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第七十四話 アヤの決意

ユージは魔導生物へと変わり果て、その暴走は止まることを知らない。


「おい!!

どうやって元に戻すんだよ!!」


ライトが叫ぶ。


グレンダは歯を食いしばり、視線を逸らした。


「……戻し方なんざ、わからねぇ。

それに……記録には、魔導生物になったら、もう二度と戻ることはねぇって……」


その言葉が、アヤの心を完全に打ち砕いた。


膝から崩れ落ち、両手で顔を覆う。


「……う……ううっ……」


嗚咽が、抑えきれず漏れ出す。


「せっかく……せっかくユージが……

戻りかけてたのに……どうして……どうして、こんな……!」


頬を伝う涙は止まらず、

荒野に響く戦場の喧噪に、無情にかき消されていった。


「記録って一体なんだ!

くそっ! もう戻らないなんて……そんなわけあるか!!」


ライトは歯を食いしばり、再び叫ぶ。


「ユージ!! 落ち着け!!

俺だ!! ライトだ!!」


だが――


「グアオオオオオオオ!!」


理性の欠片も残さぬ咆哮。


振り抜かれた巨腕が、空気を裂く。

次の瞬間、ライトの身体は弾丸のように吹き飛ばされた。


大地を転がり、砂塵の中に叩きつけられる。


――もはや、そこに立っているのは“ユージ”ではなかった。


それは、

祝福の名を騙った――完全な呪い。


そして、戦場は――

救うための戦いから、止めねばならぬ地獄へと変わった。


「ぐっ……すげえパワーだ!!」


吹き飛ばされながらも、ライトは歯を食いしばって立ち上がった。

魔導生物となったユージは、見境なく、目についた兵へ飛びかかろうと暴れ始める。


「だめ!ユージ!!

もし人を殺めたら――戻れたとしても、あなたは自分を許せなくなる……!」


「くそっ!止まりやがれぇ!!」


アヤの声を聞いて、グレンダが巨大な斧を構え、正面から魔導生物の行く手を塞ぐ。


「まだだ、アヤ!

ユージはまだ誰も殺っちゃいねぇ。

その前に食い止めるんだ……!」


だが――


「グウウアアアウ!!」


猛り狂う咆哮と共に、巨体は減速することなく突進してきた。

次の瞬間、圧倒的な質量と力が、斧ごとグレンダを押し潰そうとする。


土煙が巻き上がり、地面を削りながら引きずられていく。


「くそぉっ!!」


踏ん張るが、足が滑り、後退を強いられる。


「ユージに……これ以上、人を傷つけさせねぇぞ!!」


ライトも駆け寄り、《光の盾》を叩きつけるように押し返した。

白光と黒影が激突し、火花が散る。


だが――


「グガアアアアウ!!」


魔導生物は獣のように身を捻り、回転した。

暴風のような衝撃波が炸裂し、二人まとめて吹き飛ばされる。


「グレンダ……ライト……!」


倒れ込む二人を見て、アヤは拳を強く握りしめた。


「……ユージ!!

そんな力に負けないで!! お願い!!」


必死の叫び。

だが、その声は咆哮にかき消される。


「……なら、動きだけでも止める!!

――《対魔手裏剣・痺》ッ!!」


鋭い音と共に放たれた手裏剣が、魔導生物の体に突き刺さった。


ビチィッ!!


しかし――痺れる様子はない。


「ガウガオウウ!!」


怒りの咆哮と共に、影が蠢く。

次の瞬間、黒い影が伸び、アヤの体を掴み上げた。


「きゃあっ!」


宙を舞い、次の瞬間――

容赦なく地面へ叩きつけられる。

そのまま影の刃がアヤを貫こうとする。


「ちくしょう! 《光の盾》!!」


ライトが即座に展開した光の障壁が、次の一撃を受け止めた。


――ガキィン!


「……ありがと。ライト」


アヤは再び立ち上がる。


そして、三人は立ち向かう。

ライトは《光の盾》で防ぎ、

グレンダは斧で押し返し、

アヤは忍びの術で翻弄する。


だが――


「グアアアアアウ!!」


影の腕がうねり、嵐のように襲いかかる。


「ぐっ……止まりやしねぇ!!」


「こいつ、力が強いだけじゃねえ……!

体が覚えてるのか、影の扱いだけは異様に正確だ……!」


満身創痍の中、アヤは歯を食いしばった。


「……でも、諦めない……

ユージを……ユージを取り戻すんだから!」


しかし現実は無情だった。


《光の盾》は砕け散り、

グレンダの斧には無数のひびが走り、

アヤの脚は血に染まっていた。


「グウウウオオオッ!!」


怒号と共に、再び衝撃。


三人はまとめて吹き飛ばされ、荒野に転がる。


立ち上がろうとしても、体は言うことをきかない。


「……くそっ……これじゃ……

ユージを止められねぇ……」


「まだだ……まだ終わっちゃいねぇぞ……!」


「ユージ……お願い……戻ってきて……!」


三人の声は、暴走する咆哮に飲み込まれた。


それでも――


血にまみれ、満身創痍のまま、

三人は立ち向かう。


「うおおおおおッ!!」


ライトとグレンダが同時に飛びかかり、

巨体の足にしがみついて動きを止めようとする。


「頼む! 止まってくれ、ユージ!!」


「そんな力に負けんなぁ!!」


だが――


「グガアアアアアアアッ!!」


足元から黒い影が爆発するように広がり、

二人の体を絡め取る。


宙へと吊り上げられ――

叩き伏せるように、

大地へと容赦なく叩き落とされた。


「ぐはっ!」


――三人の力では、もはや止めきれない。


このままでは、

ユージは完全な魔導生物として暴走し続け、

辺り一体を破壊し尽くすだろう。


「……ちくしょう、どうにもならねぇ……」


血に濡れたまま、ライトは荒く息を吐いた。


「……くそっ!何とかならねぇのかよ……!」


グレンダも同じだった。

斧を握る力すら残っていない拳で、無力さを叩きつける。


その二人を横目に――

アヤが、ふらつきながらも立ち上がった。


涙で濡れた頬。

だが、その瞳には、揺るがぬ決意が宿っていた。


「……グレンダ、ライト。私がやる」


止める間もなく、アヤは地を蹴った。

忍びの身軽さで、魔導生物の背へと跳び乗る。


「ユージ……

あなたには、これ以上誰かを傷つけさせない。

私が……終わりにしてあげるから……」


「な、何をする気だアヤ!!」


動けないグレンダが、血に濡れた拳で地面を叩く。


アヤは腰の忍具を次々と掴み取った。

手裏剣、まきびし、クナイ――

震える指で、それらすべてに素早く印を刻んでいく。


「私の持ってる忍具、全部に――

異常効果《爆》を重ねる」


「……やめろ! そんなことしたら……!」


必死に叫ぶライトを、アヤは一度だけ振り返った。


その瞳は、恐怖ではなく――覚悟に染まっていた。


「これは……ただの爆発じゃない……」


静かに、噛みしめるように言う。


「私自身を媒介にして、忍具の“全弾”を一点で連鎖起爆させる――自爆術よ」


そして、言葉を置くように続けた。


「この辺り一帯を……

ユージごと、吹き飛ばすの」


一瞬の沈黙。


「もう……私には、それしかできないから……」


一瞬、言葉を区切り――

微かに微笑む。


「グワァワアアァ!」

暴れる魔導生物。

 

「大丈夫……ユージが寂しくないように……

私も、一緒に逝ってあげるから!」


その声音は震えていた。

だが、迷いはなかった。


アヤは残る力で必死にしがみつく。


「これ以上ユージを……

こんな姿のままにさせておけない……!」


「グガアアアアウ!!」


影が蠢き、影の手が背中のアヤを引き剥がそうとする。


「絶対に離れないんだから……!」


振り落とされそうになりながらも、アヤは必死にしがみついた。


「ユージ、寂しくないよ。大丈夫……

私が最後まで一緒にいてあげるから!!」


「おい!やめろ……アヤ……っ!」


地に伏したままのグレンダの瞳から、涙が零れ落ちる。


「こんな……こんな結末があってたまるかよ……くそっ!!」


ライトは歯を食いしばり、無理やり体を起こそうとする。

だが、膝は震え、再び崩れ落ちた。


「くそ!くそ!!こんなのって……」

 

魔導生物となったユージは止まらない。


暴走のまま、なお前へ、前へと進み続ける。


「そう……ユージ……」


アヤは耳元で、囁くように告げた。


「このままだと、みんなを巻き込んじゃう……

だから……最後は、二人きりになれる場所に行きましょ……」


「グワァグワワアワッ!」


次の瞬間。


振り上げられた影が、容赦なく振り下ろされる。


――ドガァッ!!


「ゔゔっ……!」


背に乗るアヤを振り落とそうと影が蠢く。


それでも――

彼女は、ユージを抱きしめる腕を離さなかった。


「……ユージも……たくさん痛かったんだよね……

怖かったよね……ごめんね。何もしてあげられなくて。

でも……もう、楽になれるから……」


血に濡れた唇で、弱々しく微笑む。


「……待て……待ってくれ……!」


ライトの声は掠れながら、必死で手を伸ばす。


「行くな……ユージィ……!」


――その瞬間。


荒野を裂くように、金色の光が閃いた。


大気を切り裂き、

黄金の龍人が空を駆け抜ける。


圧倒的な存在感を放ちながら、

それはライトの頭上を越え、戦場へと舞い降りようとしていた。


「……龍鈴!どうしてここに……?」


ライトの掠れた声に応えるように、黄金の龍人は静かに地へ降り立った。

その姿から放たれる圧は、暴走する魔導生物の咆哮すら押し黙らせるほどだった。


「……このような事態になっていたのですね。

駆けつけて正解だったようです」


淡々とした声音。

だがその一言一言には、場を制する確かな重みがあった。


「あの時の……龍型か……!」


グレンダが地面に突っ伏したまま、顔を上げた。


一方――

ユージの背に縋りついていたアヤは、涙で濡れた顔のまま叫んだ。


「な、何よ……!!

この状況でやり返しに来たっていうの!?

あのことは謝るから……もう許してよ……

お願い! ユージは……もう……」


必死にしがみつくその姿を、翠色の瞳が静かに見つめる。


そして、龍鈴はライトへと視線を向けた。


「ライト。

私に任せていただけるよう、伝えてもらえませんか?」


「……龍鈴、何を言って……」


困惑するライトの言葉を遮るように、彼女は一歩踏み出す。


「後で必ず説明します。

ですが――急がなければ、本当に手遅れになってしまいます!」


必死さを滲ませたその声音に、ライトは息を呑んだ。

一瞬の戸惑い。だが――


「……わかった。龍鈴を信じる!」


その言葉に、龍鈴は小さく頷いた。


ライトは残る力を振り絞り、声を張り上げる。


「アヤ!

龍鈴が……ユージのこと、任せてほしいって言ってるんだ。任せてくれないか?」


「……っ!」


アヤの体が強張る。


「どうせこの間の仕返しをするつもりなんでしょう!?

絶対にさせない……!

……ユージはせめて私の手で……!」


なおも警戒を解かないアヤに、ライトは震える声で訴えた。


「頼む、アヤ……! 信じてくれ……!

龍鈴なら……どうにか出来るかもしれないんだ!!」


その言葉に、アヤは息を詰まらせた。


涙に濡れた瞳が、黄金の龍人を射抜く。

だが――


翠色の瞳には、一切の迷いも敵意もなかった。

そこにあったのは、ただ真剣な決意だけ。


その揺るぎなさが、アヤの胸を強く打つ。


震える腕でユージを抱きしめたまま、唇を噛みしめる。

そして――


「……わかったわ……ユージを……お願い……」


その言葉だけを残し、

アヤは、ゆっくりと腕を解いた。


縋る力を失った身体が、

倒れるように、背から地へ滑り落ちた。

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