表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/87

第六十四話 ベラニカでの再会

人間領へ急ごうとした、その瞬間――

リュウガの膝ががくりと落ち、石畳に倒れ込んだ。


「リュウガ!」

ライトが駆け寄り、外れた仮面の下の素顔を覗き込む。


「……リュウガ。

そんな目を……してたんだな」


外れた仮面の下――人間のように丸い瞳が、震えていた。

「……っ!」


リュウガは思わず顔を背ける。

だが、ライトのまっすぐな視線は揺るがない。


「やっぱり……お前にも、

人間の血が流れてるんだろ?」


沈黙。

拳が震え、唇が強く噛まれる。


「……ああ。

これが……人間の血を引く証だ」


自嘲するように呟いたその胸を、ライトが軽く拳で叩いた。


「俺と同じだな」


ライトは少し照れくさそうに笑った。


「実は“聖剣の灯火”ってところで聞いてたんだ。

俺は……黒龍と人間の間に生まれた混血だってな」


リュウガの瞳が揺れる。


「そして――俺には兄貴がいたらしい」


「そうか……、認めたくなかった。同じ黒い龍の鱗を持つお前を……」


「最初に会った時から感じてた。

なんでか知らねぇが……感覚でリュウガをわかっちまう。

きっと――兄弟だったからだな」


リュウガは顔をそむけたまま、低く吐き捨てた。


「……今さら、兄なんて呼ぶなよ」


「へへっ。 相変わらずつれねえな!」


リュウガは静かに目を閉じ、深く息を吐いた。

その表情にはもう、迷いはなかった。


「……俺はもう動けん。行け、ライト。

人間と魔族の共存は父・黒龍の願いでもあった――過激派を止めろ」


「……ああ! 任せとけ!」


二人は力強く手を掴み合う。

短いが確かな“兄弟”としての熱が伝わる。


その横から、軽く咳払いが響いた。


「ふふ……兄弟の感動シーンは微笑ましいですが、時間がありません。ここまでにしてくださいね」


「うっせえ!……行くぞ!」


ライトと龍鈴は振り返らずに飛び立った。



二つの影が疾駆する。


「くそっ……急がねえと!

人間と魔族がぶつかったら……取り返しがつかねぇ!」


「はい。急ぎましょう!

過激派に白虎を討ったことを伝えれば、退いてくれるかもしれません……!」


胸を焦燥が突き上げる。


風を裂き、夜空を切り裂き、

二人はただ、迫りくる戦火を止めるために走った。


間に合え。

再び人間領の最北端にあるベラニカへと向かった。



やがて――視界いっぱいに広がったのは、赤々と燃え盛る街だった。


崩れ落ちた建物。夜空まで届く黒煙。

剣戟の響き、魔素が弾ける轟音、絶叫と怒号――

すべてが闇を切り裂き、地獄のような光景が広がっていた。


「ちくしょう……間に合わなかった……もう始まっちまってる!」

ライトの喉が震える。炎に照らされたその横顔には、焦りと怒りが入り混じっていた。


「まだです。始まってしまったのなら、被害を最小限に抑えます。人魔革命団の名に懸けて!」

龍鈴の瞳には決意の光が宿っている。

二人は互いに頷くと――燃え盛る戦場へと飛び込んだ。


夜空を焦がす炎の中、地鳴りのような咆哮が轟く。


「うおおおおおッ!!」

「人間どもを潰せぇぇ!!」


魔族過激派の叫び。

対する人間兵の鬨の声。


怒号がぶつかり火花が散り、爪や牙が兵士を裂き、槍が肉を貫き、魔法が轟音とともに大地を抉る。

血と煙が入り乱れ、戦場は阿鼻叫喚の渦と化していた。


「怯むな!魔族どもを追い払え!」


人間の指揮官が声を張り上げる。


その背後――炎に包まれた建物の影から、憎悪に瞳を染めた魔族たちが姿を現し、絶叫とともに突撃してくる。


その時――。


――バサァァッ!!!


夜空から、二つのまばゆい光が戦場に降り立った。


「やめろおおおおおッ!!」


《光の翼》をはためかせ、ライトが戦場の中心へ突撃する。


「もうこれ以上……血を流させはしません!」

龍鈴の澄んだ声が響いた瞬間――

戦場の喧騒が、一瞬だけ凍りついた。


「なんだ!あいつらは! 魔族の増援か!?」


人間側の指揮官が目を細める。


「ち、違います!あれ……あれは――

人間の言葉を喋る龍型……魔族を退けた者たち……人魔革命団です!」


「うおおお! 味方だ!!」

ベラニカ兵士たちに電撃のような歓声が走る。


「うおおおおおッ!!」

その士気が炎のように立ち上がり、人間軍が一斉に前線を押し返そうと動き出した――。


「違うんだ!待ってくれ!!」


ライトの叫びは、剣戟と爆音にかき消され、誰の耳にも届かない。


一方、魔族側でも怒号が飛んでいた。


「魔王の娘の龍鈴だ!邪魔をする気だぞ!」

「龍族め……また俺たちを縛るつもりか!俺たちには白虎様がついている!」


怨嗟の声が飛び交う中、

龍鈴は一歩前へ出て、両手を大きく広げ、戦場全体へ向けて声を張り上げた。


「西魔王・白虎はすでに敗れました!!

この戦いに意味はありません!すぐに撤退してください!!」


その声は、炎の中でもまっすぐ通った。


ざわ……。


魔族兵たちの間に、動揺が広がる。


「う、嘘だろ……白虎様が……?」

「まさか……敗れたってのか……?」


龍鈴は背にかけていた黒いマントを掴み、勢いよく広げて見せた。

揺らめく黒布――過激派“同士”の証。

そして威厳ある魔素を帯びたそれは、白虎のマント――討ち取った証だ。


「この黒きマントこそ、白虎を討ち取った証!

……私たちが討ち果たしました!」


どよめきが、魔族陣営を駆け抜けた。


「……そんな……白虎様が……」

「嘘だ……嘘だろ……!?」

「過激派が……俺たちが……信じてきた柱が……」


武器を握る手は震え、構えていた腕は力なく下がっていく。


血に飢えたように暴れていた魔族たちの瞳から、

戦意がすうっと消えていった。


「白虎様が倒れたのなら……俺たちには後ろ盾がない。もう戦っても意味が……」

「撤退だ……西魔王白虎様がいなければ、この侵攻は成り立たない……!」


ざわめきはやがて波紋のように広がり、

魔族の陣形は音を立てて崩れ始めた。


撤退を始める者も現れ、戦場が揺らぐ。


「……よし!龍鈴の声が届いたぞ!」


ライトが安堵の息を漏らす。


「まだです……!人間側にも、止めるように伝えなければ!」


龍鈴が言ったその瞬間――


崩れかけた魔族陣を見た人間兵たちが、一斉に叫びながら前進を始めた。


「今だ!押し返せ!!」

「魔族が乱れたぞ、総攻撃だ!!」


人間側は“魔族が敗走を始めたから攻める好機”だと誤解し、怒涛の勢いで突撃を開始してしまった。


炎と怒号の中――

事態は、さらに最悪への加速を始めていた。


指揮官の怒号が、炎と血煙の中に響き渡る。

「陣形が崩れた! 今だ、一気に押し込め!!」


「うおおおおおッ!!魔族どもを殲滅するぞ!!」

人間兵たちが一斉に押し返し、波のように前へ詰め寄った。

押し返されていた魔族たちは、瞬く間に劣勢へ追い込まれる。


「もう……意味がない……降参だ……!!」

「ぐああああっ!!やめろぉぉ!!」


過激派たちの一部は声を上げるが、人間には届かない。

怒りに燃えるベラニカ兵士たちは容赦なく踏み込んだ。


戦場は蹂躙され、血と泥が足元を赤黒く染めていく。


ライトは歯を食いしばり、前へ飛び出した。

「やめてくれ!!」


炎の中、指揮官の前に立ちふさがる。

「もう終わったんだ!魔族たちも撤退を始めてる!

これ以上の殺し合いなんて……するな!!」


だが指揮官は冷たい目でライトを睨み返し、怒りに震える拳を握り締めた。

「邪魔をするな……! 人魔革命団よ……

今回どれだけの仲間があいつらに殺されたと思っている!?どれだけの被害が出たと思っている?

降伏? 撤退? そう言って前回見逃したから、こんなことになったんだろ!!」


すぐ背後からは、人間兵たちの復讐に染まった叫び声が重なる。

「くたばれ魔族ども!!」

「街を焼いた報いだ!!家族を返せ!!」

怒号は止む気配もなく、むしろ勢いを増していく。


ライトは喉を焼くような焦りを抱えながら叫んだ。

「違う!!もう白虎は倒れたんだ!

もう戦う理由なんて、どこにもない!

頼む……止めてくれ……!!」

しかし、叫びは憎悪の波に飲まれて消えた。


「白虎?いったい何のことだ!

邪魔をするなら貴様も敵とみなす!」

指揮官のその殺意に呑まれた目に言葉がでない。

 

前方では、追い詰められた魔族たちが抵抗し、

人間兵がまた倒れ、被害はさらに広がっていく。


龍鈴もまた、懸命に声を張り上げた。

「お願いします……!

どうか、これ以上――無意味な血を流さないでください!!」


けれど、その必死の訴えも人間には届かない。

怒りと恐怖に支配されたベラニカ兵は止まらない。


槍を構えた兵士の一団が叫ぶ。

「突撃準備ッ!!」


「押し込めぇぇぇ!!」

戦場は再び、理性を失った殺戮の渦へと傾き始めていた――。


「龍鈴の声は……人間には届かねぇ!

――なら俺が止めるしかねえ!!」


ドンッ!!

「《光の盾》ッ!」

瞬く間に人間と魔族の間に入る。

眩い閃光が弾け、ライトが全力で《光の盾》を展開した。

巨大な光壁が戦場に割り込み、振り下ろされた剣や槍をまとめて弾き飛ばす。


「なっ……!?」

「なんだ、この光は……!」


火花が散り、両軍の動きが一瞬だけ凍りつく。


光越しに、倒れていた過激派の魔族が呆然とつぶやいた。

「お、お前……」

ライトは振り返らず、怒鳴りつける。


「バカ野郎!早く逃げろ!

ここで死んでも意味ねぇだろ!!」


「……あ、ああ……!わかった……!」

その声に押され、何人かの魔族が後退し始める。


だが、すぐに人間側の怒号がそれをかき消した。


「邪魔だぁッ!その盾ごと叩き割れ!!」

「前へ進めぇ!!魔族を逃がすな!!」


憎悪に支配された波が再び押し寄せ、

《光の盾》に無数の衝撃が叩きつけられる。


ライトの奥歯が軋んだ。


(くそッ……!耐えられねえ……!)


砕けるような重圧が腕を痺れさせる中、

ライトは叫んだ。


「……もう退いてくれッ!!

魔族を追っても、被害が増えるだけだ!!

ここで倒した分だけ、今度は“憎しみ”が返ってくるんだぞ!!」


痛みと怒りと悲しみを込めた声が、

血と炎に染まる戦場に突き刺さる。


しかし――憎悪は簡単には消えない。


周囲の兵士たちの表情にはまだ、

殺意の熱が渦巻いていた。


そんな中、龍鈴が静かに前へ歩み出る。


淡く輝く光の粒子が彼女の周囲に舞い、

いくつものバリアが花開くように展開された。


逃げ遅れた魔族たちの前へ立ち、

龍鈴はその全てを守り包む。


「私も……できる限りのことをします」

振り返ることなく、まっすぐ前を見据える。


「ライト……あなたはもっと声を届けて……!

この戦いを止められるのは、ライトだけです!」


「……わかった」

必死に声を張り上げようとした――その瞬間。


――ズゥン……!


大地が低くうなり、戦場全体が震えた。

炎の向こうから、圧倒的な気配をまとった“ひとりの男”がゆっくりと歩み出る。


「……なっ……?」

ライトは思わず息を呑む。


人間兵たちの反応は、全く逆だった。

驚愕から歓喜へと、瞬く間に色を変える。


「来てくれた……!」

「伝説の冒険者が……!」

「これで勝てるぞ!」


歓声が一斉に上がり、荒れ狂っていた戦場がざわりと揺れる。押し込まれていた兵たちの士気が、一気に跳ね上がった。


「……この威圧感。そして、この士気の跳ね上がり……」

ライトの声が震える。


「――間違いねぇ」

炎の向こうに立つ“英雄”の姿が、懐かしい記憶と共に

その人物であると、疑いようもなく“決定づけた”。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ