てついっぱいある。たくさんてつのモリつくれる。なげるモリにもてつつかえるようになる」

「そうかもなぁ。石の銛もいよいよお払い箱かもなぁ」

「おれ、いしのモリすきだ。 かるくてなげやすい」

「お前の腕力あるんだから何だって一緒だろうが」

「いしのモリをつよくするほうほうかんがえた。 これでてつのモリよりもつよくなる!」

「強くなるのか。どんなふうにするんだ?」

「モリにきのいたをつける。 かぜのつよいひ、きのいたもってておもいついた。 きのいたはかぜをうけると、うきあがる」

「ほお。そうなのか。そういえば確かに風の強い日は木材とか運びにくいよな」

「きのいたのかたちによって、うきあがりかたちがう。 いろんなきのいたのかたち、じゅうをじゅっかいぐらいためした」

「百回も試したのか。 いつやってたんだ。 あと、いい加減10より上の数字覚えような」

「よなかにためした。 みんないちゃいちゃしてた」

「うん、それ言いふらすなよ」

「たくさんためして、いちばんうまくいったかたちみつけた!」

「すごいな。どんなかたちだ?」

「これ!」

「早っ! って、まあ、試してたんだもんな」

「おお。 おれがんばった。 がんばってるあいだ、みんないちゃいちゃしてた」

「うん、それ言いふらすなよ。 どれどれ。 なんか銛の先の出来損ない見たいだな。 上が膨らんでて下がへこんでて? 前が丸まってて後ろが鋭いのか?」

「これをかぜにあてると、うえにうきあがる。 すごいチカラだ」

「お前が試したんなら本当なんだろうな。 これをどうするんだ?」

「モリにつける。 なげると、すごいきょりとぶ。 はなれてなげられるから、エドにもまけない」

「お前のがんばりの源は全部エドだな」

「エドうまい。 エドかる。 だからおれがいる」

「なんか上手い事いったような感じだけどすごくアホいぞ。 で、どうつけるんだ?」

「これ!」

「早っ! なになに? 左右にさっきの板をつけて、後ろのほうには小さい板を三枚? なんで後ろの奴一枚垂直に立ってるんだよ」

「こうするとあんていしてとぶ。 たくさんためした! がんばってるあいだ、みんないちゃいちゃしてた!」

「それはもういいから。 どれ、早速試して見せろよ」

「おお。 なげるときは、ひもをケツにひっかけてなげる。 てでなげるより、このほうがあんていする」

「余計な力が別の方向に加わらないのか。 良く考えたな」

「たくさんがんばった! これでエドかってくう!」

「エド狩り尽くしそうな勢いだな」

「なげるぞ。 こうもって、こうして、こう!」


ぶんっ


すー


「おお。 ほんとに飛んでるみたいだ。 すげえ。 空を滑ってるみたいだ」

「いたのけずりかたとか、がんばった。 すごくまっすぐとぶ」

「ん? え、あ、まて、そのまま行くと赤い神様に」

「あかいかみさまじゃまだな」

「違うだろうが! 赤い神様! 後ろ、後ろー!」

「あーん? あんだってー? ぎゃぁー!」

「赤い神様ー!」

「そのこえのかけかたじゃよけられないなー!」

「それどころじゃないだろうが!」

「そくどがたりなくてささらなかったかー!」

「それでもねぇー!!」




結局、赤い神様には銛が刺さらなかったので大事にならずにすんだ。

わたわたしていたせいで、三度弟の発案した銛は廃案になった。

その後、ナズが作った布製の翼を見て、兄弟は死ぬほど感動することになる。

自分達が作った飛行機の原型の存在を、綺麗さっぱり忘れて。




数日後、集落の知識人が必死にパラグライダーを作っている頃。

兄弟はカルーア湖のほとりに居た。

君達が川原にいるとろくなことしないからで他所やりなさい、と、赤い神様に言われたのだ。

それでも懲りずに、兄弟は石の銛を量産しながら水面に釣り糸をたらしていた。




「兄ちゃん、謂れのない怒られ方をしてる気がするんだよ」

「にーちゃんといっしょに、おれもおこられてるよな」

「何でお前神様狙うんだよ。 カンベンしてくれよ。俺完全にとばっちりだよ」

「なー、にーちゃん」

「なんだ弟よ」

「グランダのユミってゆーぶきは、すごかった」

「あー、あれはすごかったなぁ。 遠くの相手に攻撃できるんだもんなぁ」

「ちいさいモリとばす。 エドもあれがあればもっとたおしやすくなる」

「銛じゃなくて矢ってんだよあれは。 後お前はなんでそんなにエドにこだわるのかね。 親の仇か何かか」

「そうだったのかー!!」

「違うよ例えだよ例え」

「ユミをみて、いしのモリをつよくするほうほうかんがえた」

「何回か聞いた気がするわそれ。 で、どんなふうにするんだ?」

「でっかいゆみをきにつける。 げんをひっぱって、とめぐでとめる。 そこにもりをおいて、とめぐをはずす。 そうすると、もりがとんでく」

「なんか凄そうだけど。 どんな感じだ? って聞くと」

「これ!」

「って出て来るんだよな。 どこに隠してたんだそれ」

「モリのはかいりょくに、ゆみのしゃてーきょり。 これでエドかれる」

「どれどれ。やってみろっていうと俺が偉い目にあうんだよな。 かして見ろ」

「おお。 ここをひっぱると、もりがとぶ」

「成る程な良く出来てるよ実際。 とりあえず、湖の上を狙ってみよう。 こう、こうか!」


びんっ


しゅばー


「あ、えとわーるさまがでた」

「本当だ。 ご光臨なされたんだ。 って、あれ?」


どすっ


「うわぁぁぁ!!」


「エトワール様ー!!」

「さすがにーちゃんだー!」

「狙ってねぇ! 事故だ事故!」

「みひつのこいだなー!」

「どこでそんな難しい言葉覚えてきたんだって、それどころじゃねぇー!」



結局、エトワールは無事だった。

赤い神様が「矢ガモ!」とか思って爆笑していた。

この後集落の一部子供の間で、銛が刺さって弱っている動物のまねが流行ったりした。

が、案の定エトワール墜落の騒ぎと混乱で、弟の発明品はうやむやになった。

このバリスタのような巨大兵器は、おそらくまた後の世に別の誰かが思いつくだろう。

兄弟はまたその発明を、新鮮な驚きと共に見学するのだ。




そして、数週間後。

赤い神様たちが断崖集落ネストで右往左往している頃。

兄弟はやっぱりカルーア湖のほとりに居た。

釣り糸を湖面に垂らしながら、いつもの様に銛を作っている。

とはいっても、作っているのは弟だけなのだが。




「お前まだ石の銛にこだわってるのか。 狩りでまともにそれ使ってるの、俺達と少しだけだろうに」

「いしのモリはまだいける。 まだたたかえる。 わかいものにはまけない」

「なにがなにに対して若いのか良く分からないけどまあ、沢山は作れるからな。 投げる分にはいいんだろうけど」

「そう、いしのモリ、なげる。 なげるから、おれいいことおもいつた」

「ほー。どんなことだ今度は」

「ドキおとすとわれる。 なかのものぶちまける。 なかに、もえやすいあぶらいれる。 で、もりにくっつける」

「それなんか銛である必然性が無いものな気がしてきたぞ兄ちゃん」

「もえたぬのとかをまいてエドになげる。 あたったら、ドキがわれてあぶらでる。 アブラ、ぬののひでもえる」

「うん、それもう銛につける必要ないぞ弟よ」

「これ!」

「必要ないっていったよね?! 俺の言うこと聞いてたか!」

「いしのところささると、ドキがこわれる。 どきこわれるとあぶらぶちまけて、もえる。 これでエドかる」

「もはや対エドだけの兵器じゃないぞそれ」

「これでいしのモリもっとつよくなった。 ヤスさんはすごい」

「ヤスさんが作った原型とどめてない気がするぞ兄ちゃん」

「さっそくなげる」

「人が居ないの確認して投げろよ」

「わかった。 あっち、ひといない」

「よし、いないな。 投げてみろ」

「こうもって、こうきて。 こう!」


ぶんっ


「ああ、まあ飛び方は普通だよな、銛だし」

「ひがきれーだなー」


強羅大文字焼 ログイン


「なんかでてきたなー」

「やめてぇぇぇ!!」

「ん? なんだいっt ぎゃぁぁぁ!」

「やったー! だいえんじょうだー!」

「ああーもー! 見つかる前に逃げるぞ!」




結局、二人は強羅大文字焼さんにこっぴどく怒られた。

川原のごつごつした石の上で正座とかさせられた。

当然のように、火炎瓶っぽい弟の発明はうやむやになった。

後日、彼らは誰かが考案した同じような武器を見ることになるだろう。

そして、彼らは心のそこから思うのだ。

こんな凄いものを考えられるだなんて、なんてすごいんだろう、と。

自分達が作ったものを、完全に忘却して。




【筆者によるアンサーSS】

(作品が面白すぎてアンサーが思いつかない・・・orz)



 俺はモンジャ集落のヤスだ。モンジャでは昔から狩りの仕事をしている。赤い神様に、俺は力持ちで体が大きいから、狩りをしてくださいって頼まれたんだ。そのときは、大人の男は俺とバルしかいなかったからな。


 俺が何とかしなきゃならんと、頑張ったもんだよ。それに神様の頼みとあっちゃ、やる気も沸いてくるってもんだ。危なかったことも一度や二度ではないし、たくさん怪我もしたが、それは俺の誇りのようなもんだ。

 とはいっても、最近では集落の食料事情も改善されてきて、まだ狩りをやっとるのは俺ぐらいのものか。


 狩りってより、集落の防衛なんかを任されるようになってきた。昔はたくさんいた俺の弟子たちも段々と狩りをしなくなって、最近では釣りをやったり家畜を飼うようになってきた。俺もそろそろ引退して他の仕事をするかな。色々無茶をやったおかげで、腰が痛いんだ。


 あかいかみさまが祝福で癒してくれたり、メグが薬草を貼ってくれるから何とかしのいでるけどな。長年使ってきた俺の愛用の銛も道具も、そろそろ誰かに譲らないといけないな。嫁も子供もいるから、もう家族にあまり心配をかけたくない。


 そういやぁ、俺には頼もしい弟子がいるんだ。

 比較的初期にこの集落にやってきて、そのときからずっと俺と狩りをやってきた二人の兄弟。仲のいい兄弟で、エドをも恐れない、肝のすわった奴らだ。しかも努力家な奴らで、昼夜をとわず武器の改良にいそしんでいる。いい弟子を持ったもんだ、これで安心して引退できる。俺も鼻が高い。


 と思っていたんだが……


 でも……あいつら何でか、武器ができるたびに赤い神様を狙う。赤い神様は物理結界ってやつを持っとる。だから狙ったって当たりやしないんだが、俺は弟子が神様に迷惑をかけて申し訳ない。叱ったこともあるんだが、あいつら全然懲りてない。

 めったに怒らない赤い神様にも怒られてた。神様はロイに衣を踏まれてコケても怒らないような方だぞ、ちょっと反省して深刻に受け止めるべきだ。


 兄のほうはまだましな気がするんだが、弟はなんというか、創作熱心なんだよな。時々妙な形の武器を作るが、実用できるしろものにならない。惜しい気はするんだよ、もう少しで形になりそうな。俺もかげながら見守っている。あいつらも何か、自分でものづくりをしたいんだろう。


 そしてあいつら、特に弟のほうは石の銛を愛用している。石より鉄の銛の方が切れ味がいいんだが、やっぱこだわりがあるんだろうよ。石の銛の時代が再びやってくるように頑張っているんだろうな。いや違うな、弟のほうはエドが食べたくて仕方がないんだ。時々、弟にアイも狙われてたな。メグに怒られてたけど。


 エド、うまいからなあ……俺の家族にもたらふく食わせてやりたいなあ。


 今日はあいつらが飛び道具でエトワールさまを狙いやがった。あいつら何を考えているんだ? 赤い神様が矢ガモ状態とか言ってたが、ありゃどういうことなんだろう。エトワールさまの白い羽根が真っ赤になってたな。


 あいつら一応、不死身の人らを狙ってるのかね。エトワールさまにこっぴどく怒られてたな。集落内で変な遊びが流行ったんだ。エトワールさま、しばらく子供たちから、からかわれてたからな。普段は硬派な男なのに子供にバカにされるとか、かたなしだよ。

 今後あいつらが何度怒られるのかと思うと頭が痛い。少しは成長しているんだろうか。赤い神様は『努力し続ける限り、人は前に進むことができる』とおっしゃっているけれど、あいつらに限っては当てはまらない気がする。


 あいつらもうだめだ、今度は神様の知り合いの守護者さまを狙いやがった。男と女といるけど、髪を逆立ててる男の方だ。あの人たちは怖い、いきなり火を出すし、人間のことをあまりよく思っていないみたいだ。あの人たち怒らせたら集落全体も危ない。


 さすがにいけないことだと分からせるために、俺は遂にあいつらを叱った。俺の大事な弟子だけど、どうしてもやっちゃいけないことはある。


「お前らもういい加減にしろ、これ以上飛ばす銛をつくるな。お前たちがやるとみんなが危ない」

 兄と弟はしーんとしていた。俺は一度もこいつらを怒ったことがなかったから、あっけにとられているんだ。


「どうしても だめか」

 弟が、俺に聞いてきた。俺もここは譲れない。こいつらのおかげでみんなが迷惑をする。赤い神様も迷惑する、俺たちは神様を怒らせてはいけないんだ。

「だめだ!」


「だっておれ ヤスさんのもり さいきょうにしたかった」

「そしたら ヤスさん カリらくにできる。ずっとカリできる」

 俺はとんでもないバカだった。こいつらの気持ちも知らず……。俺に狩りを引退してほしくなかったのか。


「お前……」

 じーんとこみ上げてくるものを、俺は隠すので必死だった。湖のほとり、夕日に真っ赤に染まった彼らは、今日はやけに男らしく見えた。


「そしたらおれ エド もっとくえる」


 俺の腰痛が悪化した。



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