第十七話「英雄の出撃」
王都へと続く街道は、魔王軍が放つ禍々しい瘴気に包まれ、まるで冥府への入り口のような様相を呈していた。そこに布陣する王国騎士団は、連戦連敗で士気が下がりきっている。
その絶望的な戦場に、一筋の光が差し込んだ。
アッシュ率いる「暁の翼」の到着だった。
「あれが……『暁の翼』!」
「辺境の英雄が、本当に来てくれた!」
騎士たちの間に、かすかな希望のさざ波が広がる。騎士団長は、半信半疑といった様子でアッシュに近づいた。
「貴殿が、アッシュ殿か。よくぞ来てくれた。しかし、敵は魔軍師、竜将軍、暗殺者の三幹部。一筋縄ではいかんぞ」
「わかっています。作戦はあります」
アッシュは冷静にうなずくと、早速【万物鑑定】で敵陣を分析し始めた。そして、彼の目に、ある意外な情報が飛び込んできた。
敵幹部の一人、圧倒的な防御力で騎士団を苦しめている竜将軍。その正体は――。
【名称】ゲオルグ(洗脳状態)
【正体】元エルロード王国最強の騎士『竜殺しのゲオルグ』
【状態】魔王が埋め込んだ『隷属の呪核』により、思考と記憶を支配されている。
【情報】
▶十年前に魔王軍との戦いで行方不明となっていたが、捕らえられ洗脳されていた。
【洗脳解除方法】
▶彼がかつて愛用していた『誓いの盾』に込められた聖なる力で、胸の呪核を打つ。
▶『誓いの盾』は、王家の宝物庫に保管されている。
「……そうだったのか」
アッシュは騎士団長に向き直った。
「竜将軍の正体は、十年前に行方不明になった、王国の元英雄ゲオルグ殿です。彼は魔王に洗脳されているだけだ」
「な、なんだと!?馬鹿な、あのゲオルグ殿が……!」
騎士団長は絶句する。ゲオルグは、彼にとって憧れの先輩騎士だったのだ。
「彼を殺してはいけない。救い出します。王家の宝物庫にある『誓いの盾』を持ってきてください。それがあれば、洗脳は解ける」
アッシュの言葉は、ありえない話に聞こえたかもしれない。だが、その瞳には、嘘偽りのない強い意志が宿っていた。騎士団長は、何かに憑かれたようにうなずくと、すぐさま部下に盾を運ぶよう命じた。
作戦はこうだ。まず、アッシュの指示でソフィアとミーファが暗殺者を、ルナとシロが魔軍師を足止めする。その間に、アッシュ自身が竜将軍ゲオルグと対峙し、洗脳を解く。
やがて、『誓いの盾』が届けられた。アッシュはそれを手に、一人で竜将軍の前へと進み出る。
「ゲオルグ殿!目を覚ましてください!」
「……我は魔王様の僕、竜将軍なり。邪魔する者は、すべて排除する」
虚ろな瞳で、ゲオルグが巨大な槍を構える。
アッシュは、攻撃を避けることに専念した。彼の【万物鑑定】は、ゲオルグの槍筋を完璧に読み切っている。紙一重で攻撃をかわし続けるアッシュの姿は、まるで舞いを舞っているかのようだ。
その隙に、他のメンバーはそれぞれの敵幹部を圧倒していた。
「お前の動きは、アッシュが全部教えてくれてるぜ!」
ミーファが暗殺者の奇襲を読んでカウンターを決め、ソフィアがその隙を突いて剣で追い詰める。
「アッシュ様の指示通り……そこ!」
ルナの矢が魔軍師の詠唱を妨害し、シロの氷結ブレスがその動きを封じた。
そして、ついにアッシュに好機が訪れる。ゲオルグが大技を放った直後、その胸元に一瞬の隙ができた。
「今だ!」
アッシュは懐に飛び込み、『誓いの盾』をゲオルグの胸に強く押し当てた。
「ぐ……うぉおおおおおおおっ!!」
盾から放たれた聖なる光が、ゲオルグの体を包む。彼の胸から、黒い呪いの核が弾け飛び、霧散した。
「……はっ!私は……一体……?」
正気を取り戻したゲオルグが、困惑した表情で自分の手を見つめる。
「アッシュ殿……あなたが、私を……」
敵幹部の一人を、殺さずに救い出す。その人道的で、あまりにも鮮やかな戦い方に、王国騎士団はただただ衝撃を受けていた。彼らは、目の前の青年が、単に強いだけの英雄ではないことを悟った。
「全軍、アッシュ殿の指揮下に入れ!我々は、『暁の翼』と共に戦う!」
騎士団長の号令が響き渡る。残りの幹部二人は、竜将軍を失い、完全に狼狽していた。士気を取り戻した王国騎士団と、「暁の翼」による反撃が、今、始まる。
彼らの心は一つだった。この青年こそ、王国を救う真の英雄だと。その背中に、全幅の信頼を寄せていた。




