第二話「ゴミスキルじゃなかった【万物鑑定】の真価」
仲間、財産、未来への希望。そのすべてを失い、アッシュは亡霊のようにダンジョンを彷徨っていた。もはや魔物と遭遇しても抵抗する気力すら湧かない。このまま野垂れ死ぬのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。
ふと、足元に転がっていた何の変哲もない石ころが目に入った。それは、洞窟の至る所にある、ただの石だ。
(……どうせ死ぬなら、最後に一度だけ)
自嘲的な笑みを浮かべ、アッシュはほとんど無意識にスキルを発動させた。
「【鑑定】」
いつも通りなら、【名称:石ころ】【価値:なし】と表示されるだけのはずだった。だが、その瞬間、彼の脳内に、今まで経験したことのないほどの膨大な情報が濁流のように流れ込んできた。
【名称】光を溜める石
【等級】希少
【価値】三万ゴールド
【情報】
①内部に微弱な光魔力を蓄積する性質を持つ鉱石。
②魔道具の触媒として使用され、特に光属性の魔法効果を増幅させる。王都の魔道具工房などで高値で取引される。
【隠された情報】
▶この鉱石を粉末状にし、回復ポーションに混ぜ込むことで、回復効果を一・五倍に引き上げる効果がある。
▶近くに同質の鉱脈が存在する可能性:七十八パーセント
【未来の可能性】
▶三日後、偶然この場所を通りかかったゴブリンに蹴飛ばされ、地中の水脈に落ちて永遠に失われる。
「……え?」
アッシュは自分の目を疑った。なんだ、この情報量は。名称、価値、詳細な情報。それだけではない。【隠された情報】?【未来の可能性】?
今まで見えていた【名称】と【価値】は、このスキルの能力の、ほんの表層にすぎなかったのだ。
追放されたショックと、レオたちへの怒り。様々な感情が渦巻く中で、アッシュの脳は冷静に分析を始めていた。レオたちは、ダンジョン内で俺が鑑定するたびに「遅い!」「まだか!」と急かしてきた。だから俺は、膨大な情報を読み解く前に、一番最初に見える表層部分だけを報告していたんだ。
焦りとプレッシャーの中で、俺自身が、このスキルの本当の力に気づく機会を失っていた。
「ゴミスキルなんかじゃ……なかった……!」
アッシュは、その石を震える手で拾い上げた。これが、三万ゴールド?これを使えば、回復ポーションの効果が上がる?
まるで、世界のすべてが色鮮やかに見え始めたかのような感覚。彼は試しに、壁に生えている苔を鑑定してみる。
【名称】陽光苔
【等級】コモン
【価値】五十ゴールド
【情報】
①洞窟内でも微かな光を頼りに繁殖する苔。
②乾燥させて粉にすると、火種として利用できる。
【隠された情報】
▶食用ではないが、解毒作用のある成分を微量に含む。
次に、自分の着ているボロボロの服を鑑定する。
【名称】旅人の服
【等級】ノーマル
【価値】十ゴールド
【情報】
①丈夫な麻で作られた一般的な服。
【隠された情報】
▶仕立てた職人の遊び心により、右袖の縫い目に『幸運の銀糸』が一本だけ使われている。これを売れば千ゴールドになる。
「は、はは……ははははは!」
乾いた笑いが、やがて歓喜の爆笑へと変わった。
追放されて、すべてを失ったと思っていた。だが、違った。俺には、この【万物鑑定】という、とんでもないチート能力が残されていた。いや、追放されたからこそ、この力に気づくことができたのだ。
レオ、カイル、セラ……。君たちは、とんでもない宝物を手放したんだ。
アッシュの瞳に、力強い光が宿る。絶望は、一瞬にして燃え盛る希望へと変わった。
まずは生き延びることからだ。この力があれば、金策も、身の安全の確保も、すべて可能になる。
彼はすぐに立ち上がり、鑑定で探し出した「光を溜める石」をいくつか集め、懐にしまい込んだ。さらに、鑑定で見つけた「幸運の銀糸」を服の袖から慎重に取り出す。
「見てろよ……。俺は、俺の力で成り上がってみせる」
一人、洞窟に響いたその声は、もはや絶望に打ちひしがれた青年のものではなかった。それは、自らの手で未来を切り拓くことを決意した、一人の男の力強い宣誓だった。




