表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/87

第五十一話 想いの重さ

簡単ではありますが、キャラクターのイメージを画像生成で載せています。

ーーゲトラム・城砦の通路。


鎖に縛られて力が入らない龍鈴の体を支えながら、ライトは息を切らせて駆け抜けていた。


「……もう少しだ。絶対に外へ連れ出すからな」


龍鈴は弱々しくも、しがみつく腕にわずかな力を込めて頷く。


その時――。


――バチィィィン!!


雷光が耳元をかすり、前方の壁を貫いた。

通路の闇を切り裂いて、電撃に包まれた小鳥が羽ばたく。


「……っ!? これは《サンダースパロー》!」


姿を現したのは三つの影。

グレンダ、アヤ、アリス――魔族殲滅軍の制服に身を包み、通路を塞いでいた。


「……ライト……?」

アヤが顔を覗き込む。

「嘘だろ……お前は……本当にライトなのか?」

グレンダは斧を構えたまま、じっと見つめる。

「……そんなはず……死んだって聞いたのに……」

アリスは目を擦る。


三人の瞳が驚愕に揺れ、《光の剣》を携えた青年を見据える。しかし知っているライトとは違い、龍の鱗や尻尾が目立つ。

「一体どうなってやがる……死んだはずのライトが半分龍型になって現れるなんて。お前はライトなのか?」

グレンダは確かめるように問いかけた。


ライトは龍鈴を背に庇い、静かに言葉を落とした。


「……久しぶりだな。グレンダ、アヤ、アリス……」

通路に重苦しい沈黙が落ちる。


「……ライト……!」

さらに一歩踏み出し、震える声でグレンダが叫ぶ。


「お前……生きてたのかよ!

バカ野郎!!どれだけ心配したと思ってるんだ!

なんですぐに顔出さなかったんだ!!」


「すまねぇ。色々あったんだ。

でも今は説明してる時間がねぇ! ここを通してくれ!」


「……グレンダ、落ち着いて! あの姿……間違えなく龍型だわ……それにあの背負っている龍型。捕獲した個体よ」

アヤが不用意に近付くグレンダを制止する。

「……捕獲した個体に逃げられたら困る……このライトに見える何かは敵なのかもしれない」

アリスもフルートに魔素が集め、空気が張り詰める。

ただ、グレンダだけが迷いを秘めた目でライトを見つめていた。


「俺は……お前らと戦いたくないんだ!

頼む、道を開けてくれ!」


震える手で《光の剣》を構えるが、そこに殺気はない。

 

アヤが警戒した様子で声をかける。

「声もライトだわ……わかったわ。その代わりそこの金の龍型は置いていきなさい!捕獲した龍型に逃げられたら私たちも困るの」


「それは……それだけは出来ない。俺らには龍鈴が必要なんだ!」

ライトは真っ直ぐな目で言葉を返す。


「……本物のライトだと言うなら……どうして龍型なんかと一緒にいるの?そいつがノイスを殺したんでしょう?」

アリスが鋭く睨みつける。

 

「確かにノイスは……龍型にやられた。でも、ノイスは魔族との“共存″を望んで――」


ライトの言葉をフルートの音色が掻き消す。

「(フルートの音色)……《ファイヤーキャット!》」


「くっ……!」

《光の盾》で炎を受け流し、耐える。

 

「ふざけないで!ノイスが……殺された魔族との共存を望んだ?バカにしてるの……?」

アリスの目は本気だった。


「頼む……こうしているうちに囲まれちまう!そうしたら強行突破するしかねぇ。俺はグレンダたちを傷付けたくないんだ!」


「……ライト」

ライトの変わってしまった姿に驚くも、必死なライトに心動かされそうになるグレンダ。


「卑怯よ!龍型のくせして、ライトの姿を使って……そんな言葉をかけて! 私たちの事を騙そうったってそうはいかないわよ!」

「……ノイスの名前まで出すなんて……許せない!」


「《対魔手裏剣•爆》!」

「(フルートの音色)……《ウインド•モンキー》」

《光の盾》を構えるも龍鈴にだけは当たらないように体で受け止める。

「ぐわっ!!」

 

その時――。


ライトの胸元で、穴の空いた金属片がかすかに光を反射した。


「……ッ!?そ、それは……」


それは、かつて自分が“お守り”として渡した鎧の破片。

「グレンダ……この鎧の破片で俺は命拾いしたんだ。穴が空いちまったけどよ……ありがとな」

アヤとアリスの攻撃でボロボロになりながらも前へ前へと進んでくる。

 

「……バカ野郎……

ずっと……持ってたのかよ……!」

震える手で斧を握り直す。

「しぶといわね! 出来れば無傷で捕えたいけど、少し本気でいくわよ!アリス!」

「……わかった……」

さらに構える二人の前にグレンダが立ち塞がる。

「アヤ! アリス! もうやめろ!!」


「……グレンダ? 何してるのよ!邪魔よ!」

「グレちゃん……裏切る気……?」


涙を拭いもせず、グレンダは叫ぶ。

「ライト!! 早く行け!!

お前の事だ! 何か事情があるんだろ?」


「……グレンダ……。助かるぜ」

すれ違う一瞬、視線が交わる。


その瞬間、グレンダはこっそりとライトに呟く。


「もしお前が――

あの時の“ライト”と変わらねぇって言うなら……

明日のこの時間にゲトラム郊外に来い!!」


「……わかった。必ず行く……」


振り返ることなく、《光の翼》を広げて闇の通路を駆け抜けていく。


「グレンダ……! 自分が何してるかわかってるの!?」

「……命令違反よ。軍を裏切るつもり……?」


グレンダは何も答えなかった。


震える肩を押さえ、斧を握りしめたまま――

ただ、涙でにじむ空を睨んでいた。



ーー夜の空を駆け抜ける。


《光の翼》を広げ、怪我をしている龍鈴を背負い、ライトは猛スピードで翔けていた。


「……見つかるかもしれねぇ。もう少しだけ我慢してくれ、龍鈴」


龍鈴は荒い息を吐きながら、それでもか細く問いかける。


「……あ、あの方たちは……?」


ライトは言葉を詰まらせた。

脳裏に、剣を向けてきたかつての仲間たちの姿がよみがえる。


「……一緒に冒険した……仲間たちだ」


力無い龍鈴の手を落ちないように握りしめるが、手の甲にも痛々しい傷が残っていた。


「……こんな事になっちまって……すまねぇ……

俺がもっと早く来れてれば……」

悔しくて涙を堪えるライト。


しかし、龍鈴は弱々しく首を振り、無理に微笑もうとする。

「ライトが謝る必要などありません……

ただ……こんなにも魔族は嫌われているのですね。

私は……わかっているつもりで、何もわかっていませんでした」


「龍鈴……」


「言葉はわからなくとも……

向けられる視線だけは、痛いほど伝わります。

“恐怖”も、“憎悪”も……全部、私に向けられていました」


「そ、そんな事は……」

ライトは何か言い返そうするが、言葉に詰まる。


「私は少し夢を見過ぎていたのかもしれません。

積み重なった憎しみは、あまりにも大きくて……

気付けば、もう誰にも取り返しがつかない場所まで来てしまったのだと……」


必死に涙を堪え、震える瞳をぎゅっと閉じる。


「争いをなくすなんて……結局、私の身勝手な理想だったのでしょうか……」

普段は誰よりも強くあろうとする龍鈴が、弱音を漏らす姿など見たことがない。

ライトは唇を強く噛み、ゆっくりと、しかし揺るがぬ声で言葉を紡いだ。


「……争いがなくなるなんて、きっと簡単なことじゃない。

それでも――龍鈴の願う争いのない平和な世界は、身勝手な理想なんかじゃねぇ。みんなが本当は心の底では望んでいることなんだ!」


灯りをともすように、言葉に力が宿る。


「人間も魔族も争いのない世界を望んでいる。その想いを誰かが伝えていかなきゃ、その本心に気付けないんだ!

だから俺がいる。龍鈴の優しさを……その想いを俺が世界に伝えていく。絶対に、届かせてみせるから!」


その言葉に、龍鈴の瞳から大きな涙がひと粒、ぽろりと落ちた。

「……申し訳ありません……ライトを巻き込んでしまった私が……こんな弱音を……」


震える声が夜風に消えそうになる。


ライトは即座に、強く、迷いなく言い返した。


「巻き込まれたんじゃねぇよ。

俺が、自分の意思で龍鈴と一緒にいるんだ」


その声には、揺るぎない確信があった。


「たまには弱音ぐらい吐けよ。

全部ひとりで背負おうとすんな。

俺が全部受け止めてやる!」


「……ライト……」


抑えきれない涙が頬を伝い落ち、龍鈴は震える手でライトの服を掴み、そのまま縋るように背中へぎゅっと抱きついた。


「本当は……ずっと怖かったんです……。

痛かった……苦しかった……。

鎖に繋がれて、毎日、心を削られるように痛めつけられて……」


小さな声が震えながら続く。


「魔素疎通でどれだけ(やめて……私はただ、わかり合いたいだけなのに……!)と叫んでも

その想いは……全く届かなくて……」


涙で言葉が途切れる。


「返ってくるのは……憎しみの目。

恐怖と嫌悪が混じった視線で、

化け物を値踏みするように……全身くまなく見られて……」


ライトの背中に額を押し当て、震えが強まる。


「誰も……助けに来てくれないんじゃないかって……

このまま、心が壊れてしまうんじゃないかって……

怖くて……怖くて……」


堰を切ったように、押し殺してきた想いが溢れ出す。


「人間と魔族の共存なんて……

軽々しく口にした私が……嫌になりました……

何もできないくせに……みんなを巻き込んで……」


小さく縮こまり、泣き続ける龍鈴の手を、

ライトはそっと、しかし強く包み込むように握りしめた。


「……俺をノイスの悲しみから救ってくれたのは、龍鈴の優しさだ。

俺だけじゃない。リュウガだって、ドサイだって……

みんな、その想いに動かされたんだ」


龍鈴は小さく息をのみ、震える声で言う。


「……でも、私は……」


ライトは迷いなく、そっとその言葉を遮った。


「怖い時は怖いって言え。泣きたい時は泣けよ」

声は荒くもあたたかい。


「俺がそばにいる。

だからもう……ひとりで全部背負おうとすんな」


龍鈴はライトの背中に顔を埋め、

子どものように泣きじゃくりながらも、

少しずつ、呼吸が静かになっていく。


その変化を感じ取りながら、ライトは静かに告げた。


「龍鈴の声は……必ずみんなに届ける。

俺が……この世界中に伝えてみせる」

 

ライトは龍鈴の軽い身体からは想像のできないほどの大きな想いも、共に背負ったまま、夜空へと加速した。


――星々の下、ひとりじゃないと伝えるように。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ