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あたらしいアンサーをいただいたぞEX

Lizreel 様からアンサーをいただきました

いやっふー!

きゃー!

Lizreel 様かっこいー!

(※ 「そしてとびでるユーパ様」の直前の赤井の様子です)


 第一回 世界競技大会、ってか競技祭典を思いついたからには、会場の選定と設営を決めないといけないよね。想像すると何だかあれこれと楽しみになってきた。アガルタでスポーツ観戦とか思ってもみなかっただけに胸が熱くなるよ。私スポーツ観戦好きです。オリンピックとか世界陸上とかワールドカップとか、そういう主だった大会は割と徹夜で見ちゃう方でした。


『陸上競技場と観客席を創ろうと思いますが、開催場所はどこがよいでしょう。モンジャにも土地がありますが』

「石切り場と鉱山があるからグランダでも構わんよ。ネストは便が悪かろう」

 キララがグランダの地図を広げる。グランダの東に位置する荒れ地を大規模に整地して、競技場を創るといいと言ってくれた。なんとまあ寛容で平和的な女王様になったもんだ。


「石工や鉱夫、人足が必要なら供出するが。あと、私に何か手伝えることがあれば言ってくれ。力になりたい」

『個神的な思いつきですから、特にお手伝いはいりませんよ。人手ならばグランダの復興に必要でしょう。グランダ領の間借りについては、お言葉に甘えさせてください。グランダの民の土地を競技場で占領してはいけないので、祭典が終われば競技場は解体するつもりです。手伝っていただくことといえば競技祭典の開会と閉会の式次第を考えてもらうと嬉しいですが、あなたは何かとお忙しいのでパウルさんやロイに考えてもらってもよいと思います』

 一通り読み書き計算のできるパウルさんが適任かもしれないなー、と思ってたら


「グランダの土地でやるのだから、グランダが引き受ける」

 とか言ってる。それじゃまあ、お任せすることにしよう。何かやけに乗り気だなー、気に入ってくれたなら嬉しいけど。おそらくグランダ国初の、余興というか娯楽らしい娯楽だしね。グランダ民も大勢見に来て、参加してくれたらいいな。

『平和と友好のための競技祭典ですから、式次第は友好的に、儀礼は簡略的にお願いしますね』

 大会の体裁は私が考えても仕方がない。私が考えるとオリンピックの開会式をまんま踏襲しそうだからね。そこは素民たちにオリジナリティを発揮してもらいたいところ。


「ところで何を競うんだ?」


 おおう、それは重要でした! 競技種目、競技種目ね。という訳で、私がぱっと思いついた案とキララの案を総合すると八種ぐらいの競技になった。モフコ先輩の案を採用すると大玉ころがしとか借り物競争とかパン食い競争とか、運動会のノリで言い出しそうだから訊かない方が吉だろうな。古代競技っぽいのがいいよね。てなわけで。


 競技場での短距離走、カルーア湖畔一周マラソンでの長距離走、競技場かモンジャの草原での槍投げ、カルーア湖での自由形水泳、格闘技(立ち技)、剣術(グランダ民が得意そう)、弓術(ネスト民が得意そう)……案としてはこのくらいか。ちょい種目が多すぎるかな、パウルさんやロイにも訊いてみよう。


「ふむ、そのくらいだな。やってみなければ分からないが、事前に参加者を募って飛び入りはなしにしよう。何か他に注意事項があるか?」


 願わくば……死人が出ませんように怪我しませんように。絶対に血が流れそうだから救護体制は万全にしとかないとなー。ヒートアップして戦争起こっちゃったら意味ないし。


『競技を見るときには、武器は持ってこないように。それから個人競技なので、国と国との争いにならないことを願います。もしそうなれば私が止めます


 チーム競技はやらない方が吉だ。スポーツマンシップってどうやって伝えればいい? 難しいよね現実世界でも、自国チームが負けたからって暴力事件を起こすような熱狂的なファンはいるし。 


『なにより全員が安全に競技を終えることです。できれば怪我のないよう、皆で健闘をたたえあって』

「血の気の多い兵士たちにはよく注意しておこう」

『くれぐれも、これは争うことが目的ではありません。個人の技能を披露する場です。なにより、ヌーベルさんやグランダの兵士の方々に、楽しんでいただきたいのです』

「納得するかは分からんが、腕に自信のあるものは参加するようにと命じておく」


 競技場建設のことはモフコ先輩に相談してみよう。


 モフコ先輩がサクサク造ってくれるだろう。ロイとパウルさんにかけあってみようか。とか思ってたら。ふとキララが真面目な顔をして聞いてきた。


「競技祭典の優勝者は、さぞかし強い男だろうな」


『そうですね、もしかすると世界一かもしれませんね。私からの褒章を考えておきますよ』

「ではちょうどいい、優勝者に求婚することにしよう」


『は? ……キララさん?』

「スオウ一族の女王は、国一番の強者を王配とするのがならわしだ。スオウの女は強い男に惹かれる。……神と人が結ばれることはできぬから、せめて強い人間の男がいいのだ」

 え。それどういう意味? 私と結婚したいってこと!? 無理無理無理、なんてこというの!

 私が口を大きくぽかんと開けていると。


「とにかく三国一のつわものとなれば、このグランダ女王の相手としても不足はない」


 ちょ! なんてことに――!! ねえこの競技祭典中止した方がいいの? ねえどうする?!

 そんな、優勝者と結婚なんて決めちゃだめでしょー! 私は大慌てで


『あの……結婚というのはお互い好きあって、結ばれるものだと思いますよ……? そんな、誰が優勝するかも分からないのに、優勝した人と結婚とか……』

「相手が同意して、婚約が成立したら、アカイが結婚式を執り行ってくれ」

 やばいやばい、先走っちゃってる! 結婚ってそんな感じで決めないでしょ普通――!


『そ、それは保留にしましょう。早まってはだめです』


 競技祭典、どうなってしまうん……


 私は不安で胸いっぱいになりながら逃げるように王城を後にすると、ネストに飛んだ。


***


 その日、モンジャ集落ではナズがロイの家を訪れていた。ナズの装いはざっくりと青いニットと白いパンツの上下。ロイは白いケープに黒い皮のズボンを穿いている。防寒性に長けて体によくフィットするネストの衣類は、モンジャ集落でも重宝されていた。

 ロイの家は集落の北に位置する小高い場所にあり、集落を一望できて眺めがいい。


 彼の住居はいわゆる高床式の家だ。赤い神から建築技術を授かった始祖の一人、ハクがデザインした集落の建物の殆どが三角柱状の掘立柱建物であるにも関わらず、ロイが自ら建造した家は礎石を敷いて柱を立てており、腐食に強く、居住スペースも広い。綿密な計算のもとに建築されている。一人暮らしにしては大きいが、集落の主だった民を集めて会議をしたり、集落の子供たちの教育をするにはちょうどよかった。


 もっとも、最近 では集落の子供たちが増えすぎてロイの家で教えることは難しくなり、ここしばらくは集落の中央広場で青空学級を開いている。青空学級では生徒の収容制限がないので、モンジャの子供たちばかりでなく、グランダやネストの識者たちも数学と化学の講義を聞きにくる盛況ぶりだ。ロイは午後の講義を終え、大量の教材とともに帰宅したところだった。

 最後列にまで聞こえるようにと声を張りすぎて喉が痛い。

「ナズじゃないか。どうした?」

 ナズは四つ折りにした布を両手で大事そうに手渡した。


「きみに前にたのまれていた絵ができたからとどけにきたんだ、モンジャの絵だ、色つきにしているよ」

「ご苦労さま。おお、凄い出来栄えだ。そのままモンジャの集落を見下ろしているみたいだな、実際の風景そのままだよ。どうして本物みたいに描ける?」


 ロイは出来上がったモンジャの地図を両手に広げて満足そうだ。ネストの最新の筆記具でモンジャの綿の布地キャンバスに描いた、念願のモンジャ集落の地図。ナズは27管区世界にはなかった画期的な図法を取り入れていた。それは、遠近法に基づき高台から正確に描かれた鳥瞰図。しかもフルカラーなので、まるで写真のように見える。

 ロイはあまりに性格な描画に、衝撃を受けたようだった。


 グランダにもネストにもある地図というものが、モンジャにだけはなかった。土地利用の会議をするには、地図があったほうが便利だ。ロイは地図をモンジャ集落の集会所に飾る予定だったが、予想外の出来栄えに感動してナズを褒めちぎる。あまりに持ち上げられるのでナズはくすぐったくなった。


 ロイは素民たち一人一人の良いところを見つけ出し、個別に能力を引き出して惜しげなく褒める。大げさだがそれは決してお世辞はなく、本心からそう言うのだ。だからますます、モンジャ集落ではロイを慕う者は増えていた。今では押しも押されもせぬ集落の長であるが、彼が奢ったりそれを鼻にかけていたことは一度もない。それどころか、後継者の育成にも余念がない。


「せっかくかいたから日の当たらないところにかざってね、絵の具が色あせてしまうから。でも、あせたら次の新しい地図をかくよ」

 ナズは展示方法にささやかな注文を付ける。

 キャンバスに描いたので劣化は避けられないが、できるだけ長く飾って欲しい。

「なんでそんなこと知ってるんだ?……すごいなナズは。ついでにほかの絵も描いてもらってもいいか?」

 ロイはナズに描いてほしい絵がたくさんあった。

 これまでに赤井から得た知識、グランダやネストの知識体系をまとめる書物を作ろうと考えていたからだ。それを国と地域を問わず広く民に普及しようと計画していた。ネスト民が木版印刷技術を持っているので、向学心旺盛なモンジャの若者を何人か選んで印刷技術の習得に向かわせたところだ。


 ネストの技術に追いつき、モンジャはさらなる発展を遂げなければならない。


「ロイ、仕事をまかしてくれるのはうれしいけど、それは他の人にまわしてくれないかい」

「ナズの絵は世界一だ、ネストを含めても。誰もこんなに描けない」


 期待してくれるのは嬉しい、そう思いながらもナズは申し訳なさそうに固辞の意を示した。背が高く筋骨隆々としたロイの、いかにも青年といった体格と比べると、まだ肉体的には十代前半で色白なナズはかなり貧相に見える。同じ男として、面と向かうと多少なりとも劣等感を覚えるナズであったが、ロイはナズの微妙な心理には気付いていない。


「僕は絵描きのしごとより発明がやりたいんだ。方法さえわかれば、だれだってこんな風にかけるとおもうよ」

 知識の体系化と普及の必要性を思うあまり、知らず知らずナズに仕事を押し付けていたと気づいたロイは悪びれて

「それは悪かった。では暫くの間、絵を上手に描く方法を集落内の興味のある者達に教えてくれないか。それをしながら、発明に没頭してくれるととても嬉しい。記録すべきことがたくさんある、正しい記録を。午後の一番目の枠があいてる、そこで絵の技法を教えてやってくれないか」

「君のいうとおりにするよ」


 延々と一人で描かされるのはごめんだと思うけれども、ナズはロイの熱意と理念を知っているだけに、協力を惜しまないつもりだった。ロイもかなり自分のやりたいことの時間を割いて、集落の子供たちの教育に勤しんでいるのだ。我儘ばかりを言うつもりはない。

 二人が合意してがっちりと固い握手をかわしたとき


『ナズさーん、ロイさーん! こんにちは~』

 明るい声と共に、空から赤い神がふわりと舞い降りてきた。日中、彼は声をかけながら近づくようにしている。以前、無言で降りてきて急に現れたものだから、民が驚いて逃げながら絶叫されてしまったのが相当にショックだったようだ。ロイとナズが気付いて地上から大きく手を振る。


「いらっしゃいませ赤井様。今日はグランダの巡回の日だったのでは!」

『もう行ってきました。ちょっと平和と友好のための催しを企画したので、話を聞いてください』

 彼はいつになくうきうきとはしゃいだ様子だ。

 そして十数分後。

 赤い神の競技祭典構想を聞いたロイは驚愕、ナズは賛同という反応を見せる。

 特にロイはただ、うーんと唸って混乱した様子だった。


『どうですか。グランダは全面協力して下さるそうで、たった今ネストからも同意を得ました、競技会場はグランダになる予定です。時期は少し暖かくなった頃がいいと思います』


 赤い神がこんなにわくわくと楽しそうにしているのを、ロイは久しぶりに見た。だから彼をさらに喜ばせるためにその趣旨を理解しナズと同じように賛同したいと思うのだが、どうしても歯止めがかかってしまう。


 何故ならそれは赤い神の過去の言動のデータと比べると矛盾を含んでいるからだ。矛盾を含んだ概念は、高度学習型・応用型A.I.とはいえまだ経験の浅いロイには飲み込めない。矛盾を受け入れるのは人間だけだ。一般的なA.I.は、赤い神の提案を命令としてうのみにして受け止めるが、ロイはその理由を諒解しなければ是とすることができないのだ。そして是としなければ従わない。


『反対ですか?』

「いえ、そういうわけではないのですが。人と人が争い競いあうことを、あなたが推奨するとは思ってもみませんでした。そのように教えを受けてきましたし、喧嘩もできるだけ避けるように仰っていた。その教えは尊いと思います。何か今回のことでは別の意図があるのでしょうか」


 ロイは暗に、神の一貫性のなさを指摘しているようにも見える。彼は赤い神のやり方を批判したいわけではないのだが。彼が望むことと望まないことを、予め知っておきたいとは思っていた。しかし信頼関係を損ねては困る。

「ロイ、これはそういうのじゃないよ。競いあうことは、かならずしもあらそうことじゃない」

 ナズが、融通の利かないロイに赤い神の意図を代弁する。

 

『この競技祭典の趣旨は相手をやり込めたり、傷つけるためではありません。喧嘩ではないのです。競技として技を競い合い、互いに交流して認め合うことに意義があります』

 赤い神は諭すようにこう述べたが、彼の説明はロイを納得させるに十分ではなかった。

「兵士の武芸の訓練のためでしょうか。グランダ国の兵士がそのようなことをしていますが。優劣をつけるようなことをしては、諍いが起きるだけではないでしょうか。俺は他国との争いの火種となるようなことはしない方が賢明だと思います。モンジャの平和のためにも。現状、うまくいっていますし」


『争いや軍事とは無縁のことですよ。勝っても負けても、それは同じように尊いのです』

 ロイは首をひねるばかりだった。争いをしてはいけないと言いながら、神はそれを覆すような事を言っている。背反事項を理解するのは、やはりA.I.には難しい。


「俺にはその意義がよくわかりません。実益はありますか? それでモンジャと他国に何がもたらされますか? ともあれ、皆には赤井様からそのようなお話があったと伝えておきます。競技に出ることができそうな者をつのっておきます。俺は競技には出ませんが、運営の手伝いは何でもするつもりです」


『どうして、ロイさんも出ましょうよ。盛り上がりますよ!』

 赤い神はロイの出場を熱望している様子だったが、ロイは首を縦に振らない。

「俺は以前、あなたからいただいた神通力を使っていました。それを他国の民は知っています。俺が競技に出ると、神通力でずるをしていると批判されかねないと思います」

 ロイは競技に出て優勝をかっさらうことで他国にどう思われるかという想像もできている。考えすぎだ、ロイが出てくれると盛り上がるからと食い下がる赤い神に、ロイは頑なに固辞の意志をあらわす。

 そうこうしている間に、ナズがぽつりと衝撃の一言を漏らしたのだった。


「……それはオリンピックみたいですね。僕は選手としてではなく観客としてモンジャの選手をおうえんしにいきます」


 赤い神が目を見開き、絶句していた。それにロイが食いつく。

「何? オリンピックって何だナズ?」

『ロ、ロイさん私たち帰りますね、それでは! ごきげんよう! あ、これチラシです』

「赤井様!? ナズ――!?」

 あきらかに不自然なタイミングで会話を打ち切り、ナズを脇に抱きかかえて、赤い神はあっという間に飛び去って行った。


「オリンピック、だって……?」

 ロイはあっけにとられていたが、ひとまずその言葉を覚えておこうと心に決めた。赤い神が作成したと思しきチラシに目を通す。競技種目と、募集人数、そしてルールが書かれていた。男子、女子の部がある。

「競技に出られそうな男たち……か。槍投げで声をかけるとしたら、ソミオとソミタかなあ」

 槍投げの項目を見て真っ先に、狩人兄弟の顔が浮かんだらしかった。


 ナズは気が付くと赤い神に拉致され、彼の背に乗せられて空を飛んでいた。

 人目のないところで話を、という魂胆は丸わかりだった。ここなら誰も話を聞かないですむ、ナズは緊張して冷や汗が出てくる。赤い神は怒っていないか。


「かみさま、僕、へんなことをいいましたでしょうか」

 ロイには帰ります、と言ったのにみるみる集落が遠ざかってゆく。神殿に連れてゆかれるのかと思ったが、神殿も通り過ぎた。方角から考えると、グランダの東側に向かっているようだ。あそこには何もない。荒れ地が広がっているだけ。ここから落とされたらどうしよう、ここで降ろされたら今日はモンジャに帰れない、と、ナズは彼の肩にしがみつく。


「そんなに悪い言葉なら、もう使いません。知らなかったんです、ごめんなさい!」


 赤い神は快速で飛翔しつつ、肩越しにたびたびナズを振り返りながら返事に窮している。


『悪い言葉ではありません。私にはナズさんの言いたいことはわかりますが、この世界にない言葉なので民たちは混乱するのです』

「ではあかいかみさまとメグにだけ、言うことにします。でも、どうして世界にない言葉、なんですか?」

 民たちの知らない概念や言葉を、回復をしはじめた人間患者たちがこぞって使うようになれば大問題だ、と赤い神は密かに頭を悩ませている。だが、どうやってそれを注意すればよいのだろう。現実世界のことを思い出すのは悪いことではないのだし、禁じるとすれば何か適当な理由がなければ。


『夢のなかの言葉はあくまで夢の世界のもの、この世界にないものなんですよ。オリンピックのこと、詳しく思い出せますか?』

「詳しくは思い出せません。ただ、競技祭典と聞いて、僕の頭の中にそのことばがでてきました。見たことはあると思います、みんなでトラックというだえんけいの場所を走っていました」

 オリンピックを見た……。ということは、立体テレビも思い出しているのだろうな、と赤い神は勘ぐる。ナズの現実世界からの知識の増加が著しいのは、赤い神が特に目をかけて毎日朝晩と祝福をかかさないことと、彼がよく昼寝をし、よく夢を見るからだ。しかしその知識は体系だっているわけではないらしく、赤い神がドキッと肝を冷やす先ほどのような言葉を不意に発するので目が離せない。


「そして僕たちはどこにむかっているんです?」

 どこに連れて行かれるのかと、ナズは気が気でない。赤い神を信用していないわけではないが、急に連れ去られると不安になる。

『グランダ国です。競技場を建設する土地を見に行くのです。ナズさんも”オリンピック”を知っているのなら、一緒に見ていただければと思って』

「だえんけいのトラックをつくるんですか。わあ、楽しみだな」


 ナズは余計なことを言った罰で、誰もいない場所で懲らしめられるのではないと分かり、ようやく安堵の息をついた。彼は赤い神の肩から身を乗り出して俯瞰からの景色を見ることに興じる。上空からの景色を目におさめておくことは、グランダ、モンジャ、ネストを含む広域の鳥瞰図を描くのに役立つ。


『あそこですよ。どうですか? 近くの湖畔で水泳競技もできますし』

 示した先に広がるのは、湖に面した荒れ地だ。障害物がなく、競技場を建設するには具合のよさそうな土地だった。赤い神は速度を緩めひゅるひゅると高度を下げる。ナズと赤い神はグランダを横断して、ごろごろと岩の転がる荒地を目指した。


 そこは、グランダの東にあたる湖畔に面した場所だ。

 上空から建設予定地を見て、ナズの想像力がかき立てられる。ナズには湖畔の大スタジアムの青図が見えていた。

「いいところですね! きれいに平らにすれば」

『あそこをきれいにして、みなさんにはスタジアムで短距離走と長距離走、その他陸上競技をやってもらおうと思います』

「どれだけの距離を走るんですか?」

『そういえば、各国共通単位がありませんね。これを機会に、少しずつ皆さんに決めてもらってもいいかもしれませんね』


 度量衡は現在のところ、各国ごとに制定されている。だが、まったくバラバラなので統一の単位があってもいい頃だ。モンジャの単位はすべて、赤い神の神体の一部にちなんでいた。人間もモノも変わるし壊れるが、神様だけはいつまでもそこにいて、ずっと変わらないから、そう言ってロイが赤い神の身体の各部を採寸して決めた。だが神はそれを最善の方法だとは思っていないようだ。

 だからといって平坦な世界でメートル法が通用しないということは、彼にもよく分かっている様子だ。

 

「かみさまに決めてもらった方が、グランダもネストも不満なくすんなり決まると思いますけれど……あれ、見てくださいかみさま。あそこ!」

『うん、どこです?』


 すると、今にも通り過ぎようとしたグランダの城門の前で、見覚えのある兄弟がグランダ兵たちに囲まれているのが見えた。冬だというのに半裸。彼らを見るたび寒くないのかと赤い神は心配しているが、年中狩りをしている彼らにそれを言うのも野暮である。軽装で身体を軽くしておけば、それだけ狩りをする際に身のこなしもよくなるのだろうが。


『ソミオさんとソミタさん、グランダのエドさんですね。何をしているのでしょうか』


 精霊モフコがソミオたちを置いて、毛束をふりふり、逃げるようにその場を立ち去って神殿へと帰ってゆく。そうこうしている間に、案の定、乱闘騒ぎが起こってしまった。騒動を聞きつけた副隊長ヌーベルがソミオとソミタの前に現れ、対峙していた。棒のようなものを握っているので殺す気はないようだが、怪我をする者は間違いなく出るだろう。


『……これはいけません。ヌーベルさん相手ではいけません』

 赤い神はナズを伴い、血が流れる前に争いを止めるべく急降下した。

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