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白い神様とモフコさんの珍道中 ~モンジャ民の生活を見てみよう~

グランディアが行われる少し前。

第5章 第10話 グランディア世界競技祭典 開幕 の、2~3週間前ぐらい。

モフコと白い神様の二柱が、モンジャの集落に降り立った。

モフコがぶら下げている布の中には、練習用の木製盾と木製剣が入っている。

今日は競技に使うための道具を持ってくる予定になっていたのだ。


喧嘩は悪いこととされていたモンジャの民にとって、剣闘というのあまり想像しにくい物だった。

そもそも、鉄を渡して剣を作れといわれると、口を半開きにして機能停止するほどに武器というものに疎い民である。

剣術という言葉の知名度は、恐らく5~6%といったところだろう。

一応グランディアの種目にあるのにそれじゃあまずいだろうということになり、急遽剣闘についての講習会が行われることになった。


その講師役に立候補したのは、意外にも白い神様だった。

始まりの民であり、患者を癒す土台ともいえるモンジャ民と直接触れ合ってみたいという思いもあったのだろう。

赤い神様とエトワールは祭典準備に追われていることもあり、「じゃあ、思い切ってお願いしちゃおっかなっ☆」というのりで、その提案は許諾された。

元々、赤い神様の手法を学びにきた白い神様である。

一体どんな民を育てたのか。

どのように育てたのか。

少しでも多くのことを学ぼうと、いつもより緊張した表情でモンジャの地へと降り立った。




白い神様とモフコがモンジャの地に降り立つと、なにやらモンジャの民とグランダの民が真剣な表情で話しこんでいる様子だった。

なにやら大きな土器のようなものを覗き込んでは、数種類の袋を前にいろいろと意見を交換しているようだ。

『交易の相談でしょうか?』

『それはないとおもうけどなー』

興味を引かれた白い神様は、彼らの近くへと寄って行った。

白い神様とモフコの存在に気がつくと、グランダ民はあわててその場にひれ伏した。

神とその眷属への敬意の払い方では有名なグランダ民である。

もっとも、それは大部分どこぞのキラキラしてる先輩の恐怖政治の賜物なわけだが。

一方、モンジャ民のほうは気楽なものだ。

「あ、白い神様とモフコ様だ。 こんにちはー」

『やっほー。 なにしてんのー』

白い神様がグランダ民に対して『顔を上げてください』とかいうアクションを横でやっているのだが、モフコとモンジャ民はまったくお構いなしで話をしている。

「まえに、土器のなかに魚と塩を入れておいたら、おいしい黒っぽい汁ができたんですよ」

『黒っぽい汁!』

「でも、塩と魚のほかに何が入れておいたような気がするんですけど。 何を入れたかどうしてもおもい出せなくて」

『えー。 塩と魚だけでもいいんじゃないの?』

「それもやってみたんだけど。 どうしても一味足りないというか・・・」

腕を組んでうなりだすモンジャ民。

『なんかメモとか用意してなかったの?』

「してたの! でもどれがどれだか分からなくなって」

モンジャ民が取り出したのは、集落で飼っているマルの皮を叩いて伸ばした羊皮紙のようなものだった。

そこには爪か石で傷つけて文字が書かれていた。


はっぱ


『ひろすぎるわっ!』

「そうなんだよー。 どの葉っぱをどのぐらい入れたか全然分からなくって。 今いろいろ試してるところなんだ」

そういってモンジャ民が指差した先には、軽く20以上の巨大な土器と、その前で腕組みしてうなっているたくさんのモンジャ民が。

『そのメモ書いたやつにきちんと覚えておけよって言わないとね!』

「あ、これ書いたの俺なんです」

『そのぐらいおぼえておけよーっ!』

「だってわすれちゃったし」

『じゃー、しかたないねー。 次はきちんと書いておくといいよー』

「はーい」

『試そうという気概はすばらしいと思いますが・・・』

隣で一部始終を聞いていた白い神様は、なんともいえない表情でぼそりとつぶやいた。




『忘れたからそれでやめる、って言うのよりよっぽどいいよね、チェレンジスピリットで!』

『そういうものでしょうか・・・』

若干納得していなさそうな顔で歩く白い神様が次に見つけたのは、漁業用の網の前でうなっているモンジャ民と、噛むと甘い味がする葉っぱをもぐもぐしているモンジャ民だった。

「んー」

「なんだ。 どうしたの?」

「網を簡単に直す方法を思いついたんだけど、忘れたんだ」

「そうかー」

葉っぱを食べていたモンジャ民はごくんと葉っぱを飲み込むと、表情をきりっと引きしめた。

「わすれたならしょうがないな」

「しょうがないよなー」

「そういえば俺もこの間、新しい家の建て方考えたんだけどわすれちゃったなー」

網の前でうなっていたモンジャ民も、きりっと表情を引き締めた。

「わすれたならしょうがないな」

「だってわすれたんだもんな」

何事か納得したようにうなずきあう二人。

そんな二人に、あわてた様子で一人のモンジャ民が駆け寄ってきた。

「た、たいへんだ! ごはん係のモンテスが、この間つくったおいしいご飯の作り方を忘れたって言うんだっ!」

「「な、なんだってー?!」」

二人はあわてて立ち上がると、血相を変えて走り出した。

「忘れたからってすむ問題じゃないぞ!」

「みんなでがんばって思い出させるんだっ!」

すさまじい勢いで走っていくモンジャ民たち。

『・・・網や家のほうが大切なのでは・・・』

『食べられないからっ!』

口に入るものが何より大事なモンジャ民である。

当然のことのように言うモフコに、思わず引きつり笑いを浮かべる白い神様だった。




モンジャ集落の中央にある広場に向かう道すがら、白い神様とモフコが次に遭遇したのは、モンジャ民の塊だった。

何かを囲んで熱狂しているらしく、ワイワイと騒がしい。

『会議が紛糾しているんでしょうか』

『ぜったいないない』

ふわふわと浮かび上からのぞいて見ると、どうも机を挟んで二人のモンジャ民が激しく議論を交わしているようだった。

『ディベートか何かでしょうか?』

首をかしげる白い神様。

しかし、モンジャ慣れしているモフコは、二人が持っている木製の器を見逃さなかった。

『あれ、何か食べ物持ってるよ?』

モフコに言われてモンジャ民の手元に目を向ける白い神様。

木製の器には、こんもりと野菜が盛られている。

机を挟んでいる一人が、ドンッと机を叩き声を張り上げた。

「シャキッパには塩だろ!」

「いいや! トントトの実の汁だね!!」

脱力のあまり、落下しそうになる白い神様。

ちなみにシャキッパというのは、モンジャ集落で作っている野菜のひとつで、キャベツやレタスのような葉野菜だ。

栄養たっぷりで、プチプチと同じくモンジャ民には深く愛される食品のひとつである。

どうやらこの二人は、最初は「シャキシャキナハッパ」と名づけられたものの名前が長いという理由で「シャキッパ」に改名された野菜に、何をかけて食べるのが一番うまいのかでもめているらしい。

「塩のさっぱりとしたさわやかさでシャキッパの甘みが引き立つんだよ!」

「トントトの実のさわやかなすっぱさには負けるね!」

トントトの実というのは、レモンのようにすっぱ甘い果実で、ネスト原産の果物だ。

直接かじるのはかなり勇気が必要だが、サラダなどにかける調味料としてならおいしいのだろう。

『なんか、サラダにかける調味料について激論中みたいだね』

『そのようです』

若干頭が痛くなってきた白い神様。

「ちょっとまったー!」

突然かけられた声に、モフコと白い神様も含めた全員が振り返った。

そこにたっていたのは、肉の塊を手にしたモンジャ民だ。

そのモンジャ民の恐ろいほどに真剣な表情に、その場が凍りつく。

「シャキッパには、エドの肉汁が一番だっ!!」

「おまえニク系はひきょうだろう!」

「うまいに決まってるじゃないか!」

「ひっこめー!」

あわや乱闘か。

そんな張り詰めた雰囲気の中、モフコはつぶやいた。

『じゃ、いこっか』

『はい』

さっさと目的地へと向かってふよふよ飛んで行くモフコと白い神様だった。




『あ、おにーちゃんだ』

『お兄さん?』

唐突なモフコの言葉に、眉根を寄せる白い神様。

『私のおにーちゃんじゃないよ?』

『それは分かっています』

モフコが指? さした方向に目を向ける。

集落の端っこ。

人気の無い広場にいたのは、一人の若者と、一人の老人だった。

若者のほうは上半身裸で、モンジャ民特有のド派手なズボンをはいている。

手にしているのは、身の丈ほどの長い木の棒だ。

老人のほうは大きなつば尽きの帽子を目深にかぶり、大きなマントに身を包んでいる。

足には分厚いブーツを履いていて、ネストの民が森に入るときにする服装のようだった。

『あれは・・・ユーパという名前の素民ですね?』

白い神様が名前を言い当てたことに、モフコはもふっと膨れて驚いた。

どうやら驚くと膨らむという設定がモフコの中で流行っているらしい。

『あれ。シロリン物知りじゃん』

『コハクがとても興味を持っていたのです。 ネストでもっとも優れた剣士だと聞いて』

『じゃあ、少し見学していく?』

モフコの提案で、二神は近くの建物の影に隠れた。

ネスト人は基本的に神様たちに対する態度がきちんとしているので、普通に見ていると普段と同じことができないだろうという配慮からだ。

もちろん、モンジャ民は誰がいようが関係ないわけだが。

『なにをしているのでしょう?』

『そみたんとこの間だべってるときに聞いたんだけど、おにーちゃんユーパ様から戦い方習ってるんだって』

その言葉に、白い神様は目を丸くする。

『剣術の鍛錬ですか?』

『えー。 剣術って言うか。 銛?』

『銛? 槍ではなく、銛ですか・・・?』

銛と槍の違いは、実はあまり無い。

銛は猟や漁に使うもの。

槍は戦いに使うものという程度だ。

形状的なさも無いのに、あえて銛といったモフコの言葉に、白い神様は眉根を寄せる。

『はじまるみたいだよー』

モフコの言葉に、白い神様は視線を二人のほうに戻す。

おにーちゃんこと、ソミオはゆっくりとした動きで棒を地面と平行に構えると、半身をユーパに向けて腰を落とす。

銛はすばやくつくことで攻撃する武器だから、この構えはどこでも基本だろう。

対するユーパは、剣を持った手をぶらりとしたに下げ、特に構える様子も無い。

大きなマントが剣を持った腕ごと全身を覆い隠し、一見するとすばやく剣を動かせずとても動きづらそうに見える。

とっさに腕を動かしたとき、腕や剣にマントが引っかかってしまったら命にかかわるかもしれない。

剣と腕が相手から見えづらくなることで、攻撃が読まれにくくなるという利点はあるだろう。

とはいえ、腕を動かせなくなってしまえば話にならない。

危険を承知でそんな戦術を使っているのだろうか。

白い神様がそんなことを考えていると、モフコが『お』っと声を上げる。

『はじまるみたい』

構えた状態から先に動き出したのは、ソミオだった。

胸に棒をひきつけた状態から、まっすぐにユーパの胴体を狙っての突き。

的が大きい胴体は、一番狙いやすい場所だ。

それだけに鎧などで防御されやすくもあるが、この突きを受ければただではすまない。

そう、白い神様は直感した。

両手でがっちりと固定した槍を、踏み込みと同時に突き出す。

全体重と移動エネルギーを一転に集めた、理想的な突撃姿勢。

なによりも、動きが早い。

たとえ貫通はしなくても、受けた相手は吹き飛ばされるだろう。

対するユーパの動きに、白い神様は注目する。

動く気配は見えない。

足は地面に着いたまま、棒立ちしているように見える。

たとえ棒といえども、あれだけの勢いで突き立てられれば、怪我ではすまない。

危ない。

その瞬間だった。

まるで精密機械のようなよどみの無い正確さと、老人の動きとは疑わしい速さで、ユーパの腕が動く。

棒を下にたらしたよな持ち方で、前に腕を突き出す。

ソミオの棒は、まるで最初からそうなるはずだったかのようにユーパの棒へと突きたてられた。

そのまままっすぐに突き進むものと思われたソミオの棒だったが、ユーパの棒に当たった瞬間からその動きは激変する。

放物線を描くように、地面へと吸い込まれていったのだ。

ユーパにまったく力を入れている様子は無い。

ユーパが持つ棒の指し示すとおりにソミオが棒を動かしているのではないかと思えるほど、力みも構えも感じることができない。

驚く白い神様だったが、当のソミオの表情は違った。

さもあらん。

今回はそう来たか。

そのぐらいのことはやってのけられる事は想定していたと言うよなその表情は、格上のものに対する挑戦者のそれだ。

すばやく足を出し体を止めると、ソミオはやりの切っ先を振り上げる。

上から下への一線は、わずかに身をかわしただけのユーパの体をかすりもしない。

剣と槍で戦うとき、間合いはとても重要だ。

相手との距離が遠ければ、リーチの長い槍は俄然有利だ。

逆に間合いが近すぎれば、槍は槍頭が使えずに一方的に攻められるだけになる。

槍先が跳ね上がっている今の状態は、ユーパにとってはチャンスだ。

近づいて槍頭より内側に入ってしまえば、もはや長柄物は役に立たない。

ソミオはあわてて、槍を振り下ろしながら後ろへと飛んだ。

脚力ではユーパよりも、ソミオのほうが優れている。

ユーパよりも遅れて動いたのにもかかわらず、その間合いはほとんど変わらない。

この離れた間合いで、振り下ろされた棒が活きてくる。

棒の動線上には、ユーパの体が入っているからだ。

頭上からの攻撃に対処できないユーパではない。

手に持った棒を斜めに掲げると、ソミオの棒を受け流す。

ユーパの棒を打ち据えたソミオの棒は、そのまま表面を滑るように斜め下へと動きを変えた。

力を入れている様子はユーパにはまったく無い。

やはり、ユーパの意思どおりに棒が動きを変えているように見える。

ソミオの振り降りろした棒は、勢いそのまま地面へと叩きつけられた。

すかさずそれを押さえつけたのは、ユーパの足だ。

表情を険しくしたソミオの首筋とわき腹に押し当てられたのは、ユーパの持つ二本の棒だった。

「・・・まいった」

搾り出すようにそういうと、ソミオはがっくりと肩を落とした。

そんなソミオを見て、ユーパは棒を引く。

楽しそうに目を細めると、ぽん、と、ソミオの肩を叩いた。

「よく動けるようになった。 人間相手の戦い方もずいぶん学んだようだな」

「動物相手でもあなたには敵いません」

頭をかいて苦笑するソミオに、ユーパは声を上げて笑う。

「こんな老いぼれすぐに抜かしていかれよ。 もうすぐほうっておいても天寿を全うする」

そんな二人を眺めながら、白い神様は分かりやすく硬直していた。

頭の上では、モフコがぽぷよんぽぷよんしている。

『やっぱりおにーちゃんはまだまだだねー』

『相手が悪いだけなきもしますが・・・』




この十数分後。

白い神様は剣術の説明を聞いて、ぽかんとした顔で硬直する大量のモンジャ民に囲まれることになる。

一体、この区画で何が起こったのか。

そして、何が起ころうとしているのか。

本当に研修にきてよかったのか。

たった一日で、うっすらと自分の区画へ帰りたくなる、白い神様だった

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