第七話「伝説の鍛冶師との出会い」
シロという強力な、そしてもふもふな仲間が加わったことで、アッシュたちはより高ランクの依頼もこなせるようになっていた。しかし、それに伴い、装備の貧弱さが目立ち始めていた。アッシュの短剣は量産品、ルナの弓も初心者用のものだ。
「新しい武具が必要だな」
「そうですね。シロもいますし、より危険な場所へ行くなら、相応の準備が必要です」
ルナの言葉にうなずき、アッシュたちはアナスタシアに教えてもらった、町一番と評判の鍛冶屋「獣火の槌」を訪れた。
店の扉を開けると、カンカンというリズミカルな槌の音と、むっとするような熱気が彼らを迎えた。
「へい、いらっしゃい!何か用かい?」
火花が散る炉の前から現れたのは、意外にも、小柄で溌剌とした獣人の少女だった。猫のような耳と尻尾を持ち、そばかすの浮いた顔はまだ幼さが残っている。彼女こそ、この店の主である天才鍛冶師、ミーファだった。
「あの、新しい弓と短剣を作っていただきたくて」
アッシュが言うと、ミーファは彼らの装備を見向きせず、ぷいっとそっぽを向いた。
「ふん、そんなナマクラを腰にぶら下げてる奴らに、あたしの魂を込めた武具は作れないね!」
「えっ?」
「最高の武具ってのはな、最高の素材があって初めて生まれるんだ!なのに、この町にはミスリルすらろくにない。こんなんじゃ、あたしの腕が錆びちまうよ!」
ミーファはそう言って、足元の鉄クズを悔しそうに蹴飛ばした。どうやら、彼女は極度の素材至上主義者らしい。
(最高の素材、か)
アッシュはにやりと笑った。それなら、おあつらえ向きの物がある。
彼は懐から、先日ダンジョン探索のついでに鑑定で見つけておいた、一つの鉱石を取り出した。それは、一見するとただの黒い石ころだ。
「ミーファさん、もし、これほどの素材があったら、最高の武具を作ってくれますか?」
「ああん?そんな石っころ見せられても……」
ミーファは馬鹿にしたように言いかけたが、その鉱石を受け取った瞬間、彼女の表情が凍りついた。獣人ならではの鋭い感覚が、その石に秘められた尋常ならざる魔力と密度を感じ取ったのだ。
「こ、これ……この重さと魔力の伝導率……まさか……嘘でしょ……?」
ミーファは震える手で鑑定用のルーペを取り出し、その鉱石を食い入るように見つめる。そして、絶叫した。
「オリハルコン原石ィィィィィッ!!!」
その叫び声に、店の外を歩いていた人が何事かと振り返るほどだった。
「な、なんで、こんな場所に伝説級の金属が!?しかも、ほとんど不純物のない最高品質……!」
「先日、たまたま見つけたんです。未発見の鉱脈ごと」
アッシュがさらりと言うと、ミーファは彼の足元に駆け寄り、そのズボンにすがりついた。
「お、恩人様!いや、神様!このミーファ、一生ついて行きます!このオリハルコンを、あたしに打たせてください!」
瞳をキラキラと輝かせ、尻尾をぶんぶんと振るミーファの姿は、先ほどの気難しい職人のそれとはまるで別人だった。
「いいですよ。その代わり、俺たちのために、最高の武具をお願いします」
「任せとけ!あたしの魂、いや、あたしのすべてを懸けて、あんたたちのための至高の一品を創り上げてやる!」
ミーファは狂喜乱舞し、その日から三日三晩、炉の前に篭り続けた。
そして完成したのは、アッシュの言葉通り、まさに最高の武具だった。
ルナのために作られた弓は、オリハルコンの芯材を世界樹の枝で挟み込んだ『星詠みの長弓』。矢の速度と貫通力を飛躍的に高めるだけでなく、持ち主の魔力に応じて矢に属性を付与する魔法の弓だ。
アッシュの短剣は、ミスリルとオリハルコンの合金で作られた『サイレントキラー』。驚くほど軽く、振り抜いても風切り音一つしない暗殺用の逸品。
「す、すごい……。弓が、まるで体の一部みたい……」
「この軽さと切れ味……信じられない」
新しい武具を手にした二人は、その性能に驚愕した。
「どうだ!これがあたしの実力よ!」
ミーファは胸を張ってふんぞり返る。そして、アッシュに向き直ると、真剣な顔で言った。
「アッシュ!あんた、あたしを仲間にしな!あんたのその『目』があれば、あたしはもっとすごい武具が作れる!世界一の鍛冶師になれるんだ!だから、あたしを連れてってくれ!」
最高の素材を見つけ出すアッシュの鑑定能力に、彼女は完全に惚れ込んでいた。
こうして、最高の武具と、最高の鍛冶師兼、頼れる前衛(彼女は巨大な戦斧も使いこなす)が、アッシュのパーティに加わることになった。




