モリのいっぽんめ
第3話 赤井さんの近況報告と悩み相談 の、ちょっと前ぐらい。
まだ集落が総ヤンデレ化する前辺り。
二人の兄弟が赤井神様の集落に追加された。
体力のある二人は狩りの名手ヤスさんを師として、狩人として動物性たんぱく質を集落に提供する仕事についていた。
比較的初期に追加されたこの兄弟は、残念なことにアホの子だった。
今日も二人は集落の近くの川のほとりでヤスさん考案の槍を作りつつ、釣り糸を水面に垂らしていた。
「なー、にーちゃん」
「あんだね弟よ」
「おれたちカリのとき、モリなげるよな」
「ああ。投げるなぁ」
「これ、おもい。 もっとかるいやつがいい」
「軽い奴か。 どんなだ?」
「ヤリを、もっとちーさくする。 なげるのにだけつかう」
「投げる銛か。 それは面白そうだな。 どんな感じなんだ?」
「これ!」
「早っ! 作ってあったのか?」
「つくった。 これならエドにもきっとかてる」
「お前ほんとエドにこだわるな」
「うまそうだから!」
「お前の食欲にはおどろくわ。 で、どう使うんだ?」
「こうもって、こうきて、なげる!」
ぶん
ガスッ
「ぎゃー!」
「あかいかみさまー!」
「ささらなかったかー!」
「そっちじゃないだろうが!!」
結局、弟が作った投げ銛はうやむやの内に廃案になった。
暫く後に始祖の誰かが似たようなものを考案したようだったが、二人はすっかりそのことを忘れていたので素直に感心していたと言う。
月日は流れ、赤井神様がグランダで磔になっている頃。
ロイが集落に囲いを作った辺り。
二人の兄弟はいつものように川で釣り糸を垂れながら、石製の銛を量産していた。
既にロイが鉄の銛を作って皆に配っていたが、使い捨ての出来る武器も使い勝手もいいのは事実。
魚を獲ったり投げたりする分には、石の銛のほうが便利だったりもするのだ。
「しかし、ロイさんはすごいよなぁ。 やっぱり神様からいろいろなこと教わったんだろうな」
「てつのもりベンリ。 これがあればエドにまけない」
「何でお前はエドにこだわるんだろうねまったく」
「エドうまい!」
「うまかったなぁ、そう言えば。神様が居なくなったすぐ後だっけか。アレもロイさんが居なかったら俺ら死んでたもんな」
「エドたおす。 エドくう。 むらまもる」
「お前日に日にアホに成って行って無いか?」
「しゅうらくのまわりのおとしあな、つよくするほうほうかんがえた」
「どんなことするんだ?」
「おとしあなのしたにたくさんモリつける。 おちるとモリささる」
「おー、そりゃ凶悪そうだな」
「おお。 きょうあくだ。 うまくいけば、おちたケモノすぐにくえる」
「お前の食欲にはおどろくは。 で、もう試してみたりしたのか?」
「そこのへんにほったおとしあなにある」
「お前、だれかがひっかかったら危ないだろうが」
ずる
どさ
「うわぁぁぁ!!」
「ロイさーん!!」
「じんつーりきでふせいだかー!」
「なんですこし残念そうなんだよ!」
ロイは神通力とか赤井さんの服とかのおかげで無傷だった。
結局、弟が発案したモノはまたうやむやになったが、きっとそのうち別の誰かが思いつくだろう。
そして、兄弟はそれに心のそこから感心するのだ。
【筆者のアンサーSS】
国民の皆様こんにちは。私アガルタの構築士赤井ですけど、最近私の集落に来た兄弟が危険です。小学生ぐらいのコンビでかわいいんだけど……かわいいのに何が危険なのかって? 何が危険かっていうと、ヤスさんの造った銛を改良しようとしています。
しかも試作品ができると、必ずといっていいほど私を的にするんです。
本人たちは手がすべったと言っていますが、いつもセリフが棒読みです。
仕方なくこちらも24時間物理結界を張って対応していますが、結界もいつ決壊するかわかんない。
油断ならないなー。と思ってたら、ふとした瞬間に額にさくっとやられた。手裏剣みたいなやつ。しかも石器なんだ、この兄弟は器用に石器をつくる。だから刃だけ投げられたとしても殺傷能力が半端ない。
『あなた私を狙って投げてませんか』
額から血を流しながら、ぶんぶんと左右に首を振る弟の方に読心術をかけてみると、やっぱり狙っている様子でした。
「だってかみさましなないし、すぐケガもなおるもん」
弟がそんなこと言ってる。死ななけりゃいいってもんじゃないでしょ。
『死ななくても、人を的にしてはいけませんよ』
てへ、と舌を出しても許しませんよ。とりあえずあの子らの宿題と仕事、増やしておこうか。
*(ロイ視点)
ある朝、俺はいつものように集落の周りを囲う落とし穴を見に行ってみた。俺は朝いちばんに起きて、落とし穴に落ちた獲物に、穴の上からとどめを刺すのが仕事だ。落とし穴はヤスさんがかなり深く掘ってくれている、大人三人分の背の高さほどある。殆ど毎日、大きな動物や小さな動物が穴に落ちていて、俺たちはその獲物を昼食にして腹を満たしていた。ヤスさんが落とし穴を掘ってくれてから、獲物を捕まえるのも随分と楽になった。
ところが今日は様子が違う、穴に近づいてゆくと、穴の中が騒がしくない。ふだんは、大抵の動物は穴に落ちてもまだ生きている。石製の銛の刃が上を向いた状態で穴の底にたくさん刺さっていた。小さな動物が、貫かれた状態で死んでいた。
誰がこんなことしたんだ。確かにこれは、動物を殺す手間が省けるけれど。
ヤスさんじゃあるまいし。誰か人間が間違えて落ちたら死ぬじゃないか、危ないのはだめだ。この集落には歩き始めたばかりの赤ちゃんもいるし、赤ちゃんや子供が間違えて落ちても大丈夫なように、俺はいつも穴の底に草を敷いて安全なようにしているんだ。皆が起きてくる前に片付けないと。
俺は一本ずつ抜こうと思ったけど、落とし穴の底一面に密集して刺さっていて降りることもできない。俺は穴の手前に腹ばいになると、手を伸ばして、まず足場を作るために近くに刺さっていた銛に手を伸ばした。
すると、穴の周囲の土が崩れて、俺の体がずるりと滑ってしまった。
まずい、と思った時には既に遅く、俺は体勢を崩し前につんのめって穴の中に吸い込まれていった。あの銛に貫かれて俺も死ぬのは嫌だ! そう思ったとき、急に体が熱くなった。思わず目をつぶった。
どさ……。
俺の背が、柔らかな草に触れた。目を開けてみると、俺は無事だった。どうして……意味がわからない。落ちれば死なない訳がない。そう思って周囲を見てみると、銛が俺のまわりに粉々に折れて散らばっていた。何が起こったんだ。何気なく顔の前にかざした俺の手の周りに、白い光が纏わりついていることに気が付いた。手だけじゃない、体全体を覆うように。何なんだこれは。
穴の外が騒がしくなって、誰かが覗いている。狩りの仕事をしている仲良しの兄弟だ。好奇心旺盛で、何でもやってみたがる二人だ。赤井様がよく、彼らの思いつきによってとばっちりを喰らっていたっけ。彼らが新しく何か思いついてこの罠を仕掛けたみたいだ。反省している様子だったので、叱るのはあとにしよう。
俺は何事もなかったかのように草を払って立ち上がり、一本ずつ地面から銛を抜こうとした。俺が銛に触れる前に、銛が砕け散った。白い光に触れると、壊れるみたいだ。
もしかして俺は……赤井様に守られているんだろうか。
思い返せば、彼がヤスさんと一緒に狩りをするとき、赤い光と白い光を放つことがあった。赤い光に触れると動物が大人しくなり、白い光に触れた動物は気絶して動かなくなった。この光は赤井様の物理結界というやつなんじゃないだろうか。
守られていると思うと、また、彼のことを思い出した。
ここ最近は思い出さないようにしていたのに。彼が俺に着せてくれた白衣をぎゅっと握りしめる。
俺がしっかりしないと……彼が戻られるまで、彼の残してくれた大切な力を使って皆を守り抜かないといけない。神通力を消費して無駄にしないようにしよう、光を消すように想像すると、ふっと光が体から離れてくれた。この力を、もっと完璧に使いこなさないとな。彼がやっていたことを思い出して、彼と同じようにやらないと。
……俺の小さな目標がまた一つ増えた。
「ロイさーん! 大丈夫ですかー?」
「ろいさーん」
穴の上から兄弟が俺を呼んでいる。あいつらは俺が死んだらどうしたんだろうか。エドが大好物なあいつらは、早くエドを食べたくてこんなことしたんだろうな。俺がとどめをさす時間も待てなかったのか。
「今度から、何か思いついたら、止めはしないけれどまず俺に相談してくれないか」
俺は呆れながらそう言った。
「はーい! そうだんしますー!」
「しまーす!」
こいつら、いつも返事だけはいいんだもんな。
あとで、宿題を増やしておいてやろう。