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亜里野ストーリー  作者: 与志野音色
1章 神界高校・文化祭編

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2/20

2話「祝福」

四月の昼下がり。

教室には小テストの答案が返され、ざわざわとした騒ぎが広がっていた。


「お、翔馬!何点だよ!」


エルサが背後から答案を覗きこんでくる。


「うるせぇよ……まあまあだよ。お前は?」


「俺?ほれ!」


満面の笑みで差し出された答案には 74 の数字。

エルサらしい、適度にやって適度にミスる点数だ。


だがやけに嬉しそうな多い死と何かを話し答案を受け取った与志野がいかにも自信ありげな顔でにやけて言った。


「そんなもんか〜、まあお前ら馬鹿だからなー。」



「うわ、100点!?すげぇじゃん与志野!」


「多い死がこの学年で満点は俺だけだってさ。」


田野も静かに答案を見せる。


「僕はこんなもんだね。満点じゃないけど」


相変わらず淡々とした声だが、どこか翔馬を見る目が鋭い。

昨日、田野に言われた言葉が突然胸の奥でよみがえる。


――“君たち、目覚めたんだね”


翔馬は筆を置き、気づけば田野の横顔を見つめていた。


その瞬間、意識がふっと揺らぐ。




昇降口の外。

夕暮れの風の中で、田野はただ静かに言った。


「この学校には秘密がある、それはごく少数の才能ある生徒達に授けられた異能...祝福だよ。」


「祝福……?」


与志野は息を呑んだ。


田野は続ける。


「与志野の蒼い暴走。

 そして翔馬、君のあの“瞬間移動みたいな動き”。

 あれは偶然じゃない」


翔馬の背中に冷たいものが走った。


「あれは……俺の気のせいなんかじゃなくて……」


「やったんだよ。君がね」


田野が見せるわずかな笑みは、どこか寂しげだった。


「僕も……持ってる。

 だからこそ気づけるんだ」


「じゃあ……山愚痴達のあれも……」


「教師に見つかったら、ただの暴力事件として処理される。

 でも、本当は違う。

 “祝福者”の暴走は、あいつらにとって最も厄介な問題なんだ」


翔馬の顔が歪む。


「あいつら...?」


田野が振り返り、はっきりと言った。


「何野四天王だよ。」


「何野四天王...?何だよそれ」


「数年前...この学校に通う一人の生徒が異能に目覚めた。そして彼だけじゃなく同じ時期に何人も似たような現象が起きた。だがそのうち彼らは力に溺れ自分に目覚めた異能を他人を傷つける為に、誰かを支配する為に使い始めたんだ。」


与志野が絶句する。


「この学校で...そんな事が...」


田野は続けた。


「その時祝福者達は誰が一番の支配者か、誰が一番優れていくか決める為殺し合いを始めた。その時祝福者達のほとんどは死ぬか消息不明になってしまったが....その壮絶なバトルロワイヤルに勝ち残った猛者達四人。それが何野四天王だ。」


翔馬は困惑しながらも冷静になろうと言った。


「田野...教えてくれ。何でお前はそんな事知ってんだ?お前がその祝福ってのに目覚めたのはいつなんだよ」


「目覚めたのは5日前。俺も最初は何も知らなかった、だが...」


田野が顔を歪め苦しそうな顔をした。


「あいつらが....何野四天王の一人、YOU diedの部下が祝福を発現したばかりに俺に接触してきた。そして全てを教えてくれたんだ。初めは親切な人達だと思った、でも...あいつらは...またこの学校で殺し合いを始めるつもりだ。」


「YOU died...?殺し合いって...嘘だろ?」


「亜里野、信じられないかも知れないけど...祝福に目覚めた以上お前らももう戻れない、この学校の「裏口」に入っちまったんだ。」


「翔馬?どうした?」


エルサが覗き込む。


「いや、なんでもない」


そう言いながら、翔馬は昨日の田野の言葉が頭から離れなかった。



放課後。


人気の少なくなった特別棟へ、

翔馬・与志野・田野の3人は向かった。


鍵のかかったはずの扉が、ギィ……と勝手に開く。


「ここ……?」


「俺の秘密の場所。ここで俺も色々と祝福を試したんだ。」


田野が淡々と言う。


薄暗い空間に、簡易的なマットと、衝撃吸収用の壁。

まるで秘密の武道場のようだった。


「じゃあ……ここで俺らの力を教えてくれるってことか?」


「教えるっていうか……制御しないと危険だからね」


田野はまず与志野の前に立つ。




「君達の祝福は見た感じフィジカル系なんだ。僕とは少しタイプが違う、だから教えられることは少ないかもだけど...」


与志野の顔がこわばる。


「昨日みたいなのがまた起きたら……俺……」


「だから今日制御する。

 大丈夫、僕も最初は暴走した」


田野が静かに与志野と翔馬に語りかける。


「昨日の感覚を思い出すんだ。自分の中の核を思い浮かべる感じ」


「……っ!」


与志野の体がびくりと震える。


「落ち着け。“吸って……吐いて”を繰り返すんだ」


田野の声は不思議なほど落ち着いていた。

そのうち与志野の指先に蒼い揺らぎができた。


「君の祝福はその指先みたいだね、昨日山愚痴達を指で突いて吹き飛ばしてたし」


「指先...指で....突く。」


与志野は人差し指を上げたまま拳を思い切り正面に突いた。


ドン!


空気が裂けるような風が翔馬達に吹きつけ翔馬達は後ずさった。


「……できた……?」


「今のは成功だよ。よく頑張った」


与志野の表情にわずかな自信が灯る。



「じゃあ次は翔馬」


「俺は……何ができるんだ?」


「簡単だよ。昨日の“跳躍”。

 あれは瞬間的に身体能力を極限まで引き上げる祝福っぽいね」


「肉体強化系……ってことか?」


田野は頷く。


「ただし“コントロールできなきゃ危険”。

 骨が折れるし、筋肉が悲鳴をあげる」


田野はマットの中央を指さした。


「じゃあ翔馬。“軽く”前へ跳んでみて」


「軽く、か……?」


翔馬が地面を蹴る。


ドッ!


空気が一瞬歪み、視界がぶれた。


「うおっ……!」


ほんの1メートル跳んだだけで、まるで全速力で加速したような反動が来る。


「ほら、これ。

 制御しないと、勢いが殺しきれない」


田野が苦笑する。


「でも……やれそうだよ、翔馬」


与志野が笑って言った。


その声に、翔馬の胸の奥がまた熱くなる。


「慣れてきたら技名でも決めようか。」


田野の言葉に2人は笑った。




「……なぁ田野」


翔馬がふと口を開く。


「俺たち……これからどうすりゃいいんだ?」


田野は少し考えてから答えた。


「まずは“祝福をコントロールする”。

 そして……いつか来る“本物の危機”に備える」


「本物の……?」


「昨日の事件は間違いなく何野四天王達に届いてる。俺にもまたYOU died達の手が伸びるかもしれない。君たちの力は間違いなく、その渦中に巻き込まれる」


静寂が三人を包む。


だがその中に、不思議な高揚感もあった。


翔馬は思う。


(これが……俺たちの運命なのか?)


心が少しだけ前へ踏み出す。



夕日が差し込む特別棟の一室で、

2人は初めて“自分の力”と向き合った。


そして、それぞれの胸に小さな決意が生まれた。


そしてこの時翔馬達を観察している「何者か」をその三人はまだ知るよしもなかった。

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