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第六十六話 重なり合う光

ライトは、エルディオの圧倒的な力に押し潰されようとしていた。

《光の剣》が揺らぎ、膝が砕ける寸前――


ふいに、その背に優しい温もりが触れた。

柔らかな翠色の輝きが、消えかけた光にそっと寄り添う。


「……りゅ、龍鈴……なのか?」


視界は霞んでいるが、ライトにはすぐにわかった。

この優しく暖かな光をライトはずっと見てきたからだ。


「ひとりで全部背負わないで! 私もいるから……!」


その言葉と同時に龍鈴の光が、消えかけていたライトの光を補うように混ざり、ひとつになっていく。


「攫われたあの時……私はただ、ライトの背に守られていました。でも今は違います。

同じ背にいても、今度は私が後ろからライトを支えます」


その言葉とともに、龍鈴の翠色の光が溢れ、

優しく、しかし確かな力でライトの身体を包み込んでいった。

 

「魔族が……龍型がライト君を支えている……。

この龍型の優しい光……これが、私の知っている魔族なのか……?」

エルディオの剣先から、ほんの一瞬だけ力が抜けた。


「――今だぁぁぁ!!!!!」


光と光が共鳴し合う。

押し潰されかけていたライトの剣が、逆に閃光を弾けさせた。


ドガァァァァンッ!!


爆ぜる光に、エルディオは大剣ごと弾き飛ばされる。

土煙の中で膝をつきながらも、エルディオは鋭い眼差しを二人に向けていた。


「……くっ……」


視線の先――

支え合い、肩を並べて立つ人間のライトと魔族の龍鈴。


血に汚れ、傷だらけの体。

だが互いに支え合い、寄り添い、光を重ねて立つその姿は――誰よりも強く、美しく見えた。


「……これが……人と魔族の姿だというのか。

二人から放たれる……この暖かな光……」


握る拳が震えた。

そこにあるものが、憎しみではなく“希望”だと気づいてしまったから。

人々を守り、支えたい。困っている人を助けたい。その想いで握っていた剣は、いつのまにか魔族への憎しみに縛られていたことに――気づいてしまった。


「寄り添い、支え合う……か。

人間と魔族といえど、平和を願う心は同じだというのか……」


龍鈴はまっすぐ一歩前へ進み、声を張った。

「人間も魔族も、同じ命です。

仲間を想い、家族を愛し、平和を望む心は――皆、同じなのです」


それをライトがエルディオへ伝える。


「龍鈴が……

『人間も魔族も……同じ命……仲間を思い、家族を愛し、平和を望む心は同じ』そう言っている……」


エルディオはしばらく二人を見つめ――

やがて、深く息を吐き出し、大剣を静かに地へ突き立てた。


「……なるほど。その龍型の瞳がそう語っている。

私にもそれくらいはわかる。

本当に魔族の言葉が分かるのだな……ライト君」


静寂。


そして――


「そうか……君たちの未来に、私も賭けてみたくなった」


その瞳に宿ったのは戦意ではない。

揺るぎない決意と、新たな信念だった。


エルディオは戦場の中央で、大剣を地に突き立てた。

「……兵を退かせる。

これ以上血を流せば、憎しみが積み重なるだけだ!」


エルディオの声が戦場を貫いた。

ざわ……と兵士たちの剣先が揺れ、怒号が一瞬だけ弱まる。


「エルディオ!! 何を言っているのですか!

奴らは仲間を多く殺した! ここで仕留めねば、また同じことが起きる!」

指揮官が反発するように叫んだ。


エルディオはその視線を正面から受け止める。

「その無理して仕留めに行った一撃は、次の“復讐″を生むだけだ。

それは、お前たちが守りたいと願う民や自分たちの仲間、家族に返ってくるものだ。

……本当に、お前たちの求める平和はそこにあるのか?」


その言葉に、兵たちの胸が軋む。


「この戦いで仲間が死んだんだ……!黙って退けるものか!許せるもんか!」


「私も今まで沢山、戦ってきた。仲間を失う悲しみも、怒りもよく知っている。

だが――今ここで流れる血は、次の戦いの火種になるだけだ。止めるべきは今だ。人を守ることが戦士の役目だろう……!魔族を蹴散らすことじゃない……」

被せるように声をあげるエルディオ。

 

そして、エルディオはベラニカ兵たちへと、静かな圧を放った。

「ましてや――戦士が深追いの末に無駄死にするなど、決してあってはならん。

街には、怪我をして動けぬ者がいる。

恐怖に震え、助けを待っている者もいるはずだ。

お前たちが今するべきことは、逃げる魔族を追うことか?」

 

沈黙が落ちる。

炎の爆ぜる音だけが耳に刺さる。


やがて――指揮官が大きく息を吐き、ゆっくりと剣を下ろした。


「……エルディオがそう言うなら……」


指揮官が兵へと向き直る。

「全軍、退け!!

魔族たちは撤退した!我々の勝利だ!」


ジャキン――

次々と剣を納める音が連鎖し、荒れ狂っていた戦場は嘘のように静まっていく。

疲弊した兵士たちもその言葉に肩を撫で下ろす。

ライトは胸の奥で熱く込み上げるものを抑えきれず、息を震わせながら言った。


「……エルディオ。本当に……ありがとう……」


エルディオはふっと柔らかく笑う。

「はっはっは! 君たちの描く未来……私も信じてみたくなったよ。ここから先は私がしんがりを務める。

――またきっとどこかで会おう、ライト君」


その背に、光が差し込む。

炎と血に染まった地に、ようやく静寂と安堵が戻り始めていた。


「……退いてくれたのですか?」

龍鈴がライトを覗き込む。

「――ああ」

意識を保つのがやっとでふらつくライト。


「ありがとう、ライト……。

では、私たちも、過激派と白虎軍を見守りましょう」

龍鈴はライトを支えながら撤退する魔族たちを見守る。

 

魔族たちは、傷ついた仲間の肩を支えながら次々と暗闇へと後退していく。


「……今回は退くが、お前らは敵だ」


「くそ……龍族め……!」


怒りと悔しさを沈めきれない声だけが、炎の揺らぎと共に戦場に残された。

白虎が遺した復讐の炎は、まだどこかで燻り続けている。


「白虎亡き今……西の魔族たちがどうなるのか、心配です」


「……あとはドサイと西の連中に託すしかねぇな」


「ええ。でも……西の魔族も本当は同じはずなんです。

仲間を想い、安心して生きたいだけ。誰かを傷つけたいわけじゃない」


燃え立つ炎の匂いの中で、静かな風がふっと通り抜けた。

喧騒が消えた戦場には、奇妙な静けさが訪れていた。


「……終わったんだな」


ライトは龍鈴にもたれかかりながら、遠ざかっていく魔族たちの背中を見つめる。


「……わかっていたことですが、やはり悲しいものですね。ただ平穏に暮らしたい――その想いが、これほどの犠牲を生むなんて」


戦場に残された惨状に言葉を失い、ライトはしばらく沈黙した。

だがやがて拳を固く握りしめ、ゆっくりと顔を上げる。


「だからこそ……もう繰り返させねぇ。

人間も、魔族も――どっちもだ」


その言葉に、龍鈴は深く頷き、そっとライトへと寄り添った。

炎の残光に照らされながら、二人は同じ未来を見つめていた。

そして、灰と血の匂いを背に帰路についた。



ーー人魔革命団の拠点。


戦場から戻った二人を迎えたのは、包帯で体を覆ったリュウガだった。


リュウガは息を吐きつつ口を開く。

「……戻ったか」


ライトが駆け寄り、眉をひそめる。

「リュウガ、大丈夫なのか?」


「ふん、俺はこれくらいでくたばらん……」

強がりの声を返しながらも、額に浮かぶ汗は隠せない。


すると奥から、包帯を巻いた大きな影が歩み出た。

ドサイが深い声で呼びかける。


「おお、お前たち無事だったか。大変だったようだな」


龍鈴が安堵の笑みを浮かべる。

「ドサイ将軍……ご無事でよかったです」


ドサイは少しうつむき、低い声を震わせる。

「……白虎様に託されたんだ。倒れるわけにはいかん」


龍鈴がさらに問いかける。

「その後の西はどうでしょうか?」


ドサイは渋い表情を浮かべ、重く答える。

「良いとは言えんな。白虎様を失った西は混乱している。それに……」


一瞬だけ間を置き、苦い息を吐いた。


「ニャルカとジャスミナが、過激派と白虎軍の残党を連れて姿を消した」


ライトは思わず小声でつぶやく。

「……あいつらが」


場の空気が一段と重くなる。


「だがすぐ動きはせんだろう。向こうもボロボロだ。

一応、西の魔族たちにも様子を探らせている」


龍鈴は神妙な面持ちで問い返す。

「今後はドサイ将軍が……西魔王を継がれるのですか?」


ドサイは首を振り、静かに答えた。

「いや、俺にはまだその器はない。

それに誰も認めんだろう。だが今は……誰かがまとめねばならん」


ライトが少し笑いながら励ます。

「へへっ、ドサイがいるなら西も安泰だな」


「……そう思ってもらえるよう善処しよう」


その言葉に、リュウガが鼻で笑って割り込む。

「西の魔族で、唯一信用できるのはお前くらいだ」


龍鈴がぱっと笑顔を見せる。

「リュウガが他の種族の方を認めるなんて……凄いことですよ!ドサイ将軍!」


照れくさそうに肩を揺らすドサイ。

「そ、そういうものなのか? 妙にこそばゆいな」

龍鈴に向き直るドサイ。

「……人魔革命団には世話になった。だが悪いが、俺は西へ戻る。白虎様を失った西を……今度は俺が支えなければ」


「……そうですか。寂しくなりますね」


「ふはは!寂しがる暇もなく、すぐ忙しくなるさ。お前たちは、お前たちの道を進め」


ライトが拳を突き出し、静かに笑う。

「西は頼んだぞ、ドサイ」


ドサイは力強く拳をぶつけ返した。

「任せておけ!」


その横でリュウガがそっぽを向いたまま、ぼそりと呟く。

「……西の魔族には、お前しかいない。しくじるなよ」


ドサイの瞳に、わずかな感動が揺れた。

「お前に言われると、背筋が伸びるな」


龍鈴は小さく頭を下げ、優しく微笑む。

「また会いましょう。人と魔族の未来のために」


「おう!その時は胸を張って会えるようにしておくさ!」

巨体がゆっくりと背を向け、拠点を後にする。

その背中には確かな覚悟が宿っていた。


龍鈴が軽く息をつきながら笑顔を向ける。

「これで……争いが落ち着くといいですね」


ライトはその横顔を見つつ、遠ざかるドサイの影を目で追った。

「……そうだといいんだけどな」


彼の胸には、まだ整理しきれない“心残り”が渦巻いていた。

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