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第六話 討伐勝負

三人は沼地へ向かっていた。

「この依頼は金の匂いがする! 楽に稼げるのが一番だからな」

ユージがにやりと笑う。


「そんなにうまくいくのかなぁ……」

ノイスは不安そうに眉をひそめた。


「俺たちが虫型に負けると思うか? あの人狼型すら倒したんだぜ?」

ライトが胸を張る。


「それはそうだけどさ、とにかく臭いって書いてあったし、せっかくの新しい装備が臭くなっちゃうよ」


「臭いなんてそのうち取れるだろ?」

「金が入ればいくらでも買えるからな!」

ライトもユージもご機嫌だった。

 

「もう! 二人に任せるよ!」


そんな軽口を叩きながら、三人は目的地へ進んでいった。


――そして、沼地に近づくにつれ、鼻を突くような臭気が漂い始めた。


「ユージ……なんか臭いがきつくなってきたよ。僕、鼻が敏感なんだ。鼻、おかしくなっちゃうよ!」

「バカ言ってんな。ほら、これでも詰めとけ」

ユージが丸めた布をノイスの鼻に押し込む。

「うぅ……ひどい……」


「森を抜けた辺りから沼地になってるはずだ」

ユージの言葉どおり、森の先は一面のどす黒い湿地。

そこには、無数のハエ型の魔族――ベルゼバエが飛び回っていた。


「……あれがベルゼバエか。思ったより動きは遅そうだな」

「げげっ、あんなにいっぱい。気持ち悪い……ど、どうするユージ?」

「ふっ……お金が無防備に飛んでるぜ」

「お金のことになると、すぐそうなんだから! ライトもなんとか言ってよ!」


「なあなあ、一番多く倒したやつが勝ちってのはどうだ?」

「お!久しぶりにやるか! 勝った奴が報酬多めだ!」

「ちょっと、二人とも……!」


ノイスの制止も聞かず、二人は沼地のど真ん中へ突っ込んでいった。

 

「一体目、もらった!」

「ライト! 複眼は傷つけるなよ!」


しかし――その瞬間。


ブンッ、ブンブンブンッ!!


「なっ……こいつら、速い!」

ライトの剣をひらりと避け、逆に体当たりしてくるベルゼバエ。

「ぐはっ!」

「ライト! 平気か!?」


ユージはギリギリで攻撃を避けるが、飛び回るベルゼバエに攻撃が当たらない。

「くそっ、鬱陶しい!」


「ほら、言わんこっちゃないんだから!」ノイスが叫ぶ。

「体当たりも大した威力じゃねえが、こうも飛び回られると攻撃が当たらねえ!」


二人は必死に武器を振るうが、ベルゼバエたちは高速で飛び回り、攻撃をすり抜けていく。


「僕もやるしかない……《ファイヤーボール》!」

ノイスが援護しようとするが、炎弾は空を切った。


「うう、こんなすばしっこいのに当たるわけないよぉ!」


やがて群れは二人を完全に包囲し、姿が見えなくなる。


「えっ……二人とも!? 返事して!」

焦ったノイスが連発する。

「《ファイヤーボール!》《ファイヤーボール!!》」

しかし、火弾は空を切る。


(どうしよう……僕の魔法、全然当たらない……!)


その時――

群れの中から一筋の光が走った。


「《光の剣》!!」

眩い閃光とともに、ベルゼバエの群れを切り裂いてライトとユージが飛び出した。

二人とも、ボロボロの状態だった。


「ユージ! ライト! 大丈夫?」

「くっそ! 俺らの攻撃じゃ、この素早さ捉えきれない!」ユージはダガーを振るが素早く当たらない。

「何とかしてえけど、こうなるともうノイスの魔法しか頼れねえ。時間稼ぐからなんとかしてくれ!」


ベルゼバエの群れに押されながらも、二人は踏みとどまっていた。


「ふうぇ、そんなん急に言われても……僕の魔法、当たらないのに……どうすれば……」

その瞬間――ベルゼバエの一体が液体を飛ばしてきた。


「うわっ、あっつ!」

ユージの左腕が焼けただれる。

「そんな攻撃まであるのか! くそ、これじゃクロスボウが使えねえ!」

「なんて速さだ!」ライトも剣を振り回すが、防戦一方。


ノイスは震える指先を見つめた。


「僕が……なんとかしないと。でも……広範囲魔法なんて使ったことないし、使えたとしてもこの状況じゃ二人を巻き込んじゃう……どうすれば……」

ノイスは必死に考えるが、何も思いつかない。その間もライトとユージはベルゼバエに囲まれてジリジリと追い詰められている。

「ああ……やっぱり僕には無理だよぉ。今回も二人に言われて付いてきちゃったけど、僕は魔法が使えるってだけで鈍臭いし、ユージみたいに頭も良くないし、ライトみたいに度胸もない……二人にはいつも迷惑かけてるんだ。あはは、本当……僕はお荷物だよね……」

塞ぎ込むノイス。

「あれ?前にもそんな事を二人に話した気がする……」


――脳裏に、幼い日の記憶が蘇る。


【回想】


「ノイス! おいてくぞ!」

駆け出す幼いライトとユージ。


「まってよ、ぼくをおいてかないで! あっ……!」


「だいじょーぶか?」ライトが駆け寄る。

「うわあーん! ぼくはふたりみたいにできないよー!」

転んでノイスは泣いてしまう。


「なんだよ急に」ユージが首を傾げる。

「ぼく、あしもおそいし、たいりょくもないし、めもわるい……ほんと、おにもつだよ……」

そんなノイスを見て、二人は顔を見合わせて笑う。

「ふうぇ、ひどいよー。笑うなんて……」

 

「へへっ、ちげーよ。ノイスはあしもおそいし、たいりょくもおれらよりないかもしれねえ。けど、まけずぎらいで」

「……あきらめがわるい」ユージも笑った。


「なんだかんだノイスにはたすけられてるんだ、おれら」

「そうさ! こまったときはノイスをたよっちまう」


「ふうぇ? ぼくなんかいなくても……」

「ノイスがうしろにいるから、おれらはまえをはしれるんだ」

「なんかあったら、まかせるぞ!」


【現在】


ノイスはぎゅっと拳を握った。


「そうだ……僕を信じてくれてる二人のために、諦められない!」


(なんかヒントないかな? あの速ささえ、どうにかできれば……!)


その時、一体のベルゼバエが低空でよろめいているのを見た。

さっき放ったファイヤーボールが掠めた個体だ。

羽の一枚が、燃えて無くなっている。


(そうか……ベルゼバエは羽が、燃えやすいんだ!掠めただけでも羽が燃え尽きている)


「でもただファイヤーボールを撃っても避けられる……なら――」


ノイスは深呼吸をした。

頭の中で炎のイメージを描く。

(“範囲魔法”なんて使った事ない。でも、魔法はイメージ次第。あまり火力が高いと二人に怪我させちゃう。羽に着火出来さえすればいいんだ。避けられないほど量を細かくして……よし!)


「ライト! ユージ! もう少し耐えて! そして、僕が魔法を撃ったら、なるべく避けてね!」

「おう!」

「ようやく何か思いついたみたいだな!」


ノイスは両手を前に突き出した。

「魔法に、限界なんてない……だよね!」

新しい杖を握りしめて、頭にイメージを浮かべる。


地面に赤い魔法陣が浮かび上がる。

「僕は魔法が好きだ……特にファイヤーボールが好き。ファイヤーボールは誰でも想像しやすい球体だから、火の適正がある魔法使いが最初に覚える初級魔法だ。そして、ファイヤーボールは魔素の量、密度、打ち出す速さ、軌道の変化で沢山の応用が効く魔法でもあるんだ。初級で基本だけど、限界もない!」

そう。イメージは――“無数の炎が降り注ぐ光景”。


「いっくよー!二人共! ――《ファイヤーボール:レイン》!!」


ノイスの放った炎弾が空へ昇る。

「どこ撃ってんだ。ノイス!」

「いや……これは――!」ユージが息を呑む。

ライトとユージはそのファイヤーボールを見上げる。


放たれた火球が上空で弾け、無数の微小火弾に砕けて降り注ぐ。

シャワワワ――ッ、パチパチッ。

泥が蒸気を上げる。炎の雨はその場を覆い、逃げ場を塞ぐ。

「お、おい! これは……」「あ、あちちち!」二人も火の雨を被る。「ノイス! こんなん避けられる訳ないだろ!」

が、次々とベルゼバエの羽にも火が移り、黒い影が落ちていく。


「いくら素早くても、この雨の様な火弾は避けられないよね……」


「は、羽が燃えて……落ちてくる!」

「へへっ、飛べねぇなら、ただの虫型だな!」


ノイスはふらつきながら微笑んだ。

「へへ……小さいファイヤーボールでも、魔素消費は大きいみたいだ……」


「もう十分だ、後は任せろ!」

ユージとライトは沼地に転がるベルゼバエにトドメをさしていく。

「これなら楽勝だぜ!」


「えへへ、トドメは取られちゃったけど、戦闘不能にしたのは僕の魔法だから……今回の勝負は僕の勝ちだね」

ノイスが笑う。


「はははっ! この期に及んで勝ち負け気にすんのかよ、相変わらずノイスは負けず嫌いだな!」



戦闘後、三人は形の残った複眼を回収した。


「少し燃えちまったが、これだけありゃ十分だな」

「うわぁ……綺麗だね」

七色に輝く複眼を手に取り、ノイスが見とれる。


疲れた足取りでカタドラに戻った三人は、すぐさま集会所へ向かった。


「おい、見ろよ! あのすばしっこい虫どもをこんなに倒したぞ!」

「どんな手品使ったんだよ!」

冒険者達が三人の持つ複眼の量に驚いていた。

「うちの魔法使いがすげぇんだ。火の雨を降らせたんだぜ!」

ライトが得意げに胸を張る。


「そんな芸当、聞いたことねぇ……ってかお前ら、臭ぇな」


受付ではユージが報酬を受け取っていた。

まとまったゴールドの袋を手にして、口角を上げる。


その噂は瞬く間に広まり、

“沼地を炎で覆い尽くした炎の魔法使い”として――ノイスの名はカタドラ中に知れ渡った。


「ちょっとぉ! なんか噂、大きくなってない!?」

「いいじゃねぇか。有名人だぞ!」

「けけけ、報酬もたっぷりだしな……」

ユージは袋を握りしめ、静かに笑った。


そんな二人を見て、ノイスは思った。


(昔ふたりは僕がいるから前を走れるって言ってたけど……僕は、ふたりが前にいるからどこまでも走っていけるんだ)


「……うん。二人と一緒で良かった」

「お、おう」

「何、急に当たり前のこと言ってんだよ」


三人は照れくさそうに笑い合いながら、次の依頼書を見つめていた。


――炎の雨の戦いは、三人の絆をさらに深めた様に思えた。

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