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第五十八話 開戦の火蓋

ーー西方・魔王の塔前。


夕陽を背に、集結した過激派と白虎軍が地を埋め尽くす。

巨大な影が群衆を見下ろし――白虎が、塔の頂に立っていた。


白銀の毛並みは夕焼けを弾き返し、

黄金の双眸が獲物を射抜く獣の輝きで群衆をなぎ払う。


次の瞬間――

荒々しい咆哮が大地を震わせた。


「よく集まった、同志たちよ!!」


その声だけで、数百の魔族が息を呑む。

「我が手で世界を浄化し、傲慢なる人間どもを根絶する!

これは――我らの自由と尊厳を取り戻すための戦争だ!!」


「ウオオオオオオッ!!」

集まった過激派たちは雄叫びをあげる。


白虎は塔の縁に拳を叩きつけ、怒気を帯びた声を響かせた。

「長きにわたり我らは、黄龍という愚か者の作った“掟”に縛られてきた。

『人間に手を出すな』『人間領へ踏み込むな』……

――その結果どうなった?」


怒号が風を裂く。


「人間はつけ上がり、我らを好き放題に蹂躙してきたのだ!!」


白虎の声に呼応するように、群衆がざわめく。


「龍族という強者だけは安全な地に引きこもり、

王の名の下でぬくぬくと暮らしている。

……だがそれ以外の魔族はどうだ!?」


白虎は憤りを噛みしめるように、

ひとつひとつ、罪状を叩きつけるように叫んだ。


「サラマンダーたちは身体を切り取られ、

炎を起こす“道具”にされた!」


「アイスゴーレムは体をくり抜かれ、

“食糧保存箱”として売り飛ばされた!」


「硬い角や牙を持つ種族は狩られ、

そのまま“武具”へと加工された!」


声はさらに荒々しさを増す。


「北方の魔族は漁られ、食糧として並べられた!

南方の鳥族は羽をむしられ、肉を焼かれ――

宴の席で笑いものとして貪られた!!」


白虎は拳を振りかざし、怒号を叩きつける。


「それだけではない!!

人間どもは私利私欲のために大地を切り開き、

この地に満ちる“魔素”を枯らしつつある!」


群衆がざわめき、どよめきが波のように広がる。


白虎はその熱気を飲み込みながら、さらに声音を鋭くした。


「魔素が枯れれば――我ら魔族は滅びる!

ならば滅ぶ前に、この世の“悪”である人間を、存在ごと消し去る!!」

怒りの火種は、完全に群衆へと燃え移った。


「そうだ! そうだ!! 人間を許すな!!」

過激派の一角が、激情のまま咆哮し、

その声に呼応するように周囲の魔族たちが次々と吠え始めた。

 

白虎は吠えるように続ける。

「我ら魔族は本来――人間より強き存在だ!

牙も爪も炎も氷も……人間を討つためにある!!

決して人間どもの小賢しい“道具”になるためではない!!」


「オオオオオオオッ!!」


白虎の黄金の瞳が、怒りの焔で揺らめく。


「こうなったすべての元凶は――前魔王、黄龍の怠慢だ!

その持って生まれた力で己とその一族だけを守り、

弱き魔族を切り捨てた最悪の統率者だ!!」


白虎は天を指し示し、高らかに宣言した。


「だが、その黄龍は死んだ!!

これからは――我らの時代だ!

人間を根絶し、この大地に“魔族の誇り”を取り戻す!!」


「ウオオオオオオオッ!!」


炎が焚かれ、怒号が渦巻き、

戦の熱気が夜空へ昇っていく。


白虎は両腕を広げ、最後の号令を放つ。


「――立ち上がれ!!我らの未来のために!

今こそ人間を滅ぼし、魔族の世を手に入れるのだ!!!」


「オオオオオオオ!!!」


ーーこうして、

人類殲滅を掲げる“大戦”の火蓋が、静かに――しかし確かに切って落とされた。


演説の熱狂がまだ残る舞台裏に黒いマントを翻し、白虎が無言で歩み去る。

ニャルカがすぐ後を追った。


「さすが白虎様にゃ……惚れ惚れする演説だったにゃ。

聞くだけで背筋が震えたにゃ」

ニャルカが恭しく飲み物を差し出す。

白虎はそれを受け取り、わずかに喉を潤すと低く答えた。


「ふん。ただ事実を述べたまでだ。

……これから過激派には“働いて”もらわねばならんからな」

その声音には、先ほどの激情とは異なる、

冷たく計算された響きがあった。


そこへ――

優雅な仕草でジャスミナが歩み寄る。


「白虎様のお言葉……胸に深く響きましたわ。

まさに“魔王”に相応しいお方。

龍族などとは比べものになりません」


白虎の耳がわずかに動き、冷たく低い声が返る。

「龍族……か。

あの“魔王の娘”が、少々気に掛かる」

黄金の双眸が細まり、獲物を捉える獣の光を宿す。


「――動向を探れ。

決まって俺の行動を邪魔するのは、いつの時代も龍族と相場が決まっている」

静かながら、確かな憤りと警戒がにじむ声音だった。

 

ジャスミナは一礼し、微笑を深めた。

「かしこまりました。

すぐに確認いたします。白虎様」


静かに、密かに――

白虎の次なる一手が動き始めていた。



ーー人魔革命団の拠点。

夕闇が静かに降り、焚き火の炎が揺らめいていた。


玄武との重い対話を終えた三人は、疲れを滲ませながら腰を下ろした――

その矢先、急使が荒い息を吐きながら門を叩いた。


「団長! 報告です!!」


緊迫した声に、場の空気が一瞬で張り詰める。


「西の塔にて白虎が他の魔族たちと白虎軍をまとめ、

人間領へ向けて大規模な出陣準備を進めています!!」


その言葉は刃のように鋭く、拠点の空気を切り裂いた。


龍鈴の頬が蒼白になり、

リュウガの瞳は怒りに細められる。

ライトは反射的に身を乗り出し、拳を握った。


龍鈴は険しい顔付きになる。

「白虎が……こんなにも早く……!」


リュウガが低く吐く。

「奴らが待つ理由もない。

一気に決着をつけるつもりだ。力で押し潰す気だ」


ライトも声を荒げる。

「やべぇな。これ以上、人間の街に被害が出たら……!

人間と魔族の溝は今以上に深くなる!

共存なんて、ますます遠のいちまう!!」


リュウガは鋭く言い捨てる。

「……ならば止めるしかあるまい。

あの愚か者を斬り伏せねば、すべてが終わる」


「待ってください、リュウガ」

龍鈴が強く首を振った。


「私たちの目的は“討伐”ではありません。

人と魔の共存を掲げる人魔革命団として、

白虎に“退く理由”を届けること……

それが、最優先です」


リュウガは苛立ちを隠さず噛みついた。

「甘い! 白虎が言葉だけで止まるようなら、このような事態にはなっていません!」


「それでも……伝えなくてはならないのです。

おじ様を討たれた苦しみはわかります。ですが、私たちは歩み寄っていかなくてはなりません」


「……っ」

リュウガの拳が震えた。

 

その時だった。


焚き火のそばから、大地を揺らすような足音が響いた。

ドサイが立ち上がり、静かに皆へ視線を向ける。


「……俺も連れていってくれ」


「ドサイ……?」

リュウガの目が僅かに揺れる。


ドサイは拳を握りしめ、まっすぐに龍鈴へ向き直った。

「白虎様と話す機会を……俺にくれ。

俺の言葉なら、少しは聞く耳を持つかもしれん」


龍鈴は眉を寄せた。

「……ですが、白虎のことです。

裏切り者として処罰されてしまう可能性も――」


「それでも構わん」

ドサイの声は揺るがなかった。


「人魔革命団に加わって……お前たちの姿を見て、痛感したのだ。“対話”という当たり前のことを……俺たちはあまりにも疎かにしていた。」

ドサイはゆっくりと前へ出る。

 

「西の地は力がすべて。白虎様は、誰よりも強い。誰も口を出す者などおらん。

そして、白虎様に全てを背負わせた。俺たち部下の責任だ。正すべき時に正さず、間違いを間違いだと言えなかった……その結果が、今の事態を招いた」

 

その目には、深い後悔と覚悟が宿っていた。


焚き火がぱちりと弾け、龍鈴は静かに立ち上がる。

「……ドサイ将軍の覚悟、確かに受け取りました。

言葉で届くなら、それが一番です」


だがリュウガは苦々しく吐き捨てる。

「あの白虎が聞き入れるとは到底思えん。

ここは奇襲にすべきだ。意表を突いて白虎の首を取る」


龍鈴は一度息を整え、ライトを見る。

「……ライトはどう思いますか?」


ライトはドサイの瞳を見つめたまま、静かに答える。


「白虎のことは分からねぇ。

でも……ドサイが話したいって言うなら、

その気持ちをぶつけるべきだと思う。

話し合いで戦いが止まるなら、それに越したことはねぇ」


龍鈴は柔らかく微笑む。

「ふふ……ライトらしい答えですね」


そして、リュウガへ向き直った。


「――ドサイ将軍が白虎と話せるよう、

私たちで場を整えましょう。いいですね、リュウガ?」

そっぽを向き、返事をしないリュウガ。


「青龍様のこともある。無理を言っているのは承知だ。

だが、白虎様は仲間を強く思うからこそ暴走してしまっているのだ。俺に話す機会を頂けないだろうか?」

ゆっくりと膝をつき、深々と頭を下げるドサイ。

 

リュウガは焚き火を睨みつけたまま舌打ちした。

「……チッ、勝手にしろ」


しかしリュウガの声は鋭かった。

「だが勘違いするな。

交渉が破綻したと判断したら――

その場で白虎を始末する。……いいな?」


ドサイは拳を固く握り締め、迷いのない瞳で答えた。

「……それで構わん。

その時は俺も、人魔革命団の一員として拳を振るおう」


焚き火の火の粉が夜空へ舞い上がる。

ライトたちの間に交わされた決意は、静かに、しかし確かに――炎のように強く燃え始めていた。


  

ーー翌朝。


夜明け前の空気は凍てつくほど静かで、

拠点の広場には薄い霧が立ちこめていた。


その静寂を割るように、龍鈴が一歩、中央へと進み出る。

人魔革命団が次第に集まり、息を呑んで彼女へ視線を向けた。


龍鈴は胸に手を当て、凛とした声で告げる。

「……皆さん。今、白虎が魔族の過激派を率いて

人間領へ進軍しようとしています」


ざわめきが走りかけたが、龍鈴の声がそれを制した。

「放っておけば、人間も魔族も血に染まり、

また新たな憎しみが生まれてしまいます。

その連鎖を……終わらせなければなりません」


炎に照らされた団員たちの顔が、

次第に緊張と覚悟を帯びていく。


龍鈴は強く拳を握りしめ、息を整えてから続けた。


「そのために――人魔革命団である私たちが止めなければなりません。

相手は西の地を統べる魔王・白虎。

説得を試みますが……戦闘になる可能性は非常に高いでしょう。そうなれば、私たちが無事で済む保証はありません」


その言葉に、兵たちの喉が小さく鳴る。

龍鈴の声は一瞬だけ震えた――だが次の瞬間には、

その瞳に確かな炎が宿っていた。

「それでも……それでも私は、人間と魔族が互いを理解し、共に生きられる未来を諦めるつもりはありません」


龍鈴は正面から仲間たちを見据える。

「この願いを、私と共に追い続けてくれますか?

どうか……皆さんの力を貸してください」

祈りを捧げるように手を組む龍鈴。

 

暫しの沈黙。

その刹那――心に火が灯るように、団員たちの胸から叫びが溢れた。


「うおおおおおお!!!」

「やるぞ!!人魔革命団!!」

地鳴りのような咆哮が広場を揺るがす。


龍鈴はその熱を受け止め、静かに瞳を閉じて祈るように呟いた。

「ああ……この戦いが、争いを終わらせる一歩となりますように」


やがて彼女が振り返り、歩み出す。

それぞれの想いを胸に、人魔革命団が進軍を開始した。

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