第十八話「世界の真実」
竜将軍ゲオルグを救出し、王国騎士団を味方につけた「暁の翼」の勢いは、もはや誰にも止められなかった。残りの魔王軍幹部も打ち破り、王都へと続く街道は、ついに解放された。
王都は、英雄の凱旋に沸き立った。民衆は「アッシュ!」と「暁の翼!」の名を熱狂的に叫び、彼らを迎えた。
アッシュは、救い出した元英雄ゲオルグから、魔王軍の内部事情について話を聞いていた。そして、彼はゲオルグが捕らえられていた際に垣間見たという、魔王の素顔についての断片的な情報を聞き出す。
「魔王は……時折、ひどく苦しんでいるようだった。『なぜだ』『こんなはずではなかった』と……。そして、その手には、我々が使う聖剣とよく似た、しかし黒く染まった剣を握っていた……」
聖剣に似た、黒い剣。
その言葉が、アッシュの頭に引っかかった。彼はアナスタシアに頼み、王家の書庫で、過去の「勇者召喚」に関する文献を調べさせてもらった。そして、ゲオルグの情報と文献の内容を元に、【万物鑑定】の力を、世界の理そのものへと深く、深く潜行させていく。
脳に凄まじい負荷がかかり、鼻から血が流れる。だが、アッシュは止めなかった。
そして、彼は、ついに驚愕の事実にたどり着いた。
【世界の真実】
【対象】魔王の正体
【情報】
▶現在の魔王は、かつてこの世界を救うために異世界から召喚された『先代の勇者』である。
▶彼は魔王を倒すことに成功したが、その際に使用した『聖剣』は、強大な魔力を喰らうことで所有者の魂を蝕む呪われた武器だった。
▶先代勇者は、聖剣の力に魂を喰われ、理性を失い暴走。自らが新たな『魔王』となってしまった。彼が率いる魔王軍は、彼の無念と絶望が生み出したもの。
【隠された情報】
▶勇者レオが持つ聖剣も、全く同じ呪いを秘めている。力を渇望し、使い続ければ、いずれ彼もまた先代勇者と同じ運命を辿る。
▶この事実は、勇者召喚を行う王家の上層部と、神殿の一部だけが知る、隠された真実である。彼らは、勇者を『使い捨ての駒』として利用してきた。
「……なんてことだ……」
アッシュは戦慄した。
魔王は、倒すべき絶対悪ではなかった。彼もまた、世界を救おうとした一人の勇者であり、システムの犠牲者だったのだ。そして、その悲劇が、今まさにレオの身にも繰り返されようとしている。
この世界は、勇者を英雄として召喚し、魔王を倒させ、そして用済みになれば呪われた聖剣の力で新たな魔王へと変質させる……そんな、あまりにも残酷で、歪んだサイクルで成り立っていた。
アナスタシアも、その事実を知らされて言葉を失った。
「そんな……王家が、神殿が、そんな非道なことを……。父上も、その事実を知らずに……」
「だから、魔王をただ力でねじ伏せても、何も解決しない。新たな魔王が生まれるだけだ」
アッシュは拳を強く握りしめた。
「魔王を倒すんじゃない。先代勇者の魂を、聖剣の呪いから『救う』んだ。そして、この歪んだ連鎖を、俺たちの代で断ち切る」
彼の目的は、もはや単なる魔王討伐ではなかった。世界の根本的な欠陥を正し、真の平和をもたらすこと。そのために、為すべきことは一つ。
「魔王城へ行きます」
アッシュの瞳には、かつてないほど強く、そして優しい光が宿っていた。それは、すべての犠牲者を救済しようとする、真の英雄の光だった。
世界の真実を知った今、彼の戦いは、新たな意味を持つことになった。




