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第五十九話 ドサイの覚悟

ーー西方・魔王の塔前。


高くそびえる漆黒の塔が夕陽を背に不気味な影を落としていた。

周囲では武装した魔族たちが鬨の声を上げ、今まさに人間領へ向けて進軍しようとしている。


その喧騒を割って、人魔革命団の旗を掲げた龍鈴たちが姿を現した。


龍鈴は前に進み出て、凛とした声を響かせる。


「私たちは白虎様と話がしたいのです!敵ではありません。血を流すために来たのではありません!!」


しかし返ってきたのは嘲りと怒声だけだった。


「黙れ、人魔革命団! 白虎様に逆らう者など通すものか!」

「龍族なんて信じられるか! 人間と馴れ合う裏切り者め……ここで屠ってやる!」

話し合いを受け入れる様子はなく、魔族たちがじりじりと距離を詰めてくる。


そこへドサイが大きな足音を響かせながら一歩前へ出た。


「待て! 俺だ……ドサイだ!

白虎様と話したい! 通してくれ!」


しかし、血に熱を上げた兵たちの耳には届かない。


「何を今更!恥を知れ!! 裏切りの将ドサイ!」

過激派の獣族たちが先陣を切る。


リュウガは即座に剣を構える。

「……やはり、こうなるか!!」


砂埃を上げて、過激派が突撃し、怒声が空にこだまする。


ライトも龍鈴の前へ躍り出て叫んだ。


「龍鈴! 下がってろ!

今は交渉の場じゃねぇ!!」


龍鈴は唇を噛みしめ、震える声で叫んだ。

「待って……! 何故争う必要があるのです!

ただ白虎様と――話がしたいだけなのです!!」


だがその訴えは、怒号にかき消され、

戦場の嵐はさらに勢いを増していく。


「《光の盾》ッ!!」

ライトが光の壁を展開し、突進してくる魔族たちをまとめて吹き飛ばす。


リュウガも歯を食いしばり、《闇の剣》を振り抜いた。

「ふんッ!」

飛ぶ斬撃が弧を描き、敵を薙ぎ払う。


ドサイが一歩踏み込み、地面を揺らすような拳を叩きつけた。

「下がれと言っておるだろうが!!無駄に血を流すな!」

巨体の一撃に数体が宙を舞う。

しかし倒れた魔族はすぐに立ち上がり、再び牙を剥いた。


「ここを通してください!誰にも傷付いてほしくないのです。どうか、戦いは最小限に――!」

ライトは額の汗を拭う余裕もなく、次の刃を弾き返した。

「わかってるけどよ……

この状況じゃ無理だぜ!!」


ドサイも奥歯を噛みしめる。

「くそぉ……前に進めんわい!!」


包囲はさらに狭まり、戦場は混沌を極めていく。


その時、人魔革命団の龍族たちが前へ出る。

「龍鈴様!いえ、団長!!

ここは我らに任せてください!どうか……先へ!!」

「我々も龍鈴団長のお役に立ちたいのです!!」


龍族の兵たちが龍鈴の前に立ちはだかる。


龍鈴は胸に手を当て、言葉を失った。

「……それでは、あなたたちが……」

そんな彼女の背中を、仲間たちの決意が強く押した。


「ドサイ将軍! あなたも行ってください!!」

「俺たちは……将軍に惚れ込んで人魔革命団に入ったんです!だから――白虎様へ思いを届けてください!!」

ドサイの部下たちが、その道を切り開こうと立ちはだかる。

 

ドサイは目を大きく見開き、声を震わせた。

「……お前たち……」

その声には、普段の豪快さにはない深い感情が滲んでいた。


ライトは戸惑う龍鈴の肩を掴み、強く言う。

「みんなが命懸けで“道”を作ってくれたんだ!

行くぞ、龍鈴!!」


「で、でも……皆がまだ戦って……!」


振り返ろうとする龍鈴を、ライトが強く止めた。


「大丈夫だ! あいつらを信じろ!

俺たちには――“俺たちの役目”がある!

白虎を説得して、こんな争いさっさと終わらせようぜ」

迷いのない瞳が、龍鈴の心に火を灯す。


龍鈴は息を吸い、しっかりと頷いた。

「……はい!!」


ライト、リュウガ、龍鈴、ドサイは一斉に駆け出し、重厚な扉へと飛び込んだ。


軋む音と共に冷たい風が吹き抜け、

背後から仲間たちの咆哮が遠ざかっていく。


もう振り返らない。


暗く長い階段を駆け上がりながら、

ドサイが低く呟いた。


「……この先だ。白虎様は、おそらく塔の頂にいる」


巨体が先頭を突き進むたび、床石が震え、砂が崩れ落ちる。


リュウガは《闇の剣》を握り直し、吐き捨てるように言った。

「ふん……逃げ場はないな。

決着をつけるには……相応しい場所だ」


ライトも《光の剣》を構え、静かに息を整える。

「……行こう。ここで止めるんだ」


ライトたちの影は揺れる炎に照らされながら、

塔の奥――白虎のいる頂へと進んでいった。


 

厚い扉が軋む音を響かせながら開いた瞬間――

灼熱のような威圧感が叩きつけた。


円形の巨大広間。天井は闇へ溶け込むほど高い。

赤黒い炎が松明を舐め、壁に映る影はまるで生き物のように蠢いていた。


「……やはり来ましたか」

艶やかな声とともに姿を現したのは、豹型の獣人ジャスミナ。

上品な微笑みとは裏腹に、氷刃のような視線が侵入者を切り裂く。


「にゃははは、わざわざ死にに来たのかにゃ?

ほんっとバカな連中にゃ!」

子供じみた挑発をしながらも、ニャルカの殺気は肌を裂くほど鋭い。

尻尾がばさりと揺れ、獣の爪がギラリと光った。


そして――広間の最奥。


燃えるような黄金の双眸がライトたちを射抜いた。

雷光を宿した巨影が、高座の上で仁王立つ。


西魔王――白虎。


「……魔王の娘、龍鈴。忌々しい龍族の子。

ここまで来るとは、探す手間が省けたわ」


低く地を這うような声が広間を揺らす。


ライトが息を呑む。

「……朱雀や玄武とも違う。胸が潰されるほどの威圧感……これはもう、“殺意そのもの”だ……!」


リュウガは一歩踏み出し、怒りを燃やした瞳で睨み上げる。

「白虎ッ!!」


白虎はその視線を受けても眉一つ動かさず、冷笑を落とす。

「フン……話には聞いていたが、実に面白い顔ぶれだ。

無能な老害魔王の娘、青龍の忘れ形見、異形の人間……そして――」


視線が鋭く揺れ、じわりとドサイへ突き刺さる。


「龍族に尻尾を振る“裏切り者″まで揃っておるとはな」


「……っ!」


ドサイは肩を震わせながらも、一歩前へ進み、深く頭を垂れた。


「白虎様……!どうか――

人間への侵攻を、今一度お考え直し願えませんか!」


震えではない。

その声には、確かな“覚悟”があった。


ニャルカが目を剥き、嘲りの声を上げる。


「裏切り者が白虎様に意見とか、笑わせるにゃ!

それによりにもよって龍族なんかにつくにゃんて……

獣人としての誇りはにゃいんですかー?」


挑発的に舌を出し、尻尾をピンと立てて嘲笑う。


ドサイは拳を握りしめ、悔しさを噛みしめながらも言い返した。

「……誇りを捨てたつもりはない。

ただ……間違った道を正したいだけだ」


――ズンッ。

白虎が玉座から一歩踏み出す。

広間の空気が“圧し潰される”かのように重く沈んだ。


「ほう……面白いな、ドサイ」

白虎は口元だけで笑う。

だがその双眸は、獣が獲物を貫くような鋭さでドサイを射抜いていた。


「裏切り者がこの俺に何を語るつもりか……聞いてやろうじゃないか」


威圧は嵐のようだったが、

ドサイはその場に膝をつき、ゆっくりと白虎を見上げた。


巨体が震えている――しかし、それは恐怖ではない。

「……白虎様。俺は……あんたを心から尊敬している。

それは今でも変わらねえ」

低く押し殺した声が、静寂を震わせる。


「誰よりも強くて、仲間思いで……

何があっても前に立ってくれる絶対の存在だった。

だから俺は……命を預けてついていこうと決めたんだ」


その声は震えから熱へ、熱から強い意志へと変わっていく。


「だが――今の白虎様は違う!!」

白虎の眉がわずかに動く。


ドサイは拳を握りしめ、悔しさを噛みしめながら叫んだ。


「魔王黄龍が死んで……絶対的な魔王がいなくなって……

あんたは人間を“恐れているんだ”。俺にはそう見える!」


広間の空気がピシリと張り詰めた。


「そして……共に歩んできた仲間だった者にまで魔昌核を使わせ、命を削る道具みたいに扱っている……!」


ドサイの目が潤み、声が震える。


「そんなのは……俺の知っている“誇り高き白虎様”ではない……!!」

その叫びは壁を震わせ、炎をも揺らした。


白虎の眼光は鋭く、その奥で揺らぐ影がわずかに瞬いた。


ドサイは喉を鳴らし、さらに言葉を続ける。

「俺も……西の魔族たちも……白虎様に“全部”を押し付け過ぎたんだ。

誰も口出しせず、今後の魔族の行末を白虎様に押し付けた!」


拳が床を打ち、その衝撃が広間に響く。

「……人魔革命団に身を置いて、初めて気づいた。

仲間同士で相談し、どうすべきか、間違いはないか……

“皆で語り合う”ことが、どれほど大切だったかを……!」


その声は次第に大きく、熱を帯び――


ついには吼えるように広間へ響き渡った。

「白虎様!!

あんた一人に抱えさせるための“西の地”ではない!!

俺たちも……共に向き合わなければいけなかったんだ!!」

 

ドサイは胸の底から絞り出すように叫んだ。

「まだ……まだ間に合います!

人間領への侵攻は、多くの魔族の犠牲が出ます!

……どうか、どうか侵攻だけはお思いとどまりください、白虎様!!」


その声音には、忠誠と後悔と、深い願いが宿っていた。


広間に重い沈黙が落ちる。


白虎はゆっくりと歩みを進め――

ドサイの目前に影を落とした。


近づくだけで、肌が焼けつくような威圧が押し寄せる。


「……そうか、そうか。

お前が……俺にそこまで言うとはな」


低く響く声に、微かな温度が宿る。


その一瞬――

誰もが“白虎の心が動いた”と思った。


白虎はゆっくりと分厚い掌を伸ばし、

ドサイの肩にそっと置いた。


優しげにすら見える仕草。


ドサイの目が揺らぎ、声がかすれる。


「……白虎様……」

救われたように名を呼ぶ。


だが――

白虎の双眸は、雷光を孕んで凶悪に歪んでいた。


次の瞬間。


「――俺をっ……みくびるなよォ!!

この裏切り者がァァァ!!!」


轟音とともに白虎の腕が暴風のようにうなり、

巨獣の腕とは思えぬ速度でドサイの胴を打ち据えた。


ドサイの巨体が弾丸のように吹き飛ぶ。


「――っぐはァッ!!」


背中から石壁へ叩きつけられ、

壁が蜘蛛の巣状にひび割れ、

巨躯が半ばめり込むほどの衝撃が走った。


粉塵が舞い上がり、広間が揺れる。


吹き飛ばされたドサイの目前に――

白虎が瞬きの間に現れた。


リュウガが驚愕の声を漏らす。

「なんて速さだ……!」


鋭さを増す双眸でドサイを射抜き、白虎は冷酷に言い放つ。

「お前ごときが……俺に意見するか。身の程を知れ」


倒れ込むドサイが、必死に名を呼ぶ。

「……白虎様、考え直してくれませんか……?」

それでもドサイは説得を諦めていなかった。


白虎は嘲笑を浮かべ、堂々と胸を叩いた。

「忘れたか? もし、お前に西の獣族としての誇りが残っているのなら――“力”で語れ」


挑発するように身を晒す白虎の姿に、

ドサイは震える拳を握りしめ、魂を燃やす。


「ぬおおおおおっ!!」

ドサイの渾身の巨拳が唸りを上げて突き出される。


ーーガツァンッ!!


ライトが息を飲む。

「……ドサイの本気の拳を……!」


リュウガも目を見開く。

「片手で……受け止めている……!」


白虎の掌は微動だにしない。

大岩のように拳を受け止め、押し返している。


白虎は冷たく言い放った。

「ドサイよ……龍族のもとで鈍ったか。それとも――元々その程度の覚悟しか持たぬか」


そして次の瞬間――

白虎の膝が静かに、しかし苛烈に突き上がる。


ドサイの腹が抉れ、巨体が折れ曲がった。

「ぐっ……あ”っ……!」


苦悶するドサイへ、白虎は一切の情なく宣告する。


「さらばだ、ドサイ!

――獣人八卦・雷掌ッッ!!」


両掌から稲妻が轟き、広間を白く染める。


ドサイが息を吸う暇すらなく

強烈な掌底が炸裂した。


「ぐあああああああっ!!」


雷光と衝撃の奔流に呑まれ、

巨体は石壁を貫通し――塔の外へ吹き飛ばされ、落ちていく。


轟音とともにドサイが塔の外へ消えた直後――

龍鈴の悲痛な叫びが広間に響き渡った。

「ドサイ将軍っ!! な……なんてことを!!」


声が震え、足元が崩れ落ちそうになる。


その嘆きをよそに、ジャスミナは口元に手を当て、冷ややかに微笑んだ。

「……あの高さから落ちれば、あの打たれ強いドサイ将軍もさすがに命は助かりませんわね」

まるで他人事のように軽い口調であった。


一方でニャルカは尻尾を振り回し、楽しげに跳ねる。

「にゃはははっ!

図体ばっかデカい雑魚のくせに、白虎様に刃向かうからそうなるにゃ! いい気味にゃ!」

広間に重苦しい沈黙が落ちる。


ライトは拳を固く握りしめ、奥歯を噛みしめた。

怒りで瞳が燃え上がる。

「……お前ら……仲間を一体……なんだと思っているんだ……」

低く、押し殺した声。

その震えは怒りを抑えるためのものだった。


ニャルカが鼻で笑う。

「はぁ?仲間? 何言ってるにゃ」


ライトの怒気が爆発した。


「ドサイは……!

白虎のことを、本気で尊敬してたんだ……!

どんな時も、どんな状況でも……

あいつはお前に“忠誠”を誓っていたんだ!」


拳を震わせ、声を絞り出す。


「それなのに……なんでだよ!!

なんでそんな仕打ちができるんだ!!

仲間を……自分を信じてた部下を……

どうして平気で殺せるんだ!!」


白虎は鼻で笑い、冷ややかな眼光を突き刺した。


「尊敬してた……だと? ッフ、戯言を。

憎き龍族に膝を折った時点で、奴は裏切り者だ。

もはや部下などではない……ただの敵よ」


その瞬間――


轟く雷鳴のごとき咆哮が広間を切り裂いた。


「貴様というやつは……白虎ぉぉぉおおおっッ!!!!!」


リュウガが地を蹴り、闇をまとった剣を抜き放つ。

《闇の剣》が獣の咆哮のような軌跡を描き、

白虎めがけて一直線に飛び込んだ。


その殺気は、広間の空気すら震わせる。


——ドサイの無念をすべて刃に乗せたかのような、

破滅を帯びた一撃だった。

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