表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜里野ストーリー  作者: 与志野音色
1章 神界高校・文化祭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/19

3話「裏切り」

三日後の放課後。

特別棟の薄暗い部屋に、乾いた靴音と荒い息が響いていた。


「はぁっ……! もう一回いくぞ翔馬!」


蒼い波動を指先に集めながら与志野が構える。


「おう……! でも今度は手加減してくれよ!」


翔馬は足に力を込める。

三日間の修行で、あの暴走した跳躍はだいぶ“技”になってきていた。


――ドン!


翔馬が床を蹴った瞬間、空気が一瞬だけ凹んだように歪む。

与志野が指先から蒼い衝撃を撃つ。


「はっ!」


蒼閃が翔馬の頬をかすめ、壁に深い亀裂を刻んだ。


「おい与志野、今の本気出しすぎだろ!!」


「わ、わりぃ!加減がまだわかんなくて!」


二人の笑い声が狭い部屋に響いた。


その横で、田野は静かにノートを閉じる。


「……いいね。君たち、もう“戦えるレベル”にまで来てる」


いつもの眠そうな目。

だがその奥には、言いようのない影が揺れていた。


翔馬は気づかずに笑いながら言う。


「田野、今日もありがとうな。お前がいなきゃ絶対ここまで来れなかった」


「……うん。そう言ってもらえると……嬉しいよ」


田野は一瞬だけ目を伏せた。


何かを決めるように。



その日の夕暮れ。

田野は一人、校舎裏へ向かっていた。


(……今日こそ言わないと)


翔馬達に“あの話”を。


そう思いながら特別棟へ続く階段を曲がった瞬間――

空気が急激に冷たくなった。


「遅いよ、田野くん」


階段の影から、細いシルエットが滑り出てくる。


女。

青紫の髪を揺らし、人懐っこい笑顔を浮かべた――いや、“貼り付けた”ような笑顔。その笑顔からは鋭い牙が見え隠れしている。


YOU died の直属の部下。

「サメ」。


「……サメ」


「あはは、そんな怖い顔しないでさ。

 今日は“勧誘”の続きに来たの」


田野は一歩も動かない。


「俺は……もう決めた。

 YOU diedの派閥には……亜里野達は入れない」


サメの笑顔が、音もなく消えた。


「え〜?困るなぁ……

 君が“その為だけに近づいた”って、YOU died様にも伝えてあるのに」


田野は唇を噛む。


「最初は……そのつもりだった。

 でも……あいつらは違う。

 あんな純粋な奴らを……殺し合いなんかに巻き込みたくない!!」


サメの裸足が、コツン、とコンクリを叩く。


「へぇ……情が移ったんだ?」


「……ああ。

 だから俺は……抜ける。お前らから」


ほんの一瞬。

夕暮れの光がサメの片目だけを照らした。


その目は完全に“狩人”のそれだった。


「ダメだよ」


空気が震え、サメの輪郭が一瞬かき消える。


「田野くん。

 裏切りは──殺すって決まってるの」


次の瞬間。


田野の視界からサメが消えた。


「……っ!?」


背後。


“サメ”の足が田野の後頭部に叩き込まれた。


ドガァッ!!!


田野の体が地面に叩きつけられる。

視界がぐにゃりと揺れた。


「く……っ!」


必死で立ち上がる。


「やる気?いいじゃん……。

 祝福が覚醒したばっかの子を“壊す”の、めっちゃ楽しいんだよね」


サメの全身が微細に震えている。


田野は構える。


「舐めるなよサメ..……!」


田野の身体から蒼いオーラが湧き出る。


「my only girlfriend(俺だけの彼女)!!!」


田野の身体から青白い半透明の少女が現れた。


「なるほど...徹底抗戦って訳ね...田野。でもその祝福、戦闘向きじゃないでしょ」


サメが笑うと同時に田野の背後から巨影が落ちてきた。


少女が田野を抱き抱えそれを何とか躱わす。


その直後田野の左腕があり得ない方向に回転した。


「ぐあっ!?」


田野はあまりの痛みに立っていられず膝をついた。


「ほら、こいつ忘れてない?」


サメが指差したのは

YOU died のもう一人の部下。


身体自体は細いが、片腕が不自然に太い男。


「左・さ・わん」。


「……逃がすわけねぇだろ……田野。

 裏切り者ァ……潰す」


田野は絶望の中で拳を握る。


「お前ら……俺も……馬鹿だな……」


「うん、馬鹿だよ」


サメが笑う。


「だってさ。

 あの二人を“守りたい”なんて。

 君が一番弱いから、情を持ったら終わりなんだよ」


左・腕が地面を蹴る。


それだけで衝撃波が走り、田野の体が吹き飛んだ。


「がはっ……!!」


背中を打ち壁に崩れ落ちる。


視界が赤黒く染まっていく。


田野の背後にいた少女は田野がダメージを受けたと同時に崩れて消えた。


「ハア...ハア......my.....my only....!」


「じゃ、殺すね。

 YOU died様からの命令だし」


サメの影からでかい魚影のようなものが出た。

左・腕の拳が握られる。


田野は最後の力で呟いた。


「翔馬……与志野……逃げろ……絶対に……」


二人の影が一斉に迫る。


「my only girlfriend!!!」


再び少女が顕現する。


田野は最後の力を振り絞るかのように叫んだ。


「うおおおおおお!」


次の瞬間。


――ドゴォォォンッ!!!!


階段下の壁が砕け、粉塵が空を覆った。


田野の体は動かない。

血がじわりと広がり、夕陽が赤く反射する。


サメが髪をかき上げ、笑う。


「さぁ……次は君たちの番だよ、“祝福者”くん達」


風が止まり、学校全体が不気味な静寂に包まれた。


そのころ――

特別棟で修行を続ける翔馬と与志野は、まだ知らなかった。


“親友の裏切りと絶望”が、すぐそこまで迫っていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ