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第六十三話 決着の時

直撃の瞬間――

リュウガの全身を、黒い“闇のオーラ”が包み込んだ。


――ボワアアアアアッ!!


「な、なんだ……この黒いモヤは!?」


白虎の雷撃は闇に触れた瞬間、まるで霧を貫いたように手応えを失った。

直撃しているはずなのに――感触がない。


「……なに?」


白虎の黄金の瞳がわずかに揺れた、その刹那。

闇の霧からリュウガの姿が現れ、白虎の懐へ飛び込んだ。

 

「消えた……!? なんだその技は?」


血に濡れた顔を上げ、リュウガは吼える。

「貴様だけは――絶対に許さん!!

この命に換えてもッ!!」


二刀の闇剣が唸りを上げ、怒涛の連撃が白虎へ叩き込まれた。

「ぐ、ぐわ……! 先ほどまで死にかけていたはずだ!

どうしてまだ動ける!?」


リュウガは揺らぎのない瞳で闇剣を振り抜きながら答える。

「俺は――青龍様と、そして父・黒龍の意志を背負っている」


その言葉と同時に、白虎の視界には青龍と黒龍の影が、リュウガの背後に重なるように揺らめいて見えた。

「なっ……幻覚か? まやかしか……!」


白虎が一瞬怯んだ隙を逃さず、リュウガは絶え間なく闇剣を叩き込む。

「青龍様の仇ッ……そして――父の仇だ!!」


咆哮と共に双剣が黒雷を纏い、斬撃が嵐のように襲いかかる。

しかし白虎もまた、拳に雷光を纏わせて迎え撃つ。


「……わかったぞ。これが“人間”の《スキル》の力……。

際限なく進化し、尽きることのない強さ――

あの黄龍でさえ恐れた、“無限”の力よ……!」


ドゴォォンッ!!


白虎は雷光を噴き上げながら吼える。


「だからこそ……その力を叩き伏せ、踏み砕いてこそ――

私は、黄龍を完全に否定できるのだ!」


リュウガの闇剣と白虎の雷拳が激突し、

闇と雷光が爆ぜて広間そのものが軋んだ。


その刹那――


ビキッ……!


白虎の脇腹を覆っていた布が裂け、

赤黒く裂けた傷が露わになる。


「……くっ……! クソッ。

やはり完治していなかったか……。

おのれ……青龍め……余計な置き土産を!」

奔る痛みに雷光がぶれ、白虎の表情が苦悶に歪んだ。


リュウガはその様子を見逃さず、鋭い視線を向けた。


「……その傷。青龍様が――刻んだものだな」


「ええい! 青龍など関係ないわ! 黙れぇぇ!!」


白虎が雷を纏った拳を叩きつける。


「うおおおおおッ!!」


リュウガは白虎のわずかな動きの乱れ――古傷をかばう仕草を見逃さなかった。

二刀を前に突き出し、全身を軸に黒い竜巻のように高速回転した。

闇が唸りを上げて渦を巻き、

その異様な圧に――白虎でさえ思わず顔を引き攣らせた。


「これでどうだ!!

――闇牙双天斬アビス・デュアルブレイド!!」


深淵の双閃が一直線に白虎へ迫る。


白虎も吼え返した。

「傷があろうと、出来損ないなどに負けるか!

――獣人八卦・雷掌ッ!!」


轟雷を纏った掌が獣の咆哮とともに突き出される。


ズガァァァァァン!!


闇と雷。

刃と拳。

二つの必殺が正面からぶつかり合う。


「負けるものかぁぁぁぁ!!」


「混血ごときがァァァ!!」


閃光が広間を裂き、轟音が天頂の塔を揺らす。

石壁が砕け、瓦礫が降り注いだ。


そして――。


ズシンッ……!


爆ぜる衝撃に弾かれ、両者は反対方向へ吹き飛び、石壁へ叩きつけられた。


「……がはっ……ッ……!」


リュウガは黒い血を吐きながらも、片膝をついたまま立ち上がる。

握りしめた闇の双剣はまだ形を保っていたが、刃は震え、今にも霧散しそうだった。


一方の白虎も壁にめり込み、荒い呼吸を繰り返している。


「はぁ……はぁ……混血の分際で……ここまでやるとは……!」


互いに満身創痍。

それでも、その瞳だけは――決して戦意を失っていなかった。


白虎の金の瞳がぎらりと光り、全身から血と雷が噴き上がる。

胸元には深く刻まれた双剣の痕が赤黒く残り、その呼吸は荒い。


二人の間を、鋭い沈黙が切り裂く。


リュウガは血を拭うこともせず、震える足で立ち上がった。

「……俺は……混血だろうが、出来損ないだろうが……

それでも――貴様だけは、絶対に倒す……ゴホッ」

体は痺れ、吐血も止まらない。

それでも気持ちだけは折れていなかった。


白虎は鼻で笑い、ゆっくりと姿勢を起こす。


「……ほざけ……。

流石に限界ではないか? 俺にはそう見えるぞ」


互いの体はすでに限界を越えている。


それでも――戦う意思だけは、微塵も揺らいでいなかった。


そこへ、光と風を切って駆け込んでくる影が二つ。


「リュウガ! その顔……どうしたんだよ!?」


「リュウガ、大丈夫ですか?

こちらは……何とか片付きました」


広間の端には、力尽きて倒れ伏したニャルカとジャスミナ。

その前に立つライトと龍鈴は、自然とリュウガを庇う形で白虎と対峙した。


白虎は二人を見据え、忌々しげに舌打ちする。


「……役立たずめが」


その低い声は、広間に冷気のような震えを走らせた。


龍鈴が一歩前へ進み、胸に宿る光核を淡く輝かせる。


「ここからは――私たち三人が相手になります。

いかに西魔王といえど、その怪我では勝ち目はありません。今すぐ兵を退き、侵攻をやめなさい!」


白虎は呻くように怒気を吐き出した。


「何を言うか……!!

お前ら如きに――命令される筋合いはないわ!!」


次の瞬間――白虎の肉体が脈動した。


ブチッ……ブチッ……!!


筋肉が膨張し、骨が軋む。

背中からは白い毛並みが逆立つように一気に生え広がり、輪郭そのものが異様に膨れ上がっていく。


「……獣人化を“解いて”いる……のか……!?」

リュウガは闇剣を杖のように地へ突き立て、必死に視線を前へ向けた。


雷鳴が轟き、蒼白い火光が変貌の途中の巨影を照らし出す。


現れた姿は――

塔の空間をほとんど埋め尽くすほどの、巨大な“白き虎”。


黄金に輝く双眸は獲物を狩る獣そのもので、

わずかに振るった牙の風圧だけで石床が砕け散った。


「本来、“獣人化”など魔素節約のための省エネ形態に過ぎん……!」


咆哮が大地を割り、天井の魔石を震わせる。


「――ここからが本番だぞォォォ!!!」


吹き荒れる雷光。むせ返るほどの殺気。

三人を射抜くのは、理性を完全に断ち切った狂獣の眼光だった。


「来いッ!! 三匹の虫けらども!!」


白虎が踏み込むたび、塔そのものが軋み、悲鳴を上げた。


「上等だ……! 俺が貫く!!」


リュウガは闇の二刀を構え、血を撒き散らしながら雷光の渦中へ飛び込む。

巨爪が振り下ろされ、二刀と激突。轟音と共に凄まじい火花が散った。


「すげぇ怪我じゃねえか! 無茶すんなよ、リュウガ!

――《光の盾》!!」


ライトが光盾を展開し、リュウガを庇うように白虎の進撃を真正面から受け止めた。


――グゴゥッ!!


床石が爆ぜ、閃光が視界を焼く。


「なんてパワーだ……ッ! リュウガ、いけるか!?」


「……任せろッ!!」


闇の二刀が雷鳴を断ち割り、白虎の肩口へ深く食い込んだ。


「ぐうおおおぉぉぉ!!! ええい、鬱陶しいッ!!」


暴れ狂う巨体が薙ぎ払い、リュウガの身体を弾き飛ばす。


「ぐはっ……!」


床を転がりながらも、リュウガは必死に膝をつき――それでも立ち上がった。


白虎の黄金の双眸がぎらつき、憎悪に染まった視線が龍鈴へ突き刺さる。


「……忌まわしき黄龍の娘……! お前だけはァァァ!!!!!」

雷をまとった巨体が爆ぜるように跳びかかる。


「龍鈴ッ!!」

ライトが龍鈴に手を伸ばす。

 

しかし、龍鈴は冷静に両手を広げ、幾重にも翠色のバリアを展開した。


「そんな小細工、意味などないわッ!!」

白虎の巨拳が次々とバリアを粉砕し、最後の膜が砕け散る。

拳が目前へ迫る――。


だが、その一撃は届かなかった。


龍鈴の足元から奔る光が、白虎の体を受け止めていた。


「……先ほど、魔昌核を二つ吸収しました。

その分の魔素で――今の私は、一時的にあなたの魔素量を上回っています」


「な……ッ!? なにいぃ!!」


龍鈴の瞳が強い光を宿す。

「ライト! このまま――押さえ込みます!」


龍鈴の光が奔流となってほとばしり、白虎の巨体を絡め取るように拘束した。


「おうッ!」


ライトも巨盾を押し込むように展開し、龍鈴の障壁と重なり合って白虎の動きを完全に封じる。


「ぐぬぬぅ……ッ! 動けん……!!

おのれ……黄龍……どこまでも邪魔をするか!!」


「……そのまま抑えていろ!!」


リュウガはライトを飛び越え、全身を濃い闇へと包み込んだ。

その闇は二振りの剣へ収束し、凄まじい圧を放つ。


「――闇牙双天斬ッ!!(アビス・デュアルブレイド)!!」


黒き双剣が十字の軌跡を描き、深淵の閃光となって白虎の胸を深々と切り裂いた。


「ぐわあああああああああああッ!!!!」


雷鳴のような絶叫が塔を揺るがし、白き巨躯が崩れ落ちるように大地へ沈んだ。


「……やったのか……」

ライトが息を呑む。


だが、倒れ伏した白虎の眼はまだ燃えていた。

血泡を吐きながらも、なお三人を睨み据える。


「……俺が何をしようとも……結局は龍族に阻まれる……か」


「白虎……」

リュウガはその場で膝をついた。

 

龍鈴が白虎に駆け寄ろうと一歩踏み出す。

「まだ助かります! 傷の手当てをすれば――」


白虎の怒声がそれを叩き斬った。

「黙れッ!!!龍族に……命を救われるくらいなら……潔く逝く!!近寄るな…………ッ!!」


床石に血を滴らせながら、白虎の牙が最後の誇りを見せるように剥き出しになった。


龍鈴は震える拳を胸に当て、真っ直ぐ白虎を見た。


「……どうしてそこまで、龍族を……そして、人間との共存を拒むのですか?」


白虎は血を吐きながら、憎悪を燃やした黄金の瞳で睨み返す。

「人間は……身勝手だ! そしてお前ら龍族も同じだ!!

弱き魔族を見捨て……己だけが高みに立つ!!」


咆哮のような声が広間を震わせた。

「西の魔族は種族が多い……人間に食料として狩られる魔族……龍族が仕切る東より遥かに弱い種族が多く集まっている!」


拳に雷を纏わせ、白虎は苦痛に歪んだ顔をさらに歪める。

「その惨状を見たことがあるか!?

同族が裂かれ、肉を喰われ、家畜のように扱われる……

あの地獄を!!」


龍鈴は胸を押さえ、涙を堪えるように震えながら叫ぶ。

「だからこそ! 互いに理解し、歩み寄って……共存を目指すべきなのです!」


白虎は乾いた笑みを浮かべる。

「……フッ……やはりわかっていない。

お前ら龍族は、力を持ち過ぎている。

そして、人間やその他の魔族を“自分より弱い存在”と見下している。だから共存などとほざくのだ」


「そ、そんなことは……」


白虎の声は次第に掠れ、しかし怒りの熱だけは失われなかった。

「この西には……日々人間に怯え、喰われ、搾取されている魔族たちがいるんだ……!

共存という言葉がどれだけ恐怖になるか……」


龍鈴は息を呑み、かぶりを振る。

「それは互いを理解していないからで――っ!」


「いや、この世は力がすべてだ。

だから俺は力で人間を滅ぼそうとした……!

だが……こうして敗れた俺もまた弱者……結局は……強き者が正義というわけだろう……!」


その時――。


低く、しかし確かな声が広間に響いた。


「……白虎様。自分を“弱者”などと呼ばないでいただきたい」


ライトが目を見開く。

「……ドサイ! お前!生きてたのか!」


重い足音を響かせて現れたのは、全身傷だらけのドサイだった。


「塔から放り出された先は湖……俺を殺す気など、最初からなかったのでしょう」


白虎は大きく息を吐き、苦しげに笑う。

「……ふ、ふはは……。まだ立ち上がるとはな、ドサイ……」


「白虎様。俺は、あんたに生かされた……その意味を、無駄にはしない」


白虎の胸がひくりと震えた。


「……俺は……この世は力がすべてだと、そう信じてきた……。だが……こうなった今では……」


黄金の瞳が揺れ、倒れかけた体がドサイを見据える。


「お前のような、不器用で……仲間を想う獣族が……

西を導くのも……悪くないのかもな……」


「白虎様……!」


白虎の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。


「……ドサイ……お前はこうなった責任を取れ。

西の魔族たちを……導け……」


その言葉を最期に、白虎の巨体は雷の残滓を散らしながら静かに崩れ落ちた。


「そ……そんにゃ……白虎様ぁ……!」


「白虎様っ……!」


倒れていたニャルカとジャスミナがすぐに駆け寄り、必死にその身を支える。

しかし、返事はもうなかった。


涙に濡れた瞳で龍鈴を睨みつけるニャルカ。

「よくも……白虎様を……!

全部持ってるくせに……私には白虎様しかいにゃかったのに!それを奪うにゃんて……」


「ニャルカさん……」

 

ライトが一歩前に出て、低く呟く。

「……これで、戦いも終わったんだな」


だがジャスミナは首を横に振り、暗い声で告げた。


「……残念でしたね。白虎様がいなくなっても……もう過激派は止まりません。

塔の周りにいたのはほんの一部……本体はすでに、人間領へ向かっています……!」


龍鈴の顔から血の気が引く。


「……そんな……! では、私たちは何のために戦っていたのですか!」


リュウガが歯を食いしばる。

「……間に合わ……なかった……か」


ライトも拳を握りしめる。

「人間領が戦火に包まれれば、共存どころじゃなくなるぞ!」


龍鈴は一度だけ深く息を吸い込み――迷いなく叫んだ。


「すぐに出立します!過激派を追います。

――人間と魔族の戦争を、必ず止めましょう!!」

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